今週のはしご展覧会はこちら。
まずは大嫌いな渋谷の街を通り抜け、松濤美術館へ。
東急東横線、JRユーザーの私はこの辺りに来るのは初めてでしたが、聞きしに勝る豪邸ばかり。
芸能人とかがいっぱい住んでるのでしょうかねぇ、この辺りには。
制服を着た小学生もどことなく雰囲気が違う。貧乏人の私はどきどきしちゃいます。
美術館も違いますねぇ。入口が分かりにくいんだよ!という気もしますが、それは所詮庶民のひがみ?
なかなかこちらに足を運ぶ機会がなかったのですが、今回はたまたま友人から無料券をもらったのと、興味のある展覧会だったので、自腹で来てもいいかなぁ、と思っておりました。
「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」ということで、古今東西の廃墟ばかりが集められた展覧会。
最近ピラネージ(Giovanni Battista Piranesi)続いてるなぁと感じていますが、この展覧会にも数点出展されていました。
国立西洋美術館蔵の作品なので、既に見たものかな?
西洋美術のなかで「廃墟」が盛んに描かれるようになった1つの要因として挙げられるのは「グランドツアー」によるものだろう。
17世紀、芸術的には遅れを取っていたイギリスの裕福な貴族の子弟が、フランスやヨーロッパに遊学。
それはまるで現代の卒業旅行のようなもので、旅の記念に求めたものが、絵葉書ではなく、風景画と呼ばれる絵画でした。
この風景画ブームのおかげで、それまで歴史画などに比べると非常に地位が低かった「風景画」が絵画分野の重要な分野に踊り出ます。
そんな折に活躍したのがCanaletto(カナレット)であり
Francesco Guardi(フランチェスコ・グアルディ)でした。
イタリアでも特に人気が有ったグランドツアーで訪れる先は、今も昔も大して変わらない、ローマ時代やルネサンスの遺跡の残る場所。
ヘルクラネウム(現エルコラーノ)やポンペイが発掘されたのも18世紀の前半で、当然発見されたばかりも大人気に。
またイギリス人の芸術家はこぞってそういう場所を訪れ、実物を見て、真似、本国へと戻って行きました。
そんな若者たちによって、肖像画しか人気がなかったイギリスでは、ようやく肖像画以外の絵画の分野へも関心が注がれ、そののち新古典主義が花開くことになります。
カナレットやグアルディと同じ頃に活躍したのがピラネージ。
実は彼もカナレット、グアルディと同じヴェネツィアの出身。
1740年にローマに出て、ローマ教皇の支援を受けて古代遺跡の研究をしていました。
建築家でもあった彼は版画を学び、ローマの古代遺跡や都市景観を版画に描き、『ローマの古代遺跡』『ローマの景観』などの出版しています。
こちらも「ローマの景観」の1枚です。(これは昨今流行りのSNS向けに引き伸ばされたもの。撮影可)
ピラネージの作品を見ると、建築家ならでは細かい説明などが入っていて(この絵も右端に書かれている)それを読むのが老眼の眼にはつらいのですが、非常に面白い。
この通称「ミネルヴァ・メディカ神殿」にはA,B,Cと記号が振ってあり、Aは大理石で覆われているとかBはモザイクで覆われているとかまるでガイドブックのように細かく説明が書かれています。
これだけでも結構面白かったのですが、今回は予想外の嬉しい作品が有りました。
まずずっと見たかったアンリ・ルソー(Henri Julien Félix Rousseau)のこの作品。
ポーラ美術館所蔵ですが、ポーラ美術館では見たことがありませんでした。
「廃墟のある風景」
廃墟の描かれた作品でも、寒々しい雰囲気はなくむしろ暖かい感じ。
それは教会などの赤い屋根などのせいでしょうか?
まさかこんなところでルソーに巡り合えるとは。嬉しい出会いです。
そしてこちらも全然予想してなかったのですが、最近最も気になる画家の1人不染鉄のこの作品。
「廃船」
昨年東京ステーションギャラリーで没後40年を記念して、大規模な回顧展が開催され、それまで完全に忘れられていた画家でにわかに注目されています。かくいう私も、その展覧会で彼のことを知りました。残念ながら知った時には既に展覧会は終了していて、昨年最も行かないことを後悔した展覧会の1つでした。(実はもう1つ有るのですが、それはまた次回)
とにかく謎が多い画家です。
先日「美の巨人たち」でもこれではなく
こちらの「山海図絵(伊豆の追憶)」が取り上げられていました。
これ生で見たいですねぇ…
大胆な俯瞰と混在する細かな描写。
この写真からは分かりませんが、家の窓からは中にいる人の様子まで伺えます。
「廃船」は京都国立近代美術館所蔵の作品ということで、こんな機会がなければ見ることが出来ず、重ね重ね展覧会を見逃したことが悔やまれてなりません。
松濤美術館は、2階と地下に展示スペースを有しています。
今回も70数点しか展示されていなかったので、決して大きい美術館ではありませんが、静かで落ち着きがあり、お客さんにも変な人はいませんでした。(これはたまたまかな?)
地下はシュールレアリズムの中の廃墟から始まり、現在活躍中の日本人画家の作品で終わっています。
ポスターでも使われているユベール・ロベールの作品からマグリットの「青春の泉」
ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)の作品が有りました。
そして一番最後に心を奪われたのは
野又穣の「交差点で待つ間に」
これはピラネージへのオマージュが込められているそうですが、左下のハチ公やところどころの見慣れた風景からこれが渋谷であることが想像できます。
「実在しない建造物をモチーフに描く画家」として活躍中と言いますが、ここにはどうみても私たちの見知った渋谷があるではないですか。
この部屋には他の画家による廃墟と化した渋谷や東京駅があり、なんとなく恐怖を感じてしまったのは私だけでしょうか?
構成は6章に分かれていて
I章:絵になる廃墟:西洋美術における古典的な廃墟モティーフ
II章:奇想の遺跡、廃墟
III章:廃墟に出会った日本の画家たち:近世と近代の日本の美術と廃墟主題
IV章:シュルレアリズムのなかの廃墟
V章:幻想の中の廃墟:昭和期の日本における廃墟的世界
VI章:遠い未来を夢見て:いつかの日を描き出す現代画家たち
18世紀から今に至るまでの西洋画家から日本人画家まで、様々な画家たちが描いた崩れ行く風景を見ることが出来る。
終わりのむこう、そこには何があるのか。
それが新たな始まりであること願いつつ、次の展覧会へと向かう私でした。
「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」
1月31日まで渋谷区立松涛美術館にて開催。
http://www.shoto-museum.jp/
展覧会会場は撮影不可のため、Wikipediaなどから写真を借用しています。
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