その昔この広い北海道は私達の祖先の自由の天地でした。深雪をけって熊を狩り、夏の海に小舟を浮かべ魚を獲り、天真爛漫な稚児の如く 美しい大自然に抱擁され…とあるのは、知里幸恵さんの「アイヌ神謡集」序文の一部要約です。(大正十一年三月一日と記されています)
アイヌの人達が語り継いできた抒情詩ユーカラ、それを初めてローマ字表記に起し、和文に訳偏したのが知里幸恵さんなのはご存じの通りですが、あまり内容も彼女の事も分かって無いな、と思っていた所にタイミング良く講演会があり参加して来ました。
知里幸恵さんは登別の生まれで夭逝しとぼんやり覚えていましたが、旭川の叔母と暮らしお婆さんが添い寝し歌ってくれたユーカラが、この神謡集に軸になっているとの藤村久和氏の話になるほど、旭川時代が彼女を育てたのかと今更ながらですが。
後半に入りムックリの演奏を聴かせてくれたのは川上さやかさん。彼女はムックリやユカラを学びアイヌ芸能奏者として活動し、ウポポイでも活躍されているそうです。
最初の曲は森の中の散歩をイメージした曲だそうで、そんな感じが目に浮かんで来ます。と同時にモンゴルのホーミーにも似て、草原を渡る風も感じさせてくれます。
この楽器、音程も無くビョン~ミョンと響くだけの玩具に近いもの…というのが私の持っていた貧しいイメージでしたが、多彩なイメージの広がる音は唇の形を変えたり、もしかして声も出しながら演奏しているのかも知れません。
こうして口を楽器として使うのは、口琴として世界中に類似の楽器が多くあり、ホーミーもその分類の楽器と知って、道理で似ているわけだと不勉強を反省。
2曲目は金属のムックリで演奏。これは埼玉で見つかった平安時代のものを復元したそうで、今は途絶えていますがその昔は和人も演奏していたそうです。
3曲目は竹製のムックリ。その昔は根曲り竹を使ったそうですが、交易が盛んになり和人の船乗りは水を孟宗竹に詰め、用済みとなった筒が捨てられ浜辺にたどり着く、それを利用するようになったのだそうです。これまた初めて知りました。
演奏のテーマは水が山から湧き出して小川となり、流れが合流して大河となり海に注ぐ。スメタナのモルダウと同じ情景ですが、ムックリで流れて行く様もとても素敵でした。
最後にアイヌ神謡集から"蛙が自ら歌った謡"を題材に、言葉の意味や並び順の解説。
ここでまさかのワークショップ。
みんなでこの歌を歌う羽目になり、人前で声を出す(?)のは何年振りかなぁ… でも確かに理解は深まり、リピートする「トーロロハンロク ハンロク」はすっかり耳に残っています。
ユーカラの輪に参加するという貴重な体験を通じ、もっとアイヌ文化を知らなくてはと反省。そしてコミックや映画を通じ、そんな人が増えてくると嬉しいなと。