日常性と非日常性の融合から生じるナンセンスな混乱劇を意匠とし、強大無比の破壊力を内包した笑いをスリリングな瞬発力で構築することにより、後の『天才バカボン』の先鞭を付けることとなったのが、「冒険王」に長期連載された『メチャクチャ№1』(64年1月号~65年3月号、7月号~12月号、67年1月号~9月号他)だ。
『メチャクチャ№1』の主人公・ボケ男は、年がら年中かすり着物を着ているバカボンの原型となった子供のキャラクターであり、人語を喋る飼い猫のトラちゃんは、勝ち気で一本気な性格を含め、後の『もーれつア太郎』でブレイクするニャロメの原点と言えるだろう。
ボケ男のキャラクターそのものは、お人好しで、何処か間の抜けた落語の与太郎的な少年だが、口の形が自由自在に変形する造形で、→型になったり、?型になったり、はたまた☆型になったりと、キャラクターデザイン自体に、一種の落書き的なナンセンス感覚が横溢している。
『メチャクチャ№1』というタイトルにシンボライズされているように、突拍子もない奇想天外なアイデアが全編に渡って貫かれており、回を重ねるごとにその作風は、既成のギャグ漫画のスタイルにはない、発想の飛躍に展開を委ねた不条理な笑いを弾き出してゆく。
ボケ男が徒競走で一等賞を取るために、大きくなるスプレーを足に掛けると、ビルよりも大きな体へと巨大化し、大怪獣の如く街を破壊する「ドヒャ~とでかくなる薬」(65年10月号)や、弾力星なる惑星からやって来た、スーパーボールのような弾力に富む地球外生命体の子供とアチャラカ劇を繰り広げる「弾力星からきたよん」(65年2月号)など、アトランダムな発想から沸き上がったアイデアを全て画稿に絵として変換し、インプロビゼーション的に物語を進行してゆく作劇方法に徹底しているため、当時としては、読者の中枢神経を揺さ振るかのような、常識の枠組みを打ち砕く八方破れなギャグが必然的に連打されている。
やがて、ボケ男が住む横町の空き地から、砂漠や無人島、果ては人魚のいる竜宮城の世界や恐竜が蠢く石器時代にタイムスリップするなど、ドラマの舞台は超常の世界へとスライドしてゆく。
ボケ男が行く先々の特異な風景で遭遇する珍妙なキャラクター達とのてんやわんやの顛末や、常識では計り知れない世にも不思議な体験に支えられたその物語は、時には無邪気な笑いに包まれ、またはシニカルであり、各エピソードにアダプトされたユーモアの解体と脱構築の間を反復するナンセンスの炸裂に至っては、常に新鮮な笑いを読者に与える十分な根拠になり得ている。
既に 『天才バカボン』と並行連載され、このように、ひたすら渇いた笑いを追求した後期の作風に関しては、何処か、夢の中の世界を漂っているかのような浮遊感とアンリーゾナブルな殺伐感が未分化に具現化した前衛的ムードさえも含有し、更に突き詰めて言うならば、後にシュールレアリズムの世界観を唱導し、赤塚ナンセンスの臨界点と目される『レッツラゴン』、『少年フライデー』といったシリーズの先駆けとなったと言っても、差し支えないだろう。