こちらも友人から無料券を頂き、閉展間際ということで慌てて先週行ってきました。
神奈川県立近代美術館 葉山です。
じめじめが始まる前のわずかな晴天、外にいて清々しいと感じられるわずかな期間ですね。
入口に置かれたこの彫刻はイサム・ノグチのもの。
雲がなければ富士山も見ることが出来る絶景の立地です。
お目当ては6月10日まで開催しているBruno Munari(ブルーノ・ムナーリ)ーこどもの心をもちつづけるということ。
ムナーリはイタリア人なら知らない人はいない、と言っても過言ではない”アーティスト”
という曖昧な言い方をしたのは彼は美術家、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、教育者、研究家、絵本作家などの様々な顔を持つため、彼が何者かを一言では言い表すのは難しいのです。
日本では何度も展覧会が開かれています。
私も2008年、川崎市市民ミュージアムで開催されていた「ブルーノ・ムナーリのアートとあそぼう」という展覧会に行っています。
ブログも書いていましたが、なんとも内容がない…
ただ前回と違って、こちらはなかなか楽しめる展覧会でした。
この展覧会は
「芸術からデザインそして児童教育に至るまでの独創的な活動を繰り広げたブルーノ・ムナーリ(1907-1998)の、はてしない活動を体験するための展覧会です」とパンフレットにも書いてある通り、彼のアーティストとしての軌跡を体系的に追った、非常にまとまった展覧会となっていて、日本最大級のムナーリの回顧展となったそうです。
ムナーリはミラノ生まれですが、幼少期を北イタリアのバディーア・ポレージネという小さな町で過ごします。
幼いころから美術やデザインに強い関心を抱いていました。
そして18歳の時ミラノに戻ったムナーリは、当時イタリアを席巻していた前衛美術運動「未来派(Futurismo)」に強い影響を受け、その活動に自らも参加していきます。
Futurismo、未来派というのは、1909年、イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティ (Filippo Tommaso Marinetti; 1876年-1944年)が出した「未来主義創立宣言」が発端で、20世紀初頭にイタリア中心として起こった美術の流れです。過去の芸術を徹底的に破壊し、機械化によって実現された近代社会を称えることに特化した作品が多く生み出されています。未来派のキーワードは「movimento(動き)」です。
未来派の代表的なアーティストには、Giacomo Balla(ジャコモ・バッラ 1871年-1958年)やUmberto Boccioni(ウンベルト・ボッチョーニ1882年-1916年)などがいます。
ボッチョーニに代表作「Forme uniche della continuità nello spazio(空間における連続性の唯一の形態)」はイタリアの20セント・ユーロ硬貨のデザインにもなっています。
未来派は、後にファシストとも結びついて行くのですが、その話には今回は触れずにおきましょう。
ムナーリはマリネッティと出会い、未来派の一員として作品を発表していきます。
会場には「役に立たない機械」という作品が数点展示されています。
ルーノ・ムナーリ 役に立たない機械 1934 / 83 特定非営利活動法人 市民の芸術活動推進委員会蔵
© Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari
美術に「動き」を加えた画期的な作品だったのですが、あまり評価はされませんでした。
作品が時代の先端を走り過ぎていたせいかもしれません。
ムナーリは次第に絵画とか彫刻とか分野にこだわらない作品製作へと向かい、雑誌の編集や挿絵の仕事を通し、次第にデザインの方へ大きく舵を切ることになります。
1945年には5歳になった息子アルベルトに読ませる良い絵本が見つからない、と理由から絵本を手掛けるようになります。
ブルーノ・ムナーリ 読めない本の詩作 1955 パルマ大学CSAC蔵
© Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari
紙だけでなく、様々な素材を使った絵本を作ったり、字のない絵本やたくさんの仕掛けが込められた絵本を発表しました。
また20世紀のイタリアで最も重要な児童文学作家ジャンニ・ロダーリ(Gianni Rodari)の作品の挿絵を手掛けたりもしています。
他にも今までの美術の”常識”を覆すような、折りたたんで持ち運べる彫刻や、コピー機を使ったオリジナル平面作品「オリジナルのゼログラフィーア」など今までにはない作品の数々を生み出しました。
ブルーノ・ムナーリ 旅行のための彫刻 1965 パルマ大学CSAC蔵
© Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari
この折りたたんで持ち運べる「旅行のための彫刻」は、1965年日本で初めて行われたムナーリの個展「デザイン国の詩人 ムナーリ展」のオープニングで配られたそうです。
ムナーリの遊び心あふれる作品は、日本人デザイナーにも影響を与えたそうです。
そして最後の部屋は、魅力的な作品があふれていました。
「みどりずきんちゃん」や
大都会にあるおばあさんの家に向かう「きいろずきんちゃん」
須賀敦子さんが翻訳している「木をかこう」
私が一番気に入ったのはこの「並木(Viale)」
「複雑にするのは簡単だが、シンプルにまとめるのはむつかしい」とムナーリは言っています。
そして「西暦2000年の化石」
これを見た時は思わず「くすっ」と笑ってしまいました
「どれほど多くの人が月を見て人間の顔を想像するか」と投げかけられた場所には
「おしやべりフォーク」
ムナーリにはいつも使っているフォークが手の延長に見えたそうです。
フォークの先を指に見立てて、色々なジェスチャーをさせています。
ムナーリは、視覚言語、言葉によってではなく、視覚的なものを用いた表現や素材によるコミュニケーションの可能性に終生関心を寄せていました。
この「おしゃべりフォーク」はヴィジュアル・コミュニケーションの可能性を伝える、ムナーリの代表作と言われています。
大人だけではなく子供も楽しめる展覧会は残念ながら今月10日まで。
ミュージアムショップでは、ムナーリの絵本などのグッズも販売しています。
(イタリア語の絵本はばか高でした。クレジットカード使用不可。)
場所柄、おしゃれマダムが多いなぁという感じ。平日の割には人がいるなという感じですが、決して混んでるというわけではないので、落ち着いてじっくり見られます。
ブルーノ・ムナーリ展公式サイト
参考:「ブルーノ・ムナーリ」展公式図録
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