「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

理系女性多様性「データブック」―『理系なお姉さんは苦手ですか?』

2011年10月23日 | Science
☆『理系なお姉さんは苦手ですか?』(内田麻理香・著、高世えり子・絵、技術評論社)☆

  世間一般とくらべれば周囲に理系女性が多い環境にいるからか、理系女性に偏見はないつもりだが、それでも本書に登場する理系女性の多様さには驚かされる。お花屋コンサルタントやパーソナルヘアカラー講師などは、その最たるものかもしれない。例えは悪いが、珍しい動物や植物を見たような感じがする。もっとも、著者の内田さん自身が、理系女子のダイバーシティ(多様性)をお伝えしたい、と書いている。著者のねらいに見事にはまってしまったわけだ。
  環境や自然保護を語る文脈で、よく生物多様性を守ることが重要だといわれる。その理由をものすごく大雑把にいってしまえば、さまざまな生物がいればいろいろな利用価値につながるかもしれないし、多種多様な生物はお互いに影響しあっていて、自然全体のバランスを保つために重要だからということになるだろうか。そのアナロジーを(相当ムリやりに)当てはめれば、理系女性の豊かな資質が技術開発や社会の発展に貢献するかもしれないし(実際そうだと思っているが)、多様な理系女性が存在することで文系女性や女性全体、さらには男性の意識までも変えていき、やがては世の中の住みやすさ(多様性を認め合うバランスのとれた世界)に寄与するかもしれない、といえるだろう。
  人が伝記を読むのは、純粋に感動を得たいだけではなくて、その人のようになりたい、つまりロールモデルを求める側面もあるように思う。サブタイトル「理系な女性10人の理系人生カタログ」が示すように、この本もいわばプチ伝記のような面があり、女子中高生や理系女子大生などに理系女性のロールモデルを示す役割を果たしている。とはいえ、内田さんも書いているが、世の中はロールモデルどおりにいかないのが常である。だから、登場する女性たちのいいとこ取りをして、自分のモノに(カスタマイズ)してほしい、と内田さんはいう。
  登場する女性たちは本当に多様なので、いいとこもそれぞれなのだが、どの女性にも想像力(のようなもの)があるように読んでいて感じた。理系進学だけでなく、いろいろな人生の進路を決めるときも、明確な意思で選択する人もいれば、なんとなくといった人もいる。それでも、こうなればいいなとか、こうなりたいという気持ちが(本人は意識していなかったとしても)そこかしこに感じられる。その気持ちがやがて熟成し、人生を創っていっているように思う。つまり想像力が創造力へとつながっている印象を受ける。男の一人として見ると、昔はともかく、現代の女性は人生の選択肢が多いように思う。一方で男はいまだに、就職し、結婚し、家族を養っていくという直線的な人生観にしばられている面が強いように感じる。だから、男は想像力をはたらかせる余裕(必要性?)がないのかもしれない。
  一見選択肢の幅が広がったとはいえ、男にはなかなかわからない女性の生きづらさがいまもあるにちがいないし、見えない壁が存在するのはたしかである。理系女性はそういったことをより強く感じているのではないかと思う。幸いにも理系女性は増えつつある。しかしかつては(再び例えは悪いが)希少生物のようなものだった。さまざまなバッシングがあるとはいえ、まさか再び希少生物にもどったり、ましてや絶滅危惧種になることはないだろう。内田さんの分類でいけば「理系女性」萌えに近い一人として、理系女性の想像力と創造力とで困難を乗り越えていってくれるものと信じている。そして、このピンク色の理系女性多様性「データブック」(さらには内田さんのさまざまな活躍)が、理系女性「レッドデータブック」(絶滅のおそれのある生物を記載した本)に抗してくれることを期待したい。

  


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