昨今よく貴重な情報をコメントしていただいている山科様のブログに気に有る本の記事をみつけ、早速その本を図書館から借りて読んでみました。
「消えたカラヴァッジョ」アメリカン人ノンフィクション作家のジョナサン・ハーが2005年に出版した作品で、どうやらアメリカではベストセラーになっている作品のようです。
読んでみた結果、”読み物”としては非常にテンポよく面白かったです。
しかし、イタリアで底辺の底辺ですが美術史をかじったものとしては、色々な意味で考えさせられる作品でしたね。
美術史をイタリアで勉強し始めたころ、恩師は「古文書館や図書館に通うことが美術史の研究だ」と教えてくれましたが、この本を読んでいると本当にそうだなと思います。
一学生だったフランチェスカとラウラが、後に偉大な発見をしてその世界に名前を刻むことが出来たのは、ほぼ奇跡。
どの世界も大して変わらないと思うけど、特に古い伝統に縛られたアカデミックな世界で名を成すには、実力以外の様々な要因が必要なんだよねぇ、なんて思ってしまった。
実はこの本を読む前に読んでいた
こちらも有名美術史家ではない素人が、ゴッホ最大の謎「耳切り事件」について独自調査、研究をするという話だったのですが、これを読んだ時もとにかく資料探しの重要さがひしひしと伝わってきました。
そして、やはりそういう点でも外国人がこの世界に入り込むのは一筋縄ではいかないなと改めて思った次第です。
カラヴァッジョなどの超大物を研究し世間に認められていくには、どれだけの権威ある研究者を負かして進まなければいけないのか…イタリアでは未だにカラヴァッジョ研究の第一人者はロベルト・ロンギ(Roberto Longhi)ですからね。
実際この作品のテーマである、ダブリンに有るカラヴァッジョの真作とされる作品が気になって検索したところ、なんとタイムリーなことに、この作品を発見したセルジョ・ベネデッティ(Sergio Benedetti)が先週亡くなったことを知りました。75歳だったそうです。定年退職した後は故郷のフィレンツェに戻って研究を続けていたそうですが、周りからは「寡黙で非常に孤独な研究者」と思われていたそうです。どこかですれ違っていたかもしれないな。
ご冥福をお祈りいたします。
彼は1990年ダブリンのNational Galleryで修復士として働いていた時に、1700年代ローマから消えたカラヴァッジョの作品「キリストの捕縛(Cattura di Cristo もしくは Presa di Cristo nell'orto)」に出会います。
ダブリンでは昨年大きなカラヴァッジョの回顧展が開催されていたようです。
(ほとんどはカラヴァッジェスキの作品だったようですが)
その辺の詳しい経緯がこの本に書かれているのでここでは省きますが、なんとこの作品私もRomaで2010年に見ていました。
展覧会を見たことはブログにも書いていたのですが、内容については「後で改めてまとめます」と言いながらいつものように流していました。あ~もうだめだめだ。
辛うじてカタログを買った記憶があったので、封印されている段ボールからなんとか発掘してきました。
笑っちゃうことに、ビニールかかったまんま。ということは2010年から開いたことなかったんですね。まぁこれだけではないですけどね。
ブログを読み返してみたら、この2010年のRomaのカラヴァッジョ展って、それまでの10年間で一番来場者の多かった展覧会だったんですよね。
まさかそんな話題の展覧会だって知らずに見に行った私…
あ~無知ほど恐ろしいものはない。
滅多にない機会(笑)なので、カタログを開いてびっくり!
最近日本のカタログって高いわりにあまり作品に関する解説が詳しくなくて、がっかりすることが多かったのですが、これはイタリアでも珍しく出展作品すべてに詳しい解説が付いてます。
それぞれの作品を有名なカラヴァッジョ研究者が解説、なんて贅沢&展覧会の意気込みが今更ながら伝わってきました。
早速セルジョ・ベネデッティが執筆している「キリストの捕縛」を読んでみました。
残念ながら「消えたカラヴァッジョ」に書かれてあったこととほぼ変わりありませんでしたけどね。
それにしても…
ホントにしょっちゅう「カラヴァッジョの真作発見!」というニュースをイタリアに居る時は耳にしていました。
現にこのブログでも2011年にスペインで発見された作品についてさらっと触れていました。
これが本にも書いてあった”カラヴァッジョ病”のなせる業ですね。
実は昨年末イタリアに行っていた時に、丁度ミラノでカラヴァッジョの展覧会をやっていて、とりあえず見たんです。
こちらは王宮(Palazzo Reale)で開催していた「カラヴァッジョの内側(Dentro Caravaggio)」というもので、20点弱が出展されていましたが、ダブリンの「キリストの捕縛」は有りませんでした。
出展されたいた作品をすべて科学的に調査し、その結果を作品と合わせて展示するという、今までにはない展覧会で予想以上に面白かったです。
しかし、1つ気になったことがありました。
それは目と鼻の先イタリアギャラリー(Gallerie d'Italia)にもカラヴァッジョの作品が展示されていたんです。
カラヴァッジョの作品はポスターになっているこの絵だけなのですが「カラヴァッジョの最後(L'ultimo Caravaggio)」というタイトルから分かるようにこの作品、カラヴァッジョが描いた最後の作品と言われています。
「聖オルソラの殉教(Martirio di sant'Orsola)」
確かこれ、まだ真贋問題で揺れている作品ではないかな???
強くそう思ったのは、この作品の写真が王宮の展覧会の最後に飾ってあったことから。
というのももしこれが100%本物だったら、王宮の方の展覧会に展示するでしょう?
まぁこれも素人の浅はかな考えかも。実はそこら辺を知りたくて、カタログを購入しようと思ったのですが、これが電話帳並みの大きさで、すごい重さ。イタリアの紙の質ってどうしてこうも悪いんだろう?
まぁ私はカラヴァッジョの研究をしているわけではないので、ということで購入を諦めました…が今頃になってやっぱり買えば良かったかな?と少々後悔しております。
そしてもう1つ気になったのは、「あれ?これって最後の作品だったけ?」ということ。
というのも確か2016年日本で世界に先駆け一番に一般公開された
法悦のマグダラのマリア(Maddalena in estasi)
2014年に発見された作品ですが、こちらも真贋問題でかなり揺れてますが、確かこれが最後の作品では?
これって、カラヴァッジョが死ぬまで持っていた作品…と言われてますよね。
一応イタリアで一番のカラヴァッジョ研究者ミナ・グレゴーリ(Mina Gregori)が真作の太鼓判押していますけど、こちらも他に8枚の版が有るらしいですから、実際のところはどうなんでしょう?
謎に満ちているのがカラヴァッジョの最大の魅力、といってしまえばそれまでですが。
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