おそらく、本年の韓国映画@日本ナンバーワンヒットになるであろう作品『怪しい彼女』が、いよいよ7月11日(金)から公開されます。2014年はすでに『7番房の奇跡』『新しき世界』『ミスターGO!』『観相師』等々、話題作、人気作がいっぱい公開されている韓国映画ですが、『怪しい彼女』のパワーの前には、囚人もヤクザもゴリラも観相師もカワユく見えること間違いなし。キャッチコピーは「突然、20歳(ハタチ)」。では、まずは基本データをどうぞ。
『怪しい彼女』 公式サイト
(2014年/韓国/125分/カラー)
監督:ファン・ドンヒョク
主演:シム・ウンギョン、ナ・ムニ、パク・イナン、ソン・ドンイル、イ・ジヌク、ジニョン(BIA4)
配給:CJ Entertainment Japan
※7月11日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほか 全国順次ロードショー
『怪しい彼女』の主人公は、70歳になるオ・マルスンおばあちゃん(ナ・ムニ)。でも、「おばあちゃん」なんて呼んだら100ぐらい罵り言葉が返ってきそうな、チョー元気者かつ口の悪い70歳です。若くして夫を亡くし、極貧の中で地べたをはいずるようにして一人息子のパン・ヒョンチョル(ソン・ドンイル)を育てた甲斐あって、ヒョンチョルは今や国立大学の教授様。その自信も裏打ちしてか、マルスンはヒョンチョルの嫁(エジャ)にも言いたい放題だし、孫娘のパン・ハナ(キム・スルギ)やその弟パン・ジハ(ジニョン)にもガミガミ言って、家族から煙たがられています。マルスンをかばってくれるのは昔彼女の家の使用人だったパク(パク・イナン)だけで、家族はついにマルスンをどこか施設に入れることを考え始めます。
(c)2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
そんなある日、「半地下(パン・ジハ)」というバンドをやっている孫のジハとその仲間に、何かご馳走してやろうと待ち合わせの場所に向かっていたマルスンは、途中で「青春写真館」という写真スタジオを見つけます。表のウィンドーに大好きだったオードリー・ヘップバーンの写真があったので、つい中に入ってしまったマルスン。遺影を撮りたいと言うマルスンに写真館の店主は、「私が50歳若くしてあげますよ」と言って写真をパチリ。するとあーら不思議、マルスンは50年前の自分、つまり20歳の頃に戻ってしまっていたのでした。孫のジハも、彼女を見ても誰だかわかりません。こうして、オ・ドゥリ(シム・ウンギョン)という別名を使って、マルスンは50年前の自分を生き始めます。
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ところが、外見は溌剌たる20歳なのに、しゃべり出すと中身は70歳のマルスンそのまま。若い声でトンでもないばあちゃん物言いと罵り言葉を連発するオ・ドゥリに、周りの人は目をシロクロ。正体がバレないのをいいことに、オ・ドゥリはパクの家に下宿し、再びの青春を謳歌し始めます。彼女が歌う昔のヒット曲を聞いたテレビ局のプロデューサー、ハン・スンウ(イ・ジヌク)は、彼女の声に惚れ込んでしまい、彼女をメインボーカルに迎えたジハのバンドはテレビ出演することに。こうして周囲に大嵐を巻き起こしていくオ・ドゥリでしたが、やがてパクが疑問を持ち始めます。さあ、「怪しい彼女」はいつまで周囲を欺すことができるのか....。
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本作の魅力は、何と言っても外見20歳/内面70歳のオ・ドゥリを演じるシム・ウンギョン。『サニー 永遠の仲間たち』 (2011)の時も元気のいい役でしたが、今回はそれに輪を掛けた元気のよすぎる役柄を、見事な演技力で演じています。実生活でもシム・ウンギョンは、今年の5月31日で20歳になったばかり。かわいい顔のその口から、「クソ食らえってんだ!」てな過激な言葉が飛び出すミスマッチがもうたまりません。おまけに元の韓国語は全羅道(チョルラド)の方言も入っているそうで、なまってもいるのだとか。それも含めて日本語字幕では上手に表現してあり、口元をゆがめて泡をとばさんばかりに吐き捨てるシム・ウンギョンの表情と相まって、何度も笑わせられてしまいます。久保直子さんという方の達者な日本語字幕には、拍手パチパチです。
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イケメン好きの方は、プロデューサー役のイ・ジヌク(上写真)のほか、ラストにアッと驚く人がゲスト出演していますのでお楽しみに。監督のファン・ドンヒョクは、コン・ユ主演の『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)や、ダニエル・ヘニー主演の『マイファーザー』(2007)を撮った人ですが、本作ではシリアス路線から180度転じてコメディ路線まっしぐら。とはいえ、老人問題、母と子のきずな、家族愛など今の社会で生きる人に訴えたいテーマもうまく盛り込んであり、さすが社会派映画を撮った監督だけある出来映えです。見終わったあとは、20歳の人も、70歳の人も、心が暖かくなることでしょう。
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もう一つこの映画の魅力を挙げておくと、劇中ではオ・ドゥリが何度か歌を歌うのですが、それがすべてシム・ウンギョン自身の声であること。1970年代の懐メロをしっとりと歌い上げる歌唱力は、素人とは思えません。プレスに掲載された秋月望明治学院大教授によると、「ロスに行けば」(1978)、「雨水」(1976)、「白い蝶」(1975)などが使われているそうで、今70歳前後の韓国人観客には、懐かしい思い出がいっぱい詰まった曲だったのでしょう。でもそういうことを知らなくても、シム・ウンギョンの歌は聞く人の胸を打ちます。
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「マルスン」という名前も、『愛してる、マルスンさん』(2005)という作品で聞き覚えがあったため、ちょっと調べてみました。ムン・ソリ主演で母と中学生の息子の生活を描いた『愛してる、マルスンさん』も、1970年代後半が舞台です。「マルスン」に関しては、「韓国で一番人気の名前は何?」という記事に、こう載っていました。
「女の子の場合、上からイルスン(一順)、イスン(二順)、サムスン(三順)……と続き、末っ子は「これが最後」という意味を込めて、マルスン(末順)と。」
なるほど、日本の昔の「留(とめ)」とか「末(すえ)」に当たる名前なんですね。『怪しい彼女』のマルスンさんは大きなお家の一人娘だったようですが、少々古臭い名前ということで監督が選んだのかも知れません。そんなマルスンとオ・ドゥリが、笑わせて、泣かせて、心に贈り物を残してくれるのが『怪しい彼女』。怪しい人も怪しくない人も(笑)、皆さんぜひご覧になってみて下さい。