ちょうど1ヶ月前になるのですが、ちょっと素敵な美術館に行ってきました。「ヒンドゥー美術展-彫像と細密画」という展覧会を見るためです。まず、チラシをお見せしておきましょう。(ああ、折り線が入ってしまった! ごめんなさい)
石洞美術館は、足立区の千住大橋駅を降りて少し歩いた所にあります。このチラシの裏面に石洞美術館の写真が載っていて、「おお、何だか異世界みたい」と思ったのですが、千住大橋駅のホームから南を望むとその異世界の双子ビルがそびえていました。実はこの美術館、千住金属工業という会社のビルの中にあり、その千住金属工業のビルがこの双子ビルなのです。
ビルの写真は近くで撮ろうと思って行ったら大失敗、ちょっとわかりにくい写真になってますが、これが石洞美術館のある双子ビルです。正確に言うと、六角形の大きなビル2つが、やはり六角形の小さなビルによって繋がれている、という形です。この形で早くも私は、魅了されてしまいました。
石洞美術館は、手前側(西側)のビルの1階にあるのですが、その内部もまたユニーク。展示室の中にスロープがあり、それが2階部分へと繋がっているのです。このスロープの部分もうまく展示に組み込めるようになっており、今回は後述する古地図展示のほか、絵画のうち紙の表と裏に別々の絵が描かれているものが、スロープの登り口部分を使って両側から見られるようになっていました。何だか美術展で体内巡りをしているような感覚に襲われる、ゾクゾクするような美術館でした。
今回の美術展を知ったのは、インド史がご専門の辛島昇先生からのご案内でした。石洞美術館は千住金属工業の社長・会長だった佐藤千寿という方が設立した(財)美術工藝振興佐藤基金という所が運営しているのですが、この佐藤千寿氏は辛島先生の叔父様にあたられるそうで、佐藤千寿氏のインド美術コレクションが始まったのも、昔辛島先生がインドに留学しておられた頃に佐藤千寿氏が訪問されたのがきっかけだったとか。その後佐藤千寿氏はインド亜大陸各地でたくさんの美術品を収集され、その充実したコレクションのうち、ヒンドゥー美術関係のものが今回展示された、というわけなのでした。
今回の展示では、石像、ブロンズ像、テラコッタの彫像などと共に、細密画もたくさん展示されています。上のチラシ写真にあるような彫像類も迫力があって素晴らしかったのですが、私が面白いと思ったのは細密画、特に描きかけの細密画が展示されていたことでした。普通細密画というと、これまたチラシの写真にあるような、画面の枠いっぱいに色彩が施されて、細部までかっちりと完成した作品が思い浮かびます。ところが今回は、ラフスケッチにちょっと彩色しただけ、という感じの細密画が何点か展示されていたのでした。たとえば、こんな感じです。
細密画「王妃に王のもとにゆくよう奨める侍女」(写真提供:石洞美術館)
この「王妃に王のもとにゆくよう奨める侍女」のほか、何点かの細密画も同じようなスタイルで、その伸びやかな線に目を奪われてしまいました。この絵は完成すると、あのかっちりした細密画になるはずだったのでしょうか。それとも、構図を決める下絵として描かれたものでしょうか。それともそれとも、画家の息抜きの手すさびで? 見ているといろんな想像がふくらんできて、あっちを見たり、またこっちに戻ったりと、たまたま他の見学者がいなかったこともあって、のびのびとヒンドゥー美術を堪能してきました。
今回の美術展には、ヒンドゥー美術のほかに、16・17世紀にヨーロッパで製作された南アジアの地図も展示されています。それがちょうどスロープ部分に展示されているのですが、順番に見ていくと、南アジア世界が徐々に正確にヨーロッパ人に認知されていく様子がよくわかって、これまた興味深い展示になっていました。航空写真など撮れなかった時代にしては、結構正確に描いてあるなあ、とか、こちらも見ていると飽きません。私は地図も好きで、昔台湾で出ていた台湾古地図絵はがきのコレクション(というほど大げさなものではなくてたった数枚なんですが....)も持っているため、この古地図の展示もとっても面白かったです。
最後になりましたが、「ヒンドゥー美術展」の詳細を書いておきます。
「ヒンドゥー美術展-彫像と細密画」
期間:2011年9月3日(土)~12月18日(日)/月曜日休館
時間:午前10時-午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般500円/学生300円
場所:財団法人美術工藝振興佐藤基金 石洞美術館 公式サイト
120-0038 足立区千住橋戸町23番地 TEL:03-3888-7520
(京成線「千住大橋」駅より徒歩3分)
<ギャラリートーク>
11月5日(土)午後2時より 応地利明氏(京都大学名誉教授)~古地図について
11月19日(土)午後2時より 小西正捷氏(立教大学名誉教授)
夏にご紹介した「ミン ウォン展」の原美術館といい、東京の美術館は建物自体が個性的な所が多いですね。私が行った1ヶ月前はものすごく暑い日で、石洞美術館の回りをウロウロする元気もなく帰ってきてしまったのですが、ちょっと行くと隅田川になっていて、千住大橋があるようです。下町散歩も兼ねて、気候がいい間にぜひどうぞ~。