『電波的な彼女』 片山 憲太郎 スーパーダッシュ文庫 ¥ 660
祖母が市民レクレーションのウルトラクイズでベスト8という微妙なポジションで入手した図書券500円。
これがなければ買わなかったであろう作品です。
最初に評価を下しちゃうと『とても面白い』
タイトルと帯の『柔沢ジュウ 前世の記憶はまだない』の殺し文句で買ったんですが思いのほかの傑作。
砂蜥蜴は現実と空想、二者択一なら普通に後者を選ぶタイプの人間なんですがこの作品は舞台設定を現代にして
超能力者も秘密結社も超科学も出てこないのに私の心を魅せてくれました。
ライトノベルの「軽い文章」というより「読みやすい文章」とテンポのいい展開も良いですが最大の魅力はヒロインの扱いでしょう。
電波系という致命的な属性を上手く料理して魅力的な存在にしています。
「我が身はあなたの領土。我が心はあなたの奴隷。我が王、柔沢ジュウ様。あなたに永遠の忠誠を誓います」
なんて文章が出てきたときはギャグテイストな話だなと思いましたがさにあらず。
ヒロインの電波少女、堕花雨は聡明に前世を信じる人間です。
頭脳も明晰だし思考の組み立ても論理的、ただ電波なだけな女の子なんです。
主人公の柔沢ジュウは普通の不良(?)
現実的で人並みに斜に世の中を見ながら生きてる人です。
個人的にこういうキャラとはシンクロ率が高くていい感じに感情移入できました。
表題だと二人は恋人みたいな印象を持ちますが作中での関係は『異なる価値観を持った友人』という関係。
まぁ堕花雨にとっては『王と従者』な訳ですが主人公から見たらそういう関係です。
甘くなく、たまに意識はするものの基本はビター。奇妙な縁と奇妙な信頼関係。
砂蜥蜴はこういうのが大好きです。同級生の如月美夜との掛け合いも面白いです。グツドグットグッド!!?
お話の軸になるのは連続殺人事件。
世の中の殺人事件に求める『魅力』やら殺人者の思考やらと色々興味深く書かれています。
印象的な言葉を一つ。
『どんな理不尽なものではあれ、何かしらの理由はあるものです。
怒りという感情は、相当に疲れますから。理由もなく怒るのは無理ですよ』
電波なのに冷静に分析しています。
頭いいんですよね。この子の犯罪者と犯罪に関する考察もこの小説の魅力です。
欠点があるとすればそこそこ勘の働く人なら黒幕が50ページ程読んだ辺りで分かってしまう点。
別にミステリーやトリック云々の話ではないのでそれ程マイナスではないですけどね。
犯人を分かったのも砂蜥蜴は捻くれてるからかもしれませんし(座右の銘は『いい人は疑え』です』
そんな訳で皆さん買いましょう。
各所でも好評のようですがやはり新人。そしてスーパーダッシュ文庫(砂蜥蜴的にはマイナーなイメージがあります)
次回作が出てくれないと悲しいのでこの感想を読んで1ミリでも気になった人はそれを無限大に増幅させて書店へGoです!!