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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第40回香港国際映画祭(HKIFF)レポート(2)韓国映画大人気『バッカス・レディ』と『突然変異』

2016-03-27 | 韓国映画

前の報告にも書きましたが、今回の映画祭では韓国映画がダントツの人気でした。プレミア上映部門の『バッカス・レディ』(2016)始め、韓国ではすでに公開された『突然変異』(2015)、そして日本で現在公開中の『インサイダーズ/内部者たち』(2015)も、いずれもすべての上映が満席となりました。もう1本、プレミア部門の特別上映にイム・グォンテク監督の昔の作品『シバジ』(1987/下の写真)も入っているのですが、それすらも売り切れで、韓国映画人気の高さには驚かされました。市中の映画館での韓国映画公開本数が一時よりも減っているようなので、そんなことも影響しているのかも知れません。


『バッカス・レディ』は、先日来ゲストとして何度もご紹介したユン・ヨジョンの主演作。バッカスは韓国で有名な栄養ドリンクだそうで、そのドリンクの小瓶やベッドインに必要な様々なモノを持ち、昼間の公園などで客引きをする女性たちを「バッカス・レディ」と呼ぶそうです。彼女たちは、ほとんどが50代、60代。中には80代の女性もいるそうで、昼間ヒマそうに散歩しているおじいちゃんたちがターゲットになります。実際に、ソウルの公園などにそういったバッカス・レディがたくさんいるとかで、多くは老年になっての生活苦からバッカス・レディになる人だとか。


主人公の65才になるソヨン(ユン・ヨジョン)も、家賃を払い、生活していくためにバッカス・レディとなっていますが、彼女は元々売春婦だったためコケティッシュで色気があり、古くからの顔なじみの顧客がいたりして、1回2~3万ウォンとはいえ結構稼いでいました。ところがある時、客から性病をうつされ、仕方なく医者にかかる羽目に。ソヨンが診察を終えて出ようとした時に、その医者のところへフィリピン女性がやってきて、医者をハサミでぶすりと刺してしまいます。どうやら彼女はその医者にだまされたことがわかり、談判に来たようでした。ソヨンがその場を離れようとすると、そのフィリピン女性の子供らしき男の子が逃げていく姿が目に入ります。しばらくしてその子を見つけたソヨンは、かわいそうに思い自宅に連れ帰ってきます。


ソヨンが部屋を借りている家には、ニューハーフのショーダンサーや、片足が不自由なため家でフィギュア作りをしている青年ドフン(ユン・ゲサン)、スーパーで働いているアフリカ人の若い女性らがいました。ソヨンは最初ドフンに男の子を預け、商売に出ますが、ドフンがいない時には男の子を連れてラブホに行ったりせねばならず、なかなかにやっかいです。でも、警察の手入れがあった時には、男の子を連れているとカモフラージュできて助かったことも。やがて、フィリピン人支援団体と連絡が取れ、ミンホという韓国名を持つ男の子は、母親と面会することもできました。ソヨンは、裁判が終わるまでミンホを預かると申し出て、母親に感謝されます。実はソヨンには、かつて別れた子供がいたのでした。


ミンホの件は何とか落ち着いたものの、今度はソヨンに昔の顧客がとんでもない頼みをしてくるようになります。老境に入り、生きていく希望をなくした彼らの願いに、ソヨンの心は揺れ動きます....。

老人問題、外国人現地妻問題など、韓国の現実をあぶり出しながら、ソヨンという老境に入った女性の生き様を描きます。老人問題の方はちょっと悲惨なというか危険なシーンが出てくるのですが、これの解釈は見る人によって意見が分かれることでしょう。それにしても、現実にこういう「バッカス・レディ」がいるとは驚きです。以前のイ・チャンドン監督作品『ポエトリー アグネスの詩』(2010)では、介護に通うヒロインが老人の性処理もするシーンが出てきましたが、老人の売買春までこんなに堂々と行われているとは。イ・ジェヨン監督は映画化に先立って綿密なリサーチを行なったようで、細部までリアルなため胸に迫ってきます。ソヨンら主人公たちのキャラクターがチャーミングなのが救いとなっていますが、少々つらい作品でした。イ・ジェヨン監督作品は、いつも痛みがつきまといますね。

続いては、シュールな『突然変異』のご紹介ですが、まずは予告編から見ていただきましょう。

COLLECTIVE INVENTION Trailer | Festival 2015

本作の主人公は、この魚男を取材しようとするテレビ局の見習い記者サンウォン(イ・チョニ)。魚男が大人気となり、彼をよく知る女性ジュジン(パク・ボヨン)の所に取材に行けとお尻を蹴飛ばされ、必死にいろいろ取材するうちに、「不都合な真実」が明らかになっていきます。魚男になってしまったのはジュジンの友人パク・ク(イ・グァンス)で、新薬の治験者となったら突然変異で頭が魚になってしまい、上半身にはウロコが生えることに。途方に暮れてジュジンの所に転がり込んだパク・クでしたが、彼の存在がわかると世間では”魚男”ブームとなり、一躍人気者になりました。ニセ者が出現するやら、グッズが売れまくるやらするのですが、やがて製薬会社が介入し、魚男の存在は危ういものになっていきます...。


”魚男”ブームから5年後、という所から話が始まり、今は中堅記者となっているサンウォンの所にジュジンが尋ねてきて、「魚男はやっぱりあなたに取材してもらいたがってるわよ。始末を付けるのはあなたの責任じゃない?」と言ってから過去へと話が戻っていくのですが、基本となるのはサンウォンの成長物語で、魚男はいわばその素材です。しかしながら、あまりにも魚男のインパクトが強いため、出現したとたんに観客のハートをわしづかみ。特に冒頭で紹介される魚男ブームの現象をコンパクトにまとめた映像は、それだけを繰り返し見たくなるほど秀逸。本題の部分は、製薬会社で新薬開発の中心となった博士や、パク・クの父親などが登場してストーリーが錯綜し、ちょっと混乱をきたします。


ただ、ラストはまた当初の快調さが戻って来て、大いに笑いながら心がほっこりとするこれまた秀逸なラストになっていました。というわけで、頭と尻尾がおいしい魚男映画なのでした。それにしてもインパクト抜群のこの魚男、CGかしらと思っていたら、YouTubeでメイキング映像を発見。イ・グァンス、大変な役作りだったんですねえ...。

Korean Movie ???? (Collective Invention, 2015) ??? ??? ?? (Fish-Mask Making Video)

1983年生まれのクォン・オグァン監督は、これまで短編映画を撮ってきてこれが長編映画第1作。脚本も担当していますが、ちょっともたつき気味なので、そのあたりが興行成績が伸びなかった原因かも。次回作に期待しましょう。

 

最後に、『インサイダーズ/内部者たち』のスチールも付けておきます。

このスチールにギョッとした方は、即お近くの上映館へ(日本の宣伝会社だと、ネタバレになるからと絶対にリリースしないスチールですね~)。拙ブログでのご紹介はこちら、日本の公式サイトはこちらです。

(スチールはすべてHKIFF提供)

 

 


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4 コメント

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どれも気になる~♪ (Jaan)
2016-03-28 21:42:08
cinetamaさん、お帰りなさい♪
花粉いっぱいの日本に戻られて、大丈夫しょうか?

「バッカス・レディ」「突然変異」どちらも日本で上映される予定はあるのでしょうか?どちらも観たい♪
バッカス・レディのこと、私も知りませんでした。
韓国でも老後大変な思いをされている方がいるのですね・・・。

「突然変異」は、CGでないところが人間味が感じられていいですね♪
魚男がどうなっていくのか、とても気になります~。

「インサイダース」そろそろ終わりですが、今度のレディースデイに観に行ってきます!
怖いもの見たさでドキドキですが、このスチールのシーンがどんなものなのか観てきます。
返信する
Jaan様 (cinetama)
2016-03-29 00:24:03
コメント、ありがとうございました。

花粉飛び交う日本、帰国して2日ほどは大丈夫だったのですが、やがてクシャミと鼻水の攻撃がひどくなり、ティシューを大量消費する毎日です。
今日は目もかゆくてかゆくて....。

『インサイダーズ』楽しんできて下さいね。
私はマスクでメガネを曇らせながら、明日から試写3連チャンです。
返信する
興奮冷めやらぬ♪ (Jaan)
2016-03-30 21:45:48
cinetamaさん、こんばんは。
インサイダース観てきました!

最後までハラハラ・ドキドキで、最後はスカッと気持ちいい終わり方で、面白かったです♪
スンウさん見たさで行ったのですが、ビョン様の演技が凄かったですU+203CU+FE0E

大満足・大興奮で、あっという間でした~

試写会の方は、どうでしたか?
最新アジア映画情報も楽しみにしてます♪
返信する
Jaan様 (cinetama)
2016-03-31 01:33:22
『インサイダーズ』へのコメント、ありがとうございました。

ラスト、いいですよね。
だから「インサイダーズ」というタイトルなのか、と、してやられた感があって、思わず拍手したくなりました。

私の試写の方は、上質の韓国映画と台湾映画でした。
間もなくご紹介できると思いますので、ちょっとお待ち下さいね。
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