イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

今どきの検閲事情

2020年11月01日 17時56分38秒 | イタリア・美術

1564年、Pio IV(ピウス4世)はDaniele da Volterra(ダニエレ・ダ・ヴォルテッラ)にMichelangelo(ミケランジェロ)が描いたGiudizio Universale(最後の審判)の裸体を隠すよう依頼した。
そのせいでミケランジェロお気に入りだった弟子が、その後Braghettone(ズボン作り)と呼ばれるような汚名を着せられる。
裸体にパンツをはかせたのは反宗教革命のせいだから仕方がなかったね、と今日の私たち考える。ダ・ヴォルテッラは悪くない。時代だったのだ。

数年前、私たちの世界にソーシャルネットワークがやって来た。
こいつは検閲という鎌を振り回し、Pompei(ポンペイ)のフレスコ画、先史時代のヴィレンドルフのヴィーナス (Venus of Willendorf)、ピカソの”トイレの女性(FEMMES À LEUR TOILETTE)”、コペンハーゲンの人魚姫までバッサリ斬られた。
なんで?

ご存知の通り、現在ソーシャルネット上に氾濫する無数のイメージの検閲は、生の人間ではなく、聡明なアルゴリズムが判断を下している。
じゃあ、誰がこのアルゴリズムを教育してるの?
どんな基準?
判断できる能力は?
”美”と猥褻の境はどこ?
私たちが経験上言えることは、全ての基準はその時代や文化をベースにしたコンテクスト次第。
ミケランジェロが描いた裸体画、唯一無二の芸術であったとしても、反宗教改革時、それは猥褻とみなされ、消された。

しかし少なくとも現在、ポルノと芸術作品や解剖学のタブローとを区別するため、イメージの歴史や背景を理解できるアルゴリズムを考えるのは難しい。
レオナルドの擬人化された天使だろうがヴェトナム戦争時、少女だったキムフックが裸で空襲から逃げ惑う「戦争の恐怖」(The Terror of War)と題され写真をポルノ女優の裸体とをアルゴリズムか区別できない。

そんなアルゴリズムの犠牲となった人達が、10年以上前からこの問題を提起している。
Facebookはルールを変更したいと繰り返し言ってはいるが、実際には自分たちのプロモーションキャンペーンには「危険な」画像がない、としててこでも動かない。

例えば数日前にあったLa La Madonna d’Alba di Raffaello Sanzio、ラファエロの「アルバの聖母」のケース

ワシントンのNational Gallery of Artに所蔵されている「アルバの聖母」。
確かにこのイメージの中にヌードがある。
と言ってもこの場合は子どものキリスト。
芸術家たちが何世代にも渡って、純粋に描いてきた赤ちゃんキリストの純粋なる姿で、誰もそこに卑猥さは感じないだろう。
だが、ローマのScuderie del Quirinaleで開かれたラファエロの展覧会のドキュメント映画の宣伝として画像を載せたところ、Facebookのアダルトコンテンツに関する法律に引っかかった。
「ヌードや皮膚の過度の部分を描写している」ということで、画像がブロックされた。
もし画像を載せたいなら、問題の部分を切り取るように指示されたという。

片やAntonio Canova(アントニオ・カノヴァ)のTre Grazie(三美神)のケース

大理石とは思えないこの滑らかな透き通るような肌が何とも言えない、ギリシャ神話の有名な3人の女神たち。2019年9月FB及びインスタグラムのあほらしシステムの餌食になったのはGypsotheca di Possagno(ポサンニョ石膏美術館)
たまたまですがまたまた出場、Fondazione Canova(カノヴァ財団)の館長だった Vittorio Sgarbi(ヴィットリオ・ズガルビー)は「アホなアルゴリズムはポルノと芸術も区別できん!」と怒りをあらわにし、訴訟を起こすと言ったそうだ。

 他にもルーベンスやロダンが餌食になっているらしい。(ロダンのケースは最終的にはうまく行ったらしいが)
この記事は下記のサイトの日本語訳に基づいている。
写真はWikipediaよる借用。

参考:http://www.arte.it/notizie/italia/

呆れる話だったので、途中で書くの止めようかと思ったのだけど、やっぱり最後まで書いた。
人がやっていることではないから仕方がないと諦めて、アルゴリズムが進化するのを待つのが良いのか?
いやいや、やっぱり声をあげないとだめだよね。
特に相手が世界を牛耳っている人達なら。
しかしいつか芸術と卑猥の区別がAIに出来る時代が来るのだろうか。
それはそれで恐ろしい。



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2 コメント

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facebook (山科)
2020-11-02 09:02:37
facebookは、社長・創立者 ザッカーバークが嫌いなので、使ってはおりません。
 まあ、企業の広告には良いのかなあ、個人が使うものではないと当方は感じています。
今回、バイデン汚職・スキャンダルも全面的に検閲し隠蔽したようですね。最低です。
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便利になると… (fontana)
2020-11-02 10:34:04
山科様
コメントありがとうございます。
検閲、隠蔽というのはいつの時代にも有ったことですが、便利な世の中になったことでかえって不自由になったなぁと思う昨今です。
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