先週の話ですが、これまた閉展間際の展覧会に行って来ました。
横浜美術館で24日まで開催している「ヌード NUDE-英国テート・コレクションより」です。
近いからいつでも行ける、と思っていたら、結局ぎりぎりになってしまいました。
この展覧会は2016年オーストラリアを皮切りにニュージーランド、韓国へと国際巡回していて、待望の日本上陸となりました。
2000年の改組以前はテート・ギャラリーと呼ばれていたが、今は「テート」と呼ぶのが一般的。
テートはイギリス政府の文化・メディア・スポーツ省に属する外郭公共団体(Non-departmental public body、非省公共団体とも、非政府部門公共機構とも)で、ロンドンのテート・ブリテンとテ―ト・モダン、テート・リバプールとテート・セントアイヴス、そしてテート・オンラインからなっている。
4つの美術館の所蔵品は共有の物と考えられているので、4館でコレクションが定期的に入れ替わっているそうです。
ロンドンに行った時、私はテート・ブリテンしか訪れることが出来なかった。残念、残念。
さて、「この世界屈指の西洋近現代美術コレクションを誇る英国テートの所蔵作品により、19世紀後半のヴィクトリア朝の神話画や歴史画から現代の身体表現まで、西洋美術の200年にわたる裸体表現の歴史を紐とく」、というのが今回の展覧会の目的。
ヌードというのは、人間にとって非常に身近なテーマだったにもかかわらず、長年タブーとされてきた題材です。
”裸”で描いて良いのは神話や聖書の人物が描かれた神話画か歴史画のみ。
生々しいヌードを描くことはご法度とされていました。
それが時代の変化と共に、より人間らしいヌードが描かれるようになり、その変遷を追うのが今回の展覧会のメインテーマ。
中でも目玉はこれ
日本初公開で、ロダンの彫刻ではもっともエロティックと言われる「接吻」
(場内でこの作品のみ撮影可能)
大理石で作られたこの彫像は世界に3体あるそうですが、良質なギリシャの大理石で制作されたこれがもっとも美しいと言われているそうです。100年前、公開された当時のイギリスでは「若者には刺激が強すぎる」などという理由からシートで覆われてしまったほどのリアリズム。
1900年、ロダンはアメリカ人の美術コレクター、エドワード・ウォレンから大理石像の「接吻」の発注を受けます。
イースト・サセックスのルーイスに居を構えていたウォレンはこれを1914年、ルーイスの町の議会ホールに貸与したのですが、「エロティックすぎる」との批判を受け1917年にまたウォレンのもとに戻されてしまい、結局ウォレンが死ぬまで手元に留め置かれました。
彼の死後、1955年にオークションに出品するも売れず、結局ロンドンのテート・ギャラリーが買い上げ、現在はテートのコレクションの1つとなったのです。
この作品、元は「フランチェスカ・ダ・リミニ」というタイトルだったんです。
というのもこのカップルにはちゃんとモデルがいて、パオロ・マラテスタ(Paolo Malatesta, 1246年 - 1282年)とフランチェスカ・ダ・リミニ(Francesca da Rimini, 1255年 - 1285年)なのです。
ダンテの「神曲」にも登場する悲劇のカップル。
情熱的な恋の炎に身を焼かれ、地獄に落ちた二人は、地獄でも黒い風に焼かれています。
ダンテだけではなく、この悲劇のカップルを題材にした作品は非常に多いです。
それだけ芸術家の創作意欲に火をつけるテーマなのでしょう。
ラヴェンナ出身のグイード・ダ・ポレンタの娘であるフランチェスカは、政治的な理由で不具のジョヴァンニ・マラテスタに嫁いだのだが、義弟である美男のパオロと恋に落ちる。ある時、ラーンスロットとグィネヴィアの禁じられた恋の物語を読んで感動した2人は、思わず口づけを交わす。すると運悪くその2人をジョヴァンニが目撃。怒ったジョバンニは二人を刺し殺してしまいます。
というのが二人の悲劇の物語。
二人がまさに接吻を交わすシーンをロダンは切り取っている。なんとも官能的で刹那な一瞬。
ロダン、さすがですね。
そしてこの部屋にはもう1つ興味深い作品がありました。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《ベッドに横たわるスイス人の裸の少女とその相手》、「スイス人物」スケッチブックより、1802年、黒鉛、水彩/紙Tate: Accepted by the nation as part of the Turner Bequest 1856, image © Tate, London 2017
風景画しか描かなかったのか、と思っていたターナーの幻のヌードです。
実際会場では、部屋も暗いし小さいのでここまではっきりと見えないのが残念でした。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーはイギリスを代表す画家で、テートには彼の作品だけを収めた部屋があるくらい重要な画家の1人です。
実は彼、風景を描きとめるために使っていたスケッチブックにエロティックな素描も残していたんです。
あんな素敵な風景画を描いたターナーですが、実生活では子供までなした女性とは結婚せず、週末には愛人の家に出かけるなど複数の女性と関係を持っていたというほどだらしない生活を送っていたようです。
会場に展示されている数点の不品行なスケッチは彼の名誉を守るため、死後処分されたという説もあります。
しかし今回の展覧会では、近年の研究でその詳細が明らかになってきたものが並んでいるそうです。
この部屋には他にもピカソのデッサンなども有りました。
テートのコレクションのみの展覧会かと思いきや、日本だから特別なのでしょか、フランシスコ・ベーコンの作品が2点、並べて展示されていました。
(写真はhttps://casabrutus.com/art/72026/3より拝借しました。)
左は東京国立近代美術館蔵の「スフィンクス―ミュリエル・ベルチャーの肖像」
このモデルは友人の女性で、彼女が亡くなる年に描かれたもので、スフィンクスは永遠の命や強さを思わせる。
右は富山県美術館蔵の牛の脚が描き込まれた「横たわる人物」です。
フランシス・ベーコン(1909年10月28日-1992年4月28日)は、アイルランド生まれのイギリス人画家。
激しく大胆な筆致と過激で生々しい表現で、鑑賞者に不安感や孤独感を与えることで知られています。
この作品は背景がに暖色が使われているせいか、それほど不安や恐れを感じることはありませんが、やはりどこか落ち着かない感の漂う作品です。
物語とヌード
親密な眼差し
モダン・ヌード
エロティック・ヌード(ロダンの「接吻」、ターナーのスケッチブック)
レアリスムとシュルレアリスム肉体を捉える筆触
身体の政治性
儚き身体
の7部門に展示は分かれています。
ヌードを巡る表現がどのように変化してきたかを知ることが出来る面白い展覧会でした。
なお、閉展間際の今週平日は入場割引をしているそうです。
詳しくはこちら、ヌード展公式ツイッターから
そしてここ横浜美術館だからのおまけ特典があります。
展覧会の入場券と共に見られる常設展も是非お見逃しなく!
というのも、会場内に展示されているジョン・エヴァレット・ミレイの「ナイト・エラント(遍歴の騎士)」
ジョン・エヴァレット・ミレイ「ナイト・エラント(遍歴の騎士)」1870年 Tate:Presented by SirHenry Tate 1894 imagecTate,London 2017
この作品を英国に留学した日本人画家が模写した作品が、ここ横浜美術館に所蔵されています。
下村観山「ナイト・エラント」1904年
こちらもお見逃しなく!!
第5巻『ヌード』かぐわしき夢
にコラボした企画かと思ったら、違った
ようですね。
この中野京子氏編集の本はどこの図書館にも
あるようです。
URLに感想を書きました。
図書館で借りられるんですね。このシリーズ、とても興味は有るのですが、何せ高い!
早速借りてきます。
最近、イギリス美術について調べていて、中野氏の「名画で読み解く イギリス王家12の物語」を読みました。(イギリス王室はややこしくて、頭が痛いです)私はどうもこの方の本とはあまり相性が合わないようです。ドイツ寄りとイタリア寄りの差でしょうか(笑)
ネットで覗く限り。
ただ、結構貸し出されてるみたいです。人気あるんですね。
先週末読みました。やはりちょっと中野氏のコメントには引っかかる所は有りました。
シリーズ全て出版されたようなので、追々他の巻も見てみようと思います。
ありがとうございます!!
は、自分ならどういう作品を選ぶだろうか?
これはないだろ、この作品をだすべき、、
という
問題意識をかきたててくれる点で、面白いので、図書館から借りて読んでます。
解説や雑文に突っ込みをいれるのも面白いのではないか、と思います。
未見の優れた絵画の発見もときどきありますしね。色合わせは良いようです。