冬の山荘。下界との断絶。殺人事件。
現状把握に必要な単語は三つか。
僕は事件発覚後20秒で呼吸を整え、単語で現実を整理した。
そう、殺人事件だ。多分。
目の前にあるのはバラバラ死体。
超常現象より人為の介在を疑った方が確率は高い。
確率が高い方が正しいというのは幻想だけど
この案件において僕は「殺人事件」だと決め付ける。
うん、可能性を断定する。
それは覚悟の選択。
僕がこの先、実は幽体離脱した切り裂きジャックの仕業であることを誤認して
その結果、脳漿を縦に割られ西瓜のように死んでしまっても、仕方ないと割り切る、そういう選択。
あぁ戯言が長くなった。自己紹介もまだなのに。
僕はこの物語の探偵役を努められる人間の一人。
けどこれは別に殺人事件の現場に居合わせた男子学生が劇画の読みすぎで自己倒錯し
「この事件を解決出来るのは自分しかいない」なんて寒いことを考えてる訳では、決してない。
探偵役は犯人に出来ない。
そう、単純に犯人ではない。だからこの場にいる犯人以外の人間は今現在の所「探偵候補」の役割を割り振られる事になる。
まぁ、その。選択と成り行きによっては、この役割は「第二の犠牲者」とか「模倣犯」とかになりえるのだけれど。
ともかく僕は探偵。そういう役割をこの隔絶環境の中では自称することにしよう。
――以後お見知りおきを。
君達にとって僕の存在は重要だ。
僕は今、現在用意されている唯一の安全な視点。
現在8人生きている人間のいるこのペンションで保障された唯一の犯人外の人間。
いやまぁ、犯人が単独犯であった場合、確かに7人の「犯人外の人間」が存在する訳だけど。
問題は誰が犯人なのか分からないということだ。
単独犯を仮定した場合、6分の5の確率で君達は僕以外の安全な視点を得ることが出来る。
だけどそれはシュレディンガーの猫。
真実という箱が開かれるまでは全ての人間は「半分犯人であり半分犯人ではない」状態に置かれる。
例え6分の1という不純物であっても、それはノイズ。
代入出来ない要素が紛れ込めば複数の情報は逆に障害になる。
情報、それ自体を疑い始めれば推理の収拾はつかなくなる。
6人の「半分真実であり半分嘘である」情報よりも
たった1人の「絶対に真実である情報」を、賢者は望むと僕は、思う。
ほら、こう戯言を吐くと僕の存在が貴重に思えてこないかい?
え、何でお前は犯人から除外されているのかって?
それは簡単だよ。僕は誰も殺していないから。
―――。信用出来ないって顔だねぇ。
うん、無理もない。
君達から見れば僕もまた「半分真実であり半分虚偽」のキャラクターだから。
だけど僕は殺していない。
僕はまだ誰が犯人かは分からないけど、僕だけは犯人でないことを知っている。
だけど君達は知らない。
君達は僕ではないから。
だから信頼が必要になる。
そう、どうか僕を信じて欲しい。
人は自分以外のものは決して本当の意味で知ることは出来ず。
だから、頼りなげに差し伸べられた手を掴んで。
善意と悪意を兼ね備えた声を都合良く解釈して、信頼していく。
さぁ、選択の時だ。
僕を信頼して欲しい。
もし僕が犯人ならば。
君達はこれより先、虚偽で固められたモノローグを聞き続けることになる。
僕は僕を糾弾する声を、「犯人」の罠だと君達に語るだろう。
僕は君達に犯人は捕まり、無事に下山したというエンディングを用意して。
黙々と殺人行為を行うかもしれない。
だから、これが大前提。
僕を信じること。
僕の五感を通した情報を、信頼すること。
それがこの物語の開始条件だ。
。
ありがとう。
君達は半信半疑かもしれない。
今ここで為された頷きと同意は、信頼ではなく妥協や勘や気まぐれに過ぎないかもしれない。
それでも僕は君達に言おう。
ありがとう、と。
さぁ、物語を始めよう。
惨劇はここに舞い降りた。
現状把握に必要な単語は三つか。
僕は事件発覚後20秒で呼吸を整え、単語で現実を整理した。
そう、殺人事件だ。多分。
目の前にあるのはバラバラ死体。
超常現象より人為の介在を疑った方が確率は高い。
確率が高い方が正しいというのは幻想だけど
この案件において僕は「殺人事件」だと決め付ける。
うん、可能性を断定する。
それは覚悟の選択。
僕がこの先、実は幽体離脱した切り裂きジャックの仕業であることを誤認して
その結果、脳漿を縦に割られ西瓜のように死んでしまっても、仕方ないと割り切る、そういう選択。
あぁ戯言が長くなった。自己紹介もまだなのに。
僕はこの物語の探偵役を努められる人間の一人。
けどこれは別に殺人事件の現場に居合わせた男子学生が劇画の読みすぎで自己倒錯し
「この事件を解決出来るのは自分しかいない」なんて寒いことを考えてる訳では、決してない。
探偵役は犯人に出来ない。
そう、単純に犯人ではない。だからこの場にいる犯人以外の人間は今現在の所「探偵候補」の役割を割り振られる事になる。
まぁ、その。選択と成り行きによっては、この役割は「第二の犠牲者」とか「模倣犯」とかになりえるのだけれど。
ともかく僕は探偵。そういう役割をこの隔絶環境の中では自称することにしよう。
――以後お見知りおきを。
君達にとって僕の存在は重要だ。
僕は今、現在用意されている唯一の安全な視点。
現在8人生きている人間のいるこのペンションで保障された唯一の犯人外の人間。
いやまぁ、犯人が単独犯であった場合、確かに7人の「犯人外の人間」が存在する訳だけど。
問題は誰が犯人なのか分からないということだ。
単独犯を仮定した場合、6分の5の確率で君達は僕以外の安全な視点を得ることが出来る。
だけどそれはシュレディンガーの猫。
真実という箱が開かれるまでは全ての人間は「半分犯人であり半分犯人ではない」状態に置かれる。
例え6分の1という不純物であっても、それはノイズ。
代入出来ない要素が紛れ込めば複数の情報は逆に障害になる。
情報、それ自体を疑い始めれば推理の収拾はつかなくなる。
6人の「半分真実であり半分嘘である」情報よりも
たった1人の「絶対に真実である情報」を、賢者は望むと僕は、思う。
ほら、こう戯言を吐くと僕の存在が貴重に思えてこないかい?
え、何でお前は犯人から除外されているのかって?
それは簡単だよ。僕は誰も殺していないから。
―――。信用出来ないって顔だねぇ。
うん、無理もない。
君達から見れば僕もまた「半分真実であり半分虚偽」のキャラクターだから。
だけど僕は殺していない。
僕はまだ誰が犯人かは分からないけど、僕だけは犯人でないことを知っている。
だけど君達は知らない。
君達は僕ではないから。
だから信頼が必要になる。
そう、どうか僕を信じて欲しい。
人は自分以外のものは決して本当の意味で知ることは出来ず。
だから、頼りなげに差し伸べられた手を掴んで。
善意と悪意を兼ね備えた声を都合良く解釈して、信頼していく。
さぁ、選択の時だ。
僕を信頼して欲しい。
もし僕が犯人ならば。
君達はこれより先、虚偽で固められたモノローグを聞き続けることになる。
僕は僕を糾弾する声を、「犯人」の罠だと君達に語るだろう。
僕は君達に犯人は捕まり、無事に下山したというエンディングを用意して。
黙々と殺人行為を行うかもしれない。
だから、これが大前提。
僕を信じること。
僕の五感を通した情報を、信頼すること。
それがこの物語の開始条件だ。
。
ありがとう。
君達は半信半疑かもしれない。
今ここで為された頷きと同意は、信頼ではなく妥協や勘や気まぐれに過ぎないかもしれない。
それでも僕は君達に言おう。
ありがとう、と。
さぁ、物語を始めよう。
惨劇はここに舞い降りた。