昨日、ボッティチェッリが少女漫画の祖だった、という記事を書いたが、いつも有益な情報を下さる山科様から、それよりもっと古い祖がいると教えていただきました。
それがこちら
写真:Wikipedia
この美人の肖像画は現在ルーブル美術館が所蔵している、エジプトから来たミイラと共に埋葬された肖像画。
(「ミイラ肖像画」についても山科様から情報を頂いたので詳細はこちらを。)
これは2世紀頃のもので、わずかに斜めを向いた、ほぼ正面の構図がまさにのちの肖像画の祖と言えるのでは?
そしてそれが引いては少女漫画の祖、ってわけ。
とその辺は諸説あるわけで、ここでは敢えて突っ込まないことに。
リアルかリアルではないかもおいておいて、これすごく綺麗。
美人ということではなく、2000年以上前のものとは思えない状態の良さ。なんといってもこの色!
「ミイラの肖像画」には蜜蝋を用いたエンカウスティーク(伊:Encausto)と、鶏卵を用いたテンペラの二つの技法が使われている。
”エンカウスティークで描かれたミイラ肖像画の方が鮮やかで豊かな色彩が見られ、大きな筆致が印象派の作品のような効果をもたらしている。一方、テンペラで描かれたミイラ肖像画は、色調の濃淡表現や淡い色の表現に優れており、抑制された印象となっている。
宝飾や花輪部分の表現に金箔が使用されている作品もある。エンカウスティークとテンペラ両方の技法で描かれた作品や、エンカウスティークとテンペラを発展させた技法で描かれている作品も現存している。”
引用:Wikipedia
山科様のお話で、気になったのは、「ルネサンス時代にレオナルドなども試みたらしいのだが失敗。。」の部分。
引用:http://reijiyamashina.sblo.jp/article/182504414.html
俄然興味が湧いたので、ちょっと調べることにした。
このエンカウスティーク(伊:Encausto)はどんな支持体にも使えることや色が渇くのが非常に速いのだが、2度付けが非常に簡単で、前のものを引っ掻きとる必要もなく、表面を剥がす必要もないし、浮き上がって見えるなどメリットは多いのだが、湿気が残り、カビが生えるなど技術としては非常に難しいため、技術が必要なのが難点。
大プリニウス(Plinio il Vecchio)が書き残しているように、既にギリシャ人たちはこの技術を知っていたのだが、流行らせたのはローマ人。
この技術を発明したのはテーベのアリスティデ(Aristide di Tebe)というギリシャ人画家だと言われているが、彼の作品は殆ど残っていない。
この技術を使った作品で最も有名なのは1世紀頃のエジプトのファイユーム地方から出土したミイラの生前の肖像画(伊:ritratti del Fayyum)、ポンペイ(Pompei)の壁画、シナイ半島の聖カタリナ修道院のイコン(下の写真)である。
写真:Wikipedia
んん?ポンペイの壁画ってフレスコじゃないの?
どうやら秘儀荘(Villa dei Misteri)の壁画に数枚の蜜蝋画があるという説がある。
Leonardo da Vinci(レオナルド・ダ・ヴィンチ)はローマ時代以降、次第に忘れられていった蜜蝋画を試してみたと考えられている。
ここでも何度も話題にしている、フィレンツェのヴェッキオ宮(Palazzo Vecchio)の500人広間( Salone dei Cinquecento )に描かれたという「アンギアーリの戦い(Battaglia di Anghiari)」
この絵に蜜蝋画のテクニックを使ったらしいのだが、当時、ルネサンス時代、このテクニックを使っていた画家は殆どいなかった。
壁画として、壁に色をしみこませるには、蜜蝋画よりは簡単なフレスコ画が好まれた。
1503年4月 正義の旗手(Gonfaloniere)ピエロ・ソデリーニ(Pier Soderini)はミケランジェロとレオナルドにそれぞれr「カッシーネの戦い」と「アンギアーリの戦い」を描くよう注文する。
レオナルドは「最後の晩餐」で用いたテンペラやフレスコを使わず(失敗したので使いたくなかった?)、古代の技術を使って絵を描こう考えた。
というのもこの頃レオナルドは洗礼堂の扉「天国の門」で有名なギベルティ(Lorenzo Ghiberti)によって大プリニウス(Plinio)の「博物誌(Naturalis historia)」がイタリア語に訳され、それを読んだと考えられるし、なんといってもレオナルドはミケランジェロだけでなく、フィレンツェ市民もびっくりさせたかったのでは?
古い技術を使って、およそ10メートルの幅にもなる大きな絵を描こうとした。
しかし、この作品が完成したのかどうかはわからない。
というのも既に言ったが蜜蝋画は簡単ではない。
”エンカウスティーク技法はまず、蜜蝋のみを溶かして顔料を混ぜ込み固形の鑞絵の具を作り、それを熱で再び溶かしながら描くというかなり厄介で高度な技法であった。今日では固着性を高め丈夫にするためにダンマル樹脂(英: Dammar gum)が添加されることがあるが、本来は蜜蝋以外に何も混ぜてはいなかった。”(引用:Wikipedia)
レオナルドはまず漆喰を塗り、cera Punicaを混ぜ絵の具で「アンギアーリの戦い」を描いたと考えられる。
cera Punica(古代カルタゴの蜜)とは、滑らかになって使いやすくなるように入れる一部分が鹸化したハチミツのことで、鑞絵の具を冷ます狙いもあった。
天才レオナルドが真にエンカウスティーク技法を知っていたのかどうかはわからない。
しかし遅筆だったレオナルドにはフレスコ画も蜜蝋画も得意分野ではないよね。
更に出来上がりを考えたら純粋な蜜を使わないと!
もしレオナルドが正しいやり方で、正しい材料を使っていたとしたら、比類なき素晴らしい作品を現在も見ることが出来たのだろうか?
それでもやはりヴァザーリはその絵を塗りつぶしてしまったのだろうか?
またもしエンカウスティーク技法を使ってこれだけ大きな作品が残っていたとしたら、フレスコ画、テンペラより優れた、どんな支持体にも描けて、耐久性に優れた技法として今よりはずっとメジャーな方法になっていたのではないだろうか。
レオナルドの手には余ったエンカウスティークも、その後全く使われなくなったわけではない。
1700年代この技法を再発見したのはフランス人Anne Claude de Caylusだった。
1755年にはセーブルの磁器工場のディレクターをも務めた画家のJean-Jacques Bachelier(ジャン=ジャック・バシュリエ)が”Mémoire sur la peinture à l’encaustique”を上梓したことをきっかけに、ヨーロッパ各地で復活した。
18世紀末にはイタリア人画家Giovan Battista Dell’Eraがロシアのエカチェリーナ2世のツァールスコエ・セロー の宮殿(かつてはプーシキン市だったが、現在はサンクトペテルブルク市プーシキン区)にヴァチカンの「ラフアエロの回廊(Loggia di Raffaello)」を再現させた時にも使われた。
写真:Wikipedia
本物はフレスコなんだけど。
ヴァチカンの「ラファエロの回廊」には滅多に入れないので、やっぱりエルミタージュに行きたいわ!!
(こちらのサイトに写真がありました。 一番下の「galleria immagini」を開く)
また現代ではジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns)をはじめとする現代美術の芸術家などが復活させている。
メトロポリタンミュージアム所蔵の「白旗」
写真:https://www.metmuseum.org/ja/art/collection/search/487065
世の中には知らないことがまだまだあるなぁ…
今回も勉強になりました。
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Anonimo Gaddiano が典拠みたいですが
翻訳はないようですね。。
URLに書きました。
コメントありがとうございます。
手間も金も掛るということで、一時期廃れたんですね。
ある作品は60ターラント、別の作品には700万セステルティウス
コメントありがとうございます。
そうなんです、先日むろさんからご指摘頂いたのですが、「.it、.uk、.de、.usなどはNG」になっているみたいで、不自由を感じています。(セキュリティー対策なのでしょうが)
私もこのサイトを参考に記事を書いたのですが、イメージは見落としていました。ありがとうございます。
今朝NHKのニュースでも流れていましたが、まだ日本はリストに入っていないはずです。(ワクチン接種率の高い国、ですから)
イギリスでも日本はまだ「黄色」で、隔離期間が設けられていると昨日聞きましたし。
無事イタリアに行けたとしても、出国72時間前のPCR検査を現地で受けないと日本には入れませんし、帰国後の隔離は2週間ですので、観光ではまだまだ簡単には行けないと思いますが、マスコミはそういう部分には触れず、安易に報道しすぎだと感じています。
詳細はこちら外務省のサイトで
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/page4_005130.html
経済を心配するのは分かりますが、この緩和で感染者が再度増えるのではないか、ということが心配です。元々マスクの習慣がない国ですから、ワクチンしたらマスク外してOKと考える人が増えると思います。
治療薬が出来て、マスクを外して外出できるようになるまで、海外旅行は怖いですね。現地で感染したら、と考えたらぞっとします。
Cartoteca russo-bergamasca Le Logge di Raffaello alla corte degli zar: Giovan Battista Dell’Era
というとこ
エルミタージュのサイトはロシアのサイトのせいか、通信事情のせいか途中検閲のせいか、非常に遅いので、エルミタージュ自身のサイトでは確認できておりません。昔、IBMがエルミタージュのサイトを構築したはずなんですけどね。
イタリアに行って、帰国する時はどうなるのでしょうか。
↓ 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASP5F2DBYP5DUHBI02W.html