おととい2018年初の展覧会に行って来ました。
昨年、ラッキーなことに陶磁器の執筆のお仕事を頂いてからすっかりはまってしまいました。
日本で3度目となる「ヘレンド」の陶磁器を集めた展覧会。
13日より汐留のパナソニック汐留ミュージアムにて開催中です。
さて、「ヘレンド」はオーストリア皇妃エリザベートの愛したハンガリーの名窯として有名。
ヘレンドは、ハンガリーの首都ブタペストから南西に約110キロのところにある静かな村にある世界でも最大級の磁器製作所です。
1826年、開窯当時のハンガリーはオーストリアのハプスブルグ家の統治下にあったことから、ヘレンドの製品はウィーン宮廷に献上されていました。時の皇帝フランツ・ヨーゼフは殊のほかヘレンドに目をかけていたそうです。
今回の展覧会にも皇帝、皇妃に献上されたゲデレー宮殿備え付けの食器が出展されていました。
どことなく東洋風の雰囲気が漂うこのカップは「シーアン・ルージュ(西安の赤)」と呼ばれる赤をベースに東洋風のモチーフが描かれています。
他にも「西安の黒」や「西安の黄色」が有りますが、どれも私たち東洋人には見慣れた色合いですが、なかなかヨーロッパでは見られない鮮やかな色調をしています。
昨年、日本ではなぜかどこもかしこも「ジャポニズム」という感じがしていましたが、このシノワズリ―もジャポニズムの親戚みたいなもの…というと言い過ぎかな?
要はどちらも「東洋の美術の影響」、片や中国、片や日本。
こんな適当な説明で良いのかい?という感じですが…
大きな違いは中国先行、ということかしら。
シノワズリはジャポニズム旋風がヨーロッパを駆け抜ける200年も前に起こっていたのです。
ジャポニズムは19世紀、印象派の画家たちが立役者。
シノワズリは17世紀半ばから後半に起こり、18世紀のロココ美術と融合し発展しました。
マイセンによって、ヨーロッパで磁器が作られるようになるまで、中国から輸入された磁器は羨望の的。
磁器の製作だけでなく、その絵柄も好んで模倣されたのです。
シノワズリに関しては、後日記事を書かないといけないので、もう少し勉強しないといけないので、今回はこの辺で。
ヘレンドがシノワズリ(中国趣味)に傾倒し始めたのは19世紀。
福禄寿を尊ぶ中国独特のめでたい絵柄を取り込んだ作品や色、柄共に鮮やかで神秘的な作品を多く作り出しました。
会場にはその中国人をモデルにした会場記念のスタンプまで用意されていました。
このモデルになったのが
このティーセットのに付いている「膝をつく中国人」
かわいいったらもう!
食器に描かれた絵もなんとなく滑稽で、すごくいいんですよ。
ガラスにへばりついて見入ってしまいました。
この中国人シリーズもかなり自分の中ではヒットだったのですが、造形的にすごいなぁと思ったのはこちら。
フランツ・ヨーゼフ帝がイギリスのウエールズ公への贈り物としてヘレンドに注文したデザインということから「ウェールズ文」と呼ばれるスタイルで出来たポット。
透かしはただでさえ難しいのに、この出来栄えったらなんですかねぇ。
”ウェールズ文は、芸術的にも技術的にもヘレンド窯の最高峰の技術を余すところなく伝えている”と展覧会のカタログにも書いてありました。
実はこれも中国磁器をお手本にしているんですって。
”窯設立から今日に至るまで、ヘレンドおよそ190年のあゆみを概観
およそ150件、約230点(入れ替え有り)の出品による、国内で開催の過去2回のヘレンド展を凌ぐもっとも充実した内容です。 ブダペスト国立工芸美術館が誇る、ヘレンド磁器コレクションを中心にヘレンド磁器美術館、ハンガリー国立博物館などから日本初公開作品を含む、重要な作品が出品されます。”
と主催者側は言っています。
点数や過去の展覧会と比べる必要はなく、とにかく充実した作品を集め、年明けにふさわしい(?)良い展覧会でした。
そうそう最後に気になったポイント2点。
1つは「ホットチョコレート用ポット」(を模倣したもの)が数点出展されていたこと。
1800年代、中欧あたりでは既にホットチョコレートが愛飲されていたなんて…
そしてリチャード・ジノリの前身、1735年にトスカーナ大公国のカルロ・ジノリ侯爵が開窯した”Doccia”が「ドッキア」と表記されていたこと。
これは大抵の陶器の本で、ちゃんとイタリア語の読み方「ドッチャ」と書かれているんですけどね。
3月21日まで開催。
非常に興味深い情報ありがとうございます。
透かし彫りの陶磁器は、現代日本では長崎の三河内が結構やってます。
古い時代のチャイナでは、
クララ・ペーテルスの絵にも描かれていたので拙ブログに写真をあげましたが
http://reijiyamashina.sblo.jp/article/178480937.html
明後期 萬暦の例が、今は大英博物館展示になっている;デヴィッド ファウンデーションにあります(URL)
興味深いコメントを有難うございます。非常に興味深いと同時に深入りすると面倒なことになりそうな世界だなぁと改めて思いました。
特に輸出陶磁器については、東インド会社など顧客の注文に合わせて制作したようなので、相互にパクリ・模倣・借用が二重三重に重なっています。
例えば「(もともと明末の色絵からでた)有田の「柿右衛門手」を中国の景徳鎮でマネして制作して西欧に輸出した陶磁器」とか。
「西欧のリモージュなどのエマイユ・琺瑯 絵付け技術が北京宮廷・景徳鎮へ導入され、更に輸出用?に『パリスの審判』などの絵付けをした瓶」が作られるとか(URL)。。
複雑な事情になっているようです。
ベルギー王室秘蔵 セラミック・ロード展, 毎日新聞社、昭和56年
をみると、
中国で伊万里焼を模写して生産した皿と、それを更に模写してベルギー・トルネイ窯で生産したそっくりさんがカラー図版で並べてあって呆れます。同じ図録にあるように、景徳鎮に「フリードリッヒ二世紋章が大きく入った皿」なんかを注文していたようですし、デルフトで伊万里マイセンなどが生産開始しても、中国からの輸入は停止していないようです。