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地下鉄でのあの事件を忘れてはいけない ~サリン~

2011-02-20 22:13:18 | なんとなく有機化学がわかった気になる
今から約16年前の1995年3月20日、東京都の地下鉄でオウム真理教により、神経ガスである「サリン」が撒かれ、負傷者6000人以上という事件を引き起こしました。
当時中学生だったボクは、事件とは無縁の田舎ライフを送っていたので、テレビでそのニュースを見ても対岸の火事って感じでリアリティがあまりなかったわけですが、実際に今、こうして都会暮らしをしていると、あんな人の多い所で毒ガスを撒かれる恐ろしさが理解できますね。

さて、今回はそんな「サリン」をピックアップ!
構造はこれだ↓



人工合成毒なので、構造は簡単ですね。有機リン化合物です。出発物質はPCl3かな。

ではサリンは毒としてどう働くのかと言うことだけど、これも神経系にダメージを与えます。
しかし、直接的にではありません。
例えばTTXなんかは神経細胞のNaチャネルのタンパク質に結合して刺激の伝導を阻害していたわけだけど、サリンが阻害するのは酵素なのです。
実は役目を終えたアセチルコリンを分解する「コリンエステラーゼ」という酵素があるのだけど、サリンはこいつと結合することで酵素を不活性化します。
その結果、分解されずに残ったアセチルコリンは再び受容体と結合して筋肉の痙攣や、副交感神経を興奮させるということだから、意識がもーろーとしたり、脈が弱まったり、血圧が下がったり、瞳孔の収縮なんかも引き起こすのです。

解毒の仕方は大まかに2つあります。
一つはコリンエステラーゼサリン(コリンエステラーゼにサリンが結合したもの)からサリンを引き離す方法。
つまり酵素活性を復活させるというわけだけど、これにはプラリドキシム(PAM, Pyridinealdoxime methiodide)なんかが用いられます。
こいつがコリンエステラーゼとサリンの結合を切って、自分がサリンと結びつくことで解毒します。
ちなみにオキシムってのは R-C=N-OH ←こんなやつ

もう一つはアセチルコリン受容体を塞いでしまう方法。
つまり、受容体に別の化合物を結合させて、アセチルコリンによる副交感神経の興奮が起こらないようにするのです。
これにはアトロピンなんかが有名です。眼科領域じゃ瞳孔を開かせる薬として使われたりとか。
こいつはアセチルコリンと構造が似通ってる部分があるので、アセチルコリン受容体にも結合しちゃうのです。

ただ、PAMは副作用として頭痛や視力低下、筋力減衰なんてのがあるし、アトロピンは用量用法を間違えれば失明の可能性も…なんてこともあるのが難しいところですね。

ちなみにサリン自体はアルカリ加水分解なんかでメチルホスホン酸イソプロピルやメチルホスホン酸に分解します。



こんなの撒かれるような事件は二度と起きて欲しくないですね(´・ω・)

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