このように、様々な笑いの類型を俎上に掲げ、ナンセンスギャグという概念の底面積を広げてきた『天才バカボン』は、赤塚の天賦の質と烈々たるフロンティアスピリッツがあらゆる局面において溢れ出た、才能とエネルギーの噴出の記録でもあった。
それは、今尚後続のギャグ作家が凌駕出来ない高い壁として聳え立つ怒涛のイノベーションであり、我が国のお笑い文化史にその名を刻む、ギャグ漫画としては、前人未到の境地に辿り着いたモニュメンタルな一作でもあるのだ。
『天才バカボン』のコミックスは、講談社KCコミックス(講談社・全22巻+別巻全3巻、69年~78年)、アケボノコミックスと合わせて約1000万部近くを売り上げた後、時を経た1994年、竹書房文庫(竹書房・全21巻、94年~96年)から出版された文庫版が230万部を刊行し、これら全集以外にも、やはり版元である講談社や実業之日本社(『天才バカボンのおやじ』)、立風書房、双葉社、ソフトガレージ、筑摩書房、光文社、小学館、集英社、秋田書店等で傑作選集が続々とリリースされ、その数215冊(21年9月現在)という驚異的な冊数を算出している。
また、一旦は企画が立ち消えとなったテレビアニメ版においても、その後、東京ムービー製作による第一作目『天才バカボン』(読売テレビ、71年9月25日~72年6月24日放映)を皮切りに、引き続き東京ムービーが製作を担当した『元祖天才バカボン』(日本テレビ、75年10月6日~77年9月26日放映)、元号が昭和から平成に変割った以降も、『平成天才バカボン』(フジテレビ、90年1月6日~90年12月29日放映)、『レレレの天才バカボン』(テレビ東京、99年10月19日~00年3月21日放映)と、キー局、系列局を切り替えながら、計四度に渡り放映された。
取り分け、「元祖」に至っては、25・7%(再放送時)という驚異的な高視聴率を弾き出すなど、その人気は非常に根強い。
無論、原典である原作版『天才バカボン』も、時代の移り変わりにも淘汰されないコンテンポラリーを確保した現代ギャグの聖典として、唯一無二の存在感を放ちながら、この先も、次世代、更にその次の世代へと読み継がれ、語り継がれてゆくことだろう。
そう、『天才バカボン』は、戦後ナンセンス漫画を象徴する国民的傑作にして、人智を越えたギャグモンスター・赤塚不二夫のパラノイア的脳内宇宙の一端が垣間見れる、崇高でグロテスクな名作中の迷作なのだ。
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