20201116
ひとりでいると
なんの奇蹟も起こらず
夜は更けて行く
━━壷井繁治「動かぬ夜」より抜粋━━
昭和29年発行「昭和詩集」(角川書店)より
壷井繁治Wikipediaリンク
いつものことであるが、私はこの壷井繁治さんを、この本を読むまでまったく知らなかった。壷井という名前ですぐに思い出すのは「24の瞳」の壺井栄さんであるが、まあ関係ないだろうと思ったら、お二人はご夫婦でありました。小豆島出身の二人が東京で出逢い(遠縁らしいので再会、もしくは紹介?)結婚に至ったというようなことらしいです。若き日は世田谷の三宿に住み、晩年を中野の鷺宮(若宮)で過ごしたということです。私は中野若宮なら知らない道はないというくらいによく知っています。道が狭い。西武信金がある。その向かいには果物屋。線路と川があって車ではややこしい。とか。でもいいところです。
さて作品の紹介ですが、この本には彼の20篇ほどの詩が載せられていて、その中から私が良いと思った箇所を脈絡を考えずに抜粋します。行にいちいち題名とかを書くのは面倒だし、かえって複雑になるので、ここでは単純に並べます。繰り返しますが、下の抜粋はひとつの詩ではありません。いくつかの詩からの抜粋を並べたものです。
星と枯草が話していた
蟻を殺したが
悲鳴すら聞こえなかった
死者たちもたちあがつて抗議する
生き残った者のなかに生きる死者の存在
僕が物言わぬからといつて
壁とまちがえるな
目を覚ますと、僕は喪章で飾られていた
風の中の乞食
プロレタリア詩人ということらしいですが、私はけっこう好きです。
暗い表現が多く、全部を真剣に読むと疲れますが、ある部分に光のような言葉があり、その印象と風景に心が誘われます。
E V O L U C I O