青葉城恋唄

仙台生まれ、仙台育ちの40代女性。
日々の生活で考えたことを記す雑記帳。

映画鑑賞記録「初恋」 その2★★★★☆

2012年05月27日 | えいが
心の傷に時効はないのか?


『初恋』2006年・日本
監督・脚本:塙幸成
原作:中原みすず(「初恋」リトルモア刊)
出演:宮崎あおい 小出恵介 宮崎将 小嶺麗奈 藤村俊二


実は過去に一度レビューを書いているこの映画。
最近何度も観る機会があったのですが、
改めていい映画だな、と思いました。

映画全体の感想は書いていたので、
今回はもう少し細かく分析。


みすずが三億円強奪の実行犯になった理由
みすずが母親に捨てられた経緯、そして
兄だけを連れて出て行ってしまった理由は明確にはされませんが、
みすずが叔母の家に厄介になっており、
さらにその家の中でも学校でも孤独であるということが、
みすずが実行犯になった最大の理由だと思います。
孤独な少女にとって「おまえが必要なんだ」という言葉が
どれだけ力を持っているか。
逆に言えば岸はそこを利用したわけですが。


みすずと亮の関係について
岸は最初、2人の関係について誤解していたと思われます。
たしか原作では直接「みすずは亮の女なのか?」と確認しています。
ユカもみすずが亮のことを好きだと思っていた様子。
結局みんなはみすずと亮が兄妹だと知っていたんだろうか?


岸の素性について
「岸」という名前、そして秘書の「現職大臣の息子」という言葉。
これらからほとんどの人の頭の中にある政治家の名前が浮かんできます。
実際に彼の子どもとすると年齢がもっと上のはずだし、
もちろんこれはフィクションだからありえないのですが、
わざわざ有名な政治家の苗字を出すのって何か意味ありげ。
柏田モータースのオヤジさんは岸を小さい頃から知っていたと言っています。
ということは、あのバイク屋は岸家とつながりがあるのか?
共犯者にするほど、岸は信頼していたようだし。


タイトル「初恋」について
シンプルに考えればこれはみすずの「初恋」についての映画です。
学校でも家でも孤独な生活を送っていたみすず。
誰からも必要とされず、誰も必要としていなかったみすずが、
兄との再会をきっかけに「B」にたむろする若者たちと仲間になり、
そして岸に惹かれていった。
最初は岸のことを「変わった人」と思っていたかも。
遊んでる風でもないし、インテリだし、仲間とつるまないし。
でも亮の危機を救ってくれたのが岸だとわかって
少しずつ惹かれていく。
そして「おまえが必要なんだ」のセリフが決定打となります。

計画の直前でみすずは迷います。
この計画が実行されてしまえば、岸と会えなくなると知ったから。
でも結局岸のため、計画を実行します。
もしかしたら、みすず自身も何かを変えたかったのかも。

どこかの内容紹介を読んでいて、
「ラストに衝撃の事実が」とあり、「何が?」と思ったのですが、
おそらく岸の言葉のことを指しているのだと思います。

岸が借りていたアパートで岸を待ち続けるみすず。
ある日、岸が読んでいた詩集に書かれた岸の言葉を読み、
みすずは岸も自分に恋をしていたことを知ります。
「初恋」とはみすずの初恋だけではなく
岸の「初恋」でもあったのです。
しかも岸は初めて出会った日に恋に落ちていた。
そう思って観ると数々のシーンがまったく違って見えてきます。

みすずが補導されそうになったとき、
ヤスが最初にみすずの危機を知り、Bの連中に伝えるのですが、
岸がみすずの元に駆けつけるのが早い!
いつも冷静で揉め事に首を突っ込まない岸の性格だったら
無事に振り切ってBへ戻ってきたみすずを涼しい顔で迎えるのが自然かも。
それほど慌てていたのか?と想像すると面白い。

事件が終わり、2人で潜り込んだ別荘で
みすずは岸の手を握り、「もう一人はやだよ」と語ります。
好きな子に手を握られて、岸の気持ちはどんなだったんだろう。
「待っている」と言われたのに、一緒にいられない。
そう思う岸の気持ちは。


岸はいつ、事件の計画を思いついたのか。
ラブホテルでみすずに計画を打ち明けたとき、
岸はみすずを選んだ理由として
「女であること、免許はないが運転ができること」を挙げます。
運転はもともと岸が連れて行った柏田モータースで教わった事です。

みすずを柏田モータースに連れて行ったとき、
岸は自分では運転を教えません。
後に岸は機動隊との乱闘で腕に怪我をしてバイクを運転できないと語られますが、
柏田もみすずにバイクを教えるときに自分が乗ったりはしていません。
今は乗れなくても乗ったことがあれば教えられるはず。

自分とのつながりを後々たどれないようにしたのではないか、
そのため共犯者の柏田に運転を教えさせたので?
そう考えると、最初にみすずをバイク屋に連れて行ったときから、
もしかしたら、みすずに出会ったときから
岸は計画を立て始めていたのかも。
それとも、みすずという適任者に出会って、以前から立てていた計画が
現実味を帯びていったのかもしれない。

好きになってしまった、でも自分の計画には欠かせない、
岸は最後の最後まで葛藤します。
みすずが一度は事件から離れようとしたときは安堵します。
そうすれば、もしかしたらみすずとずっといられると思ったから?


岸とみすずは出会えたのか
事件直後、別荘のドライブを最後に岸は消息を絶ちます。
事件発覚を恐れた父の秘書により、海外へ行かされてしまうのですが、
もちろんみすずはそのことを知りません。
ラストのみすずは爽やかな笑顔で歩いていますが、
それは「待ち続ける」と決めたから。

事件が時効を迎え、政治家である父が死んだ後でなら
日本に帰ってくることも可能ではなかっただろうか。
みすずが本当に待ち続けていたなら、再会も夢ではなかったかもしれない。
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