アジア映画巡礼

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TIFFの予習:その3『金(かね)で買えないモノ』

2011-10-18 | 香港映画

東京国際映画祭(TIFF)開催まで、いよいよあと3日を残すのみとなりました。私は明日から、TIFFモードに突入です。え、明日から? と思われるでしょうが、実はプレスの人や関係者に向けての事前試写が10月17日(月)から始まっているんですね。主としてコンペ作品の試写で、それを見ておいて皆さん監督等の取材に供える、というわけです。中に何本か<アジアの風>部門の作品も入っているので、私は明日から見せていただくというスケジュールになっています。

で、その前に最後の予習を。今回は香港映画『金(かね)で買えないモノ』 (2010/原題:金不換/Cure)です。監督は葉剣峰(ビル・イップ)、主演はマカラ・スピナチャルーンとジラーラット・テーチャシープラサートです。そう、主演者の名前からもわかるように、香港映画ですが舞台はタイで、ほとんどの出演者がタイ人なんですね。香港とタイを繋ぐ人、といえば、両親がタイ華僑の陳可辛(ピーター・チャン)監督や、オキサイド・パン、ダニー・パンのパン双子兄弟監督がすぐ思い浮かびますが、またまたタイ・コネクション映画が出現したことになります。

ビル・イップ監督は、香港映画界で20年キャリアを積んできた人で、俳優、助監督、脚本家、プロデューサー補など、いろんな分野で映画に関わってきました。近年は大手広告会社の重鎮として勤務していたらしいのですが、8年ぶりに映画界に戻り、初監督したのがこの作品。それで、達者な部分と初々しい部分とがうまくミックスされた、こんな作品ができあがった、というわけなのでした。

3月の香港国際映画祭で見た時、最初に気に入ったのは主人公のサラリーマン風詐欺師プーを演じた男優さんでした。多分、マカラ・スピナチャルーンの方だと思うのですが、私好みのいい顔だったのです。今その時のメモを見てみたら、「ハンサム。頭が少々うすい」とありました(笑)。上の写真は香港国際映画祭の資料からのものですが、右の方が彼です。頭部分が切れているのは、決して意図したわけではありません(笑)。

映画は、この2人がにせ薬を田舎町の人々に売りつけるために、一芝居打つところから始まります。この薬、元はビタミン剤なのですが、2人の演技力で時には偽バイアグラ、時には偽毛はえ薬となって、面白いように売れていきます。年上の男ビック(写真左)はバンコクに妻と娘がいて、娘のほしい物を買ってやるのが彼の生き甲斐。2人はタイの地方をあちこち回り、調子よく詐欺を続けていくのですが、ある中国系の大金持ちと関わったことから思わぬ事態に....。

一種のロードムービーとも言え、ピッサヌロークやチェンマイなど、いろんな所が出てきます。面白いのは、冒頭のバンコクのシーンが、ちょうど昨年の騒動の真っ最中に撮られていること。中心部を占拠する市民、それに対峙する軍隊といった、当時の緊迫したバンコクの様子がそのままカメラに写り込んでいます。そこから始まるので、お話がやけにリアルに思えてくるのです。

途中ある事件が起きてプーは1人になってしまい、旅を続けては少々精神に異常を来している歌手や、ホテル勤めの若い女の子などと出会いながら、最後には自分の故郷へと帰っていきます。故郷とは言っても、彼の帰る所は実家ではなくて養護施設なのですが、故郷への橋(写真下)を渡る時、それまでの詐欺師アイテムだったブリーフケースを捨て、彼は昔のプーに戻って施設へと帰っていくのです。このラスト部分、甘いっちゃあ甘いんですが、それまでの二転三転するストーリーを経たあとではホッとすることも確か。こうやって思い返してみると、ずいぶん盛りだくさんな内容の映画でした。見ている時は面白くて引き込まれ、先の読めない展開を追いかけて行くことが楽しくて夢中だったのですが。

香港国際映画祭のカタログを見てみると、どうやらビル・イップ監督は最初別の映画を撮ろうとタイ南部でセットまで作っていたものの、その脚本がタイ当局によって「不可」とされて撮影許可が出ず、それでまったく別の映画を作り上げた、ということのようです。なるほど、行き当たりばったりの主人公たちの旅は、監督自身の姿を写したものでしたか。撮影はバンコクからビルマ(ミャンマー)までを2ヶ月間旅する過程で行われ、映画さながらの交通事故やビルマ軍との遭遇があった模様。計算された脚本では作れない、生々しい映像はそのおかげだったんですね。まさに、「金では買えないモノ」であり、「二度とは作れないモノ」のこの映画、映画を愛する皆さんにはオススメの作品です。

特に、タイ映画好き、タイ大好きの方はお見逃しなく。俳優たちは皆あまり有名な人ではないと思うのですが、それぞれのキャラがごく自然に演じられていて、それぞれいい味が出ています。香港×タイが見事に化学反応を起こしたフレッシュな作品ですので、「発見」がお好きな香港映画ファンの方もぜひどうぞ。

※印スチール:第35回香港国際映画祭の画像サイトより 

 


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