「ウィキペディアにギムレットの正しいレシピというのが載ってるけど、あれは嘘よ」とイチ子さんが言う。
「正しくはゴードンのドライジンにローズのライム・ジュースを加えて作るんだけど、ウィキにはローズのジュースは甘いって書いてあるのよ。でもね、ローズには、甘くないフレッシュ・ジュースもあって、正しくはそっちを使うから、ギムレットは甘いカクテルではないの。ヘルメスがライムの香りのガム・シロップを出してるから、それとの混同があるみたい」
「実際にそのローズっていう会社のライム・ジュースを輸入して飲んでみたら一目瞭然だよね」とぼく。
「いい質問です。ところが、日本では禁止の添加物が入ってるっていうんで輸入できないらしいの。だから、例えば、近場なら香港あたりのバーにでも行って飲まないと無理ね」
「なら、なんできみが知ってるの?」
「へへへ、昔、米軍の基地のバーでアルバイトしていた友達がいて、実はある日、そのローズを持ち出したのよ。勿論、出るときにゲートで持ち物検査があるからボトルごとは無理よ。緑茶かなんかの小さなペットボトルに移し替えて持ち出してくれたの」
「ふーん。それで、そのローズのライム・ジュースで作った本物のギムレットってどんな味だった?」
イチ子さんは、鼻にちょっと皺を寄せて短く笑う。
「味を言葉で説明するなんて、そんな難しいことはさせないで」
***
あれ以来、外国を旅することのないぼくにとって、本物のギムレットを飲む機会は、いまだやって来ない。
【The Blue Margarets / Eight Days A Week】
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