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夢の羅列<オーケストラ・チューブ-p5・悲鳴> 20170930
つづき。
……その時、短い悲鳴が舞台で上がった。
客席から舞台に視線を戻すと、あの若い男が立ち上がっていた。
そして中央の布団まで駆け寄り、何かを拾い上げたところだった。
一抱えほどの物を男は抱き、反転し舞台の上手袖に逃げ込もうと走った。
私は躊躇なくその男を応援し、逃げ切れるように祈った。
「パンッ」
軽く乾いた音が場内に響いて、男がもんどりを打って倒れた。
抱かれていた物は勢いで男の手を離れ、布団に転げ落ちた。
同時に赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
下手左端の布団に座った半裸の男が構えたピストルを下げた。
誰も声を発しない。
……、無謀だった。無謀だったな。
事情は知らないが、計画性が皆無であったようだ。
熱情だけで突っ走ったが、熟練と老獪の壁は厚かった。
虚しさだけが私の心に残った。その時、
すっと舞台のライトが消え、場内が真っ暗になった。
おや、と思っているとあらためてピンスポットが舞台中央に当たり、
もう誰もいなかった。
布団も男も女も赤襦袢も何もなかった。いや、
あの放り出された赤ん坊が布に包まれたままで動かずに、ライトを一身に浴びていた。
つづく。