70年代後半にソロ・デビューし、「ささやく夜」や「麗しの人」などのアルバムで、ギュッと心を鷲づかみにしてくれてたカーラ・ボノフ。
ジワッと滲みて来るシンガーの一人で私は好きです。派手さは無く、少しくぐもって聞こえますが、乳白色 (?) で誠実さを感じさせる温かな声。声に似合った 楚々としたいずまいも、とても好ましく感じます。
私のお気に入りの1曲は、アルバム「ささやく夜」のラストの「悲しみの水辺」。「河は広く渡しも渡れない 飛ぶ羽も無い二人にボートを下さい (中略) この恋に沈みそうな私 そして私には泳ぐ術もない」という歌詞は、何かの例えなのかは分かりませんが。
アルバムの最後が引き締まり、レコードを止めるのも忘れて余韻に浸りたいような名唱。
後半から出て来るガース・ハドソンのアコーディオンや、バックのジェームス・テイラーの歌声がカーラの歌をそっと包み込み、繰り返しますが、とても感動的な仕上がりで大好きです。素晴らしい!
この曲は元はスコットランド民謡だそうで、明治期には「庭の千草」などと並び、日本にも紹介されていたらしいのですが、適当な歌詞が付かなかったのか?、日本で知る人は少なかったみたいです。私も彼女の歌で知りました。
ただアメリカのフォーク界では知られていたようで、50年代にはウィーバーズが歌い、60年代に入りピーター・ポール&マリーが「There is a ship」のタイトルで。シーカーズは原題の「The Water Is Wide」で、歌うのはキース・ボトガー。個人的にはジュディス・ダーラムの歌で聞きたかった。もう聞くことは出来ないけれど。
日本人では伊東ゆかりが「二人の小舟」の題で。白鳥英美子はPP&Mと同じ「There is a ship」の題で歌っていました。二人の歌声はこの曲のイメージや、カーラ・ボノフの歌にも通じる穏やかだけど、芯に秘めた感じがして好きです。
2000年代に入り朝ドラの中でも歌われたらしいです。ウィスキー作りの情熱にほだされ、嫁いできた英国の女性がドラマの中で口ずさみ、遠く離れた故郷と重ね合わせ共感を呼んだという話もあり、「広い河の岸辺」の題でも知られるようになったみたいです。
余談ですがこの曲、ザ・バーズの「Lay Down Your Weary Tune」と似ている気がして調べると、作者のB.ディランは、J.バエズの所で聞いたSPレコードヒントに、この曲を書いたと言われます。
海はオルガンの様に荒れ 海藻が巻き立往生させる などの歌詞も似ていて、「The Water is Wide」や、同じルーツと言われる「O Waly Waly」などがヒントみたいですが、古い曲を辿れば少しずつ物事が解けてゆく。私が呆ける前に知り得る事がまだどれ位あるのやら。
今日はカーラ・ボノフの誕生日です。
1951年生れと私とほぼ同年代のカーラ・ボノフさん、これからもお元気でご活躍下さい。いつ頃の映像か不明ですが、ケイト・ウルフの伴奏者として名をあげた女性ギタリスト、ニーナ・ガーバーをバックにした彼女のライブも良かったので ⇒ 「The Water Is Wide」
以上、【聞きたい365日】 第390話でした。