古くは代々村長を務めた家系だという。
今は民宿を営むその家の門構えは、島で、ひと際重厚な趣があった。
本来、魔除けが目的という屏風(ひんぷん)を正面に見て、両側がガジュマルの大木、石垣に沿って雑草のようなアカバナーの群生があり、夏から秋にかけ、それらが白砂を敷き詰めた小道に濃い影を落として燃えるように咲くのに出会えば、ここが日本ではなく、どこか遠い、もっと南方の異国にいるかのような夢も見られたに違いない。
宿の古老の話す、ガジュマルの古木に住む妖怪マーザ・カムラーマ(キジムナー)のことなどに旅人たちが耳を傾けたのは、あちらこちらの民宿の晩餐の席から、やおら三線の音も聴こえてこようという、琉球の小島の夏の宵が始まろうという頃のこと。
*
チャンプルーと泡盛とカチャーシーに縁取られたこの夜の感動が、旅人たちのさらなる南の島影への熱い想いに変わるのを、わたしは、赤いハイビスカスが花開くのを見つめるように、ひとり、じっと待ち続ける旅の夜であった。
Dana Winner / There's A Kind Of Hush
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