文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

時代錯誤な前近代型ヤクザ シュコロのブタ松

2020-06-15 07:46:41 | 第4章

組員に逃げられ、一家は解散。その再建を図るべく、喧嘩の強いデコッ八を子分としてスカウトするも、逆にデコッ八の威勢の良さに惚れ込み、そのままデコッ八の押し掛け子分となったのが、シュコロのブタ松である。

シュコロの通称は、当時、クレージー・キャッツの桜井センリを起用し、評判を呼んでいたCMのフレーズ「シュコロ、イチコロ、キンチョール」から拝借したものだ。

敵対関係にあったサイケ一家にかつての子分達を取られたブタ松は、そのサイケ一家から対決を迫られていた。

そんな時、ア太郎とちょっとした感情の行き違いから大喧嘩となり、八百×を出て行ってしまったデコッ八は、自暴自棄から、たまたま知り合ったブタ松と親分子分の盃を交わし、ブタ松一家に草鞋を脱ぐことになる。

元来気が弱く、サイケ一家の挑発に怖じ気付くブタ松を余所に、たった一人でサイケ一家をコテンパンにのしてしまうデコッ八。

それまでの立場が逆転し、今度はデコッ八がブタ松に親分として担ぎ上げられる。

成り行き上、ブタ松の大親分、親分となったア太郎とデコッ八は、多角経営の一環として、ブタ松を使って養豚場の事業管理を始めるが、ブタ松がブタを一家の組員として扱い出したため、ア太郎とデコッ八の養豚場運営の計画は、結局のところ頓挫してしまう。


男の中の男 義理と人情のデコッ八

2020-06-15 03:12:09 | 第4章

曲がったことがとにかく嫌いで、喧嘩も強く、男気溢れる熱血漢のデコッ八は、地方出身者でありながらも、親分のア太郎以上に江戸っ子気質を体現した、ある意味直情径行に過ぎた感もある少年だ。

その真っ正直な性格故に、己の正しき信念を貫くデコッ八は、人の道から外れたことをすれば、敬愛する親分のア太郎にさえ、喝として拳を振り上げることも辞さない。

そんなデコッ八の気質を端的に表したエピソードが、後に登場する猫のニャロメがデコッ八の男心に惚れ慕う切っ掛けを描いた「デコッ八の男ごころ」(70年2号)である。

イカサマ賭博を重ね、ニャロメをからかって遊んでいたア太郎だったが、ふとしたことで、賭けに負けたア太郎は、負けたら自分を殴っても構わないというニャロメとの約束を破ってしまう。

その悔しさから、デコッ八に抗議するニャロメ。

真偽を確かめるべく、ニャロメとともにア太郎に詰め寄るデコッ八だったが、「おれとニャロメとどっちを信用するんだ?」と開き直ったその態度に、怒りを爆発させ、ア太郎に拳をぶつける。

また、正しきを尊ぶその熱い生き様に触れ、ひねくれ者や悪ガキが改心してゆくエピソードも、デコッ八を主役にした回には数多くある。

中でも特筆すべきは、ア太郎版『走れメロス』(太宰治)とも言える「義理と人情のデコッ八」(69年10号)だ。

配達の帰り、子供達の喧嘩の仲裁に入ったデコッ八は、そこで喧嘩の原因となった悪ガキ・テルに気に入られるが、デコッ八もまた、意地っ張りでガッツのあるテルに、何処か自分の幼き日の面影を重ね合わせて見ていた。

そんなある日、テルが八百×に大量の野菜を買いに来る。

財布を忘れたと言うテルに不信感を露にするア太郎だったが、デコッ八はテルを信じ、野菜を持って帰らせる。

そして、テルを一切信用しようとしないア太郎に、デコッ八は、もしテルが代金を支払わないことになったら、自分を一〇〇発殴ってもいいとア太郎に約束を取り付ける。

だが、テルは船乗りの息子で、父親共々食材の代金を踏み倒す常習犯だったのだ。

船が出航する中、デコッ八が気が気でないテルは、父親から財布を奪って、運河へと飛び込み、デコッ八のもとへと泳いで向かう……。

嘘と感じつつも、友を信じることへの意義深さ、そして、友から信頼されることへの感謝と喜び、簡潔なドラマの中にも、これこそが男同士の絆だという言い様のない感動とロマンが同時に引き出された、『ア太郎』珠玉のエピソードだ。

その名の通り、出っ張ったオデコとイガグリ頭が印象的なデコッ八のキャラクターデザインであるが、元々は『ア太郎』開始から遡ること六年前、「別冊少年サンデー お正月ゆかい号」(62年1月1日発行)に読み切りとして発表された『チャン吉くん』に登場する脇キャラ・ダボを、そのまま1968年の赤塚漫画のタッチに描き換えたもので、有名処の赤塚キャラでは、『ひみつのアッコちゃん』のチカちゃんに次ぐ、古い歴史を持つサポーティングアクターと言えるだろう。