夢の羅列<夜の缶詰>
つづき。
敷居のあたりに散らかった紙片を見ていた私は、
微かな物音に後ろを振り返った。
「うっ」
正直、驚いた。
ひどく小さな老婆が着物姿で薄暗がりに立っていたのだ。
推定120cmほどか。私をじっと見ている。
私も老婆も廊下にいて、4メートルほど離れている。
私はまだしゃがんだままで、首だけを老婆に向けていた。
「まぁだわからぬのか、オマエは」
「はっ?」
相手が老婆だからか油断した。
間抜けな声を出してしまった。
「我慢。がんばり。騙し騙され、すべての怒りは夜に缶詰にされるのじゃ」
「はっ?」
私の意識は混乱した。
老婆が何を言っているのか、全くわからなかった。
しかし同時に立ち上がりながら私は
このまま負けることをよしとはしないつもりであった。
夢の中での禅問答に勝ちも負けもないのだが、
突然に涌いて出てきた老婆に言われっぱなしは癪である。
完全に立ち上がり、私は老婆に対峙した。
得意の仁王立ちである。
強固な自信が全身に戻ってきたような気がした。
ところが言葉が出てこない。
集中に著しく欠ける夢の中という状況に加え、
さっきの老婆の発言の理解もおぼつかないままに何かを言葉にして発することが
とても難しかった。
それでとうとう、
「……あの印鑑の紙は何だ」
言った途端に、つまらないことを訊いたなとひどく後悔した。
言葉が出ないからといって、一番誰もが言いそうなことをここ一番で発してしまった。
これは私としては最悪の一手である。羞恥心が燃えた。
案の定、老婆は答えず「フフフ」と嗤っている。
「この凡人め」と嘲笑っているように見えた。
ああ、恥ずかしい。30秒やり直したい。
つづく。
つづき。
敷居のあたりに散らかった紙片を見ていた私は、
微かな物音に後ろを振り返った。
「うっ」
正直、驚いた。
ひどく小さな老婆が着物姿で薄暗がりに立っていたのだ。
推定120cmほどか。私をじっと見ている。
私も老婆も廊下にいて、4メートルほど離れている。
私はまだしゃがんだままで、首だけを老婆に向けていた。
「まぁだわからぬのか、オマエは」
「はっ?」
相手が老婆だからか油断した。
間抜けな声を出してしまった。
「我慢。がんばり。騙し騙され、すべての怒りは夜に缶詰にされるのじゃ」
「はっ?」
私の意識は混乱した。
老婆が何を言っているのか、全くわからなかった。
しかし同時に立ち上がりながら私は
このまま負けることをよしとはしないつもりであった。
夢の中での禅問答に勝ちも負けもないのだが、
突然に涌いて出てきた老婆に言われっぱなしは癪である。
完全に立ち上がり、私は老婆に対峙した。
得意の仁王立ちである。
強固な自信が全身に戻ってきたような気がした。
ところが言葉が出てこない。
集中に著しく欠ける夢の中という状況に加え、
さっきの老婆の発言の理解もおぼつかないままに何かを言葉にして発することが
とても難しかった。
それでとうとう、
「……あの印鑑の紙は何だ」
言った途端に、つまらないことを訊いたなとひどく後悔した。
言葉が出ないからといって、一番誰もが言いそうなことをここ一番で発してしまった。
これは私としては最悪の一手である。羞恥心が燃えた。
案の定、老婆は答えず「フフフ」と嗤っている。
「この凡人め」と嘲笑っているように見えた。
ああ、恥ずかしい。30秒やり直したい。
つづく。