アジア映画巡礼

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<香港国際映画祭報告:2>インド映画の注目新人監督

2014-04-03 | インド映画

今回は、インド映画のアート系作品を1本見ました。『モンスーン銃撃戦(Monsoon Shootout)』です。監督はアミト(日本人には、「アミット」と書いた方が読みやすいかも知れませんね)・クマール、主演はヴィジャイ・ヴァルマー(下写真)、ナワーズッディーン・シッディーキー、タニシュター・チャテルジーらで、昨年のカンヌ国際映画祭でも上映された作品です。

中国語題名が「三岔路」となっていて、以前郭富城(アーロン・クォック)、鄭伊健(イーキン・チェン)、呉彦祖(ダニエル・ウー)という豪華顔合わせで作られた香港映画『ディバージェンス -運命の交差点-』 (2005)の原題「三岔口」を思い出してしまいました。これは京劇等の演目「三岔口」を下敷きにしており、三叉路にある宿屋で3人の登場人物たちが闇の中、手探りで相手を捉えようとする、という内容に、アーロンら3人が互いに疑心暗鬼になっている様を投影しています。

「三岔路」の方はそれとはちょっと違い、物語がいくつものヴァージョンで語られるためにこういう中国語題名が付けられたもののようです。『モンスーン銃撃戦』は、新米警官アディ(ヴィジャイ・ヴァルマー)が上司カーン警部と共に殺人犯のシヴァ(ナワーズッディーン・シッディーキー/上写真)を捕らえようと張り込みますが、アディがシヴァを追って線路際まで追いつめた時....という形で、そこからいくつもの違ったストーリーが展開していくものです。

あるヴァージョンでは、シヴァは極悪人となり、あるヴァージョンでは死んでしまったシヴァは、家族思いのごく普通の男になります。あるヴァージョンでは、上司のカーン警部は殺され、またあるヴァージョンでは、悪の一味に手を貸してしたたかに生きていく男となります。そんな風に、一筋縄では行かない人間と人生の、ありとあらゆる可能性を描き出してくれるのが『モンスーン銃撃戦』です。上の写真はアディの恋人ですが、彼女とアディの間の物語も錯綜していきます。

見終わると頭がこんぐらかるような作品でしたが、その都度ねじ曲がる物語を驚きを持って見ることができ、とても刺激的な作品ではありました。それもそのはず、監督のアミト・クマールは、以前短編映画ながら、『バイパス(Bypass)』 (2003)という傑作を撮っているのです。ナワーズッディーン・シッディーキーとイルファーン・カーンが主演するこの短編は、こちらで見ることができます。すごい監督だなあ、長篇は撮らないのかしら、と思っていたら、こんな凝った作品を作ったアミト・クマール。アヌラーグ・カシャプ監督が製作を引き受けているので、「カシャプ組」の1人として、将来も活躍が期待できそうです。

 

上の写真はナワーズッディーン・シッディーキーですが、彼は今やアート系作品に引っ張りだこですね。シヴァが手に持っている斧ですが、本作でも、そして『バイパス』でも重要な役割をするので、アミト・クマール監督は、ナワーズッディーン・シッディーキーと斧、という組み合わせにこだわっているのかも知れません。作品の一部がこちらで見られます。

ナワーズッディーン・シッディーキーの出演作は、日本でも間もなく『ランチボックス(原題)』が公開されますのでお楽しみに。そうそう、こちらの「アジアン・クロッシング」の記事で知ったのですが、3月27日にマカオで行われた<アジアン・フィルム・アワード>で、『ランチボックス』のイルファーン・カーンが主演男優賞を獲っています。今回は、帰国する日の夜、しかもマカオでの授賞式ということで<アジアン・フィルム・アワード>とは全然ご縁がなく、残念でした。

実はインド映画はもう1本プログラムに入っていて、それがどうしても見たかったのですが、プレビュー用のDVDが存在せず、また滞在中に上映もなくて見られませんでした。インド=カナダ合作の『シッダールト(Siddharth)』(上写真)です。監督はリチー・メーヘター、出演はラージェーシュ・タイラング、タニシュター・チャテルジーなど。予告編はこちらです。

デリー南部で路上の小商いをしている主人公が、いなくなった12歳の息子を捜す旅に出る、というストーリーらしく、インドの貧困や児童労働などを盛り込んだ社会派風味の作品のようです。『モンスーン銃撃戦』でシヴァの妻を演じていたタニシュター・チャテルジーが、こちらでも主人公の妻を演じているようです。昨年の東京国際映画祭で上映された『祈りの雨』 (2013)でも、主人公の労働者の妻役を演じていましたね。その前、2009年のTIFFで上映された『ロード、ムービー』では、主人公役のアバイ・デオルと共に移動映画館の車に乗り込む村娘を演じていましたし、彼女もまた、芸術系作品に引っ張りだこ、という女優さんです。

『モンスーン銃撃戦』『シッダールト』、日本のどこかの映画祭で上映されることを願っています。FILMeXの皆様、いかがでしょうか?

*スチールはすべて、香港国際映画祭から提供を受けたものです。

 

 


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