前回
「San Sebastianoは殉教聖人の中でも、唯一裸で描かれることを許されている。
この時代宗教画において、裸で描かれることが許されていたのは、キリストとSan Sebastianoの二人だけ。」
と書いたあと、ふと疑問が…
これ確かに資料にそう書いて有ったのだが、果たして本当か???
というのも、実際裸で描かれた聖人像が浮かんで来たから。
例えば
Angelico(アンジェリコ)が描いたSan Lorenzo(聖ラウレンティウス)
1447年から1448年にヴァチカンのCappella Niccolina(ニッコリ―ナ礼拝堂)に描いたものでここはBenozzo Gozzoliの手も加わっていると言われる。
しかし、同じくSan Lorenzoを描いたモザイクは、ちゃんと服を着ている。
Ravenna(ラヴェンナ)のMausoleo di Galla Placidia(ガッラ・プラキディア廟堂)
San Lorenzoのアトリビュートの網。この上で焼かれるという責め苦を受けた。
こちらは5世紀半ばごろの作品。
そしてこちらもモザイク
RomaのSan Lorenzo Fuori le mura(サン・ロレンツォ・フォーリ・レ・ムーラ)
San Lorenzoは一人だけ違う服を着ている、左から2番目の本を開いて持ってる人。
あれ?やっぱり服着てるか。
ん?????
ということで調べてみたら、やはり1800年代に入るまで基本的に裸で描いて(彫刻も)良いのはとりあえず神話上の人物だけだったが、実は他にもVenere Anadiomene(海から出て来るアフロディテ)、le tre Grazie(美の三女神。輝き、歓び、開花を象徴する三姉妹、アグライア、エウフロシュネ、タレイア)、il giudizio Paradiso(天国の審判)、Leda e il cigno(レダと白鳥)、la storia di Adamo ed Eva(アダムとイブの物語)、la crociffissione(キリスト磔刑図)、l'allegoria e il puto(アレゴリーと天使)などに裸の人物が描かれていたが、基本的には裸はNG。
しかし、だんだんと特例が認められて来た。
それがSan SebastianoしかりSan Lorenzoしかり。
というのも、中世、キリスト受難のイメージを筆頭に、見るものに分かりやすくするために神学にのっとって、犠牲や罪への贖いのシーンを特に辛そうに、悲惨に描く傾向が出て来た。
それだけでなく、裸体が描けるだけの画家の技量も必要になった。
服を着ていればごまかせるけど、ヌードはそういうわけにはいかない。
こうしてまず頻繁に描かれるようになったのがMadonna del Latte(授乳の聖母)であったり、Maria Maddalena(マグダラのマリア)だった。
そして聖人たちの迫害、殉教シーンも裸体で描かれることが増えた。
中でもSan Sebastianoの裸で矢が刺さったイメージは、非常にポピュラーになった。
ルネサンス時代になると、リアリズムの追求と解剖学の研究が進んだことにより聖人の裸体表現が増える。
1426年頃、Masaccio(マサッチョ)が描いた逆さ十字に貼り付けられるSan Pietro(聖ぺトロ)
そして裸体図の頂点がMichelangelo(ミケランジェロ)のCappella Sistina(システィーナ礼拝堂)だろう。
ミケランジェロは、ローマ教皇Cremente VII(クレメンス7世)と後継のPaolo III(パウルス3世)の命で、1533年から1541年にかけて主祭壇背後の壁に「最後の審判」を描く。
Apocalisse(新約聖書のヨハネの黙示録)に基づく「最後の審判」が描かれる時は、割と早い時期から裸体描写が認められていたが、ミケランジェロは少々行き過ぎた。
ミケランジェロの死後、教皇の命で腰巻を描かされたDaniele da Volterra(ダニエレ・ダ・ヴォルテッラ)はIl Braghettone(ズボン作り)という不名誉なあだ名が付けられてしまった。
Leonardo da Vinci(レオナルド・ダ・ヴィンチ)が遺体を写生したのもこの時期だし、Raffaello(ラファエロ)は初めて生きた人間をモデルに女性のヌードを描いたと言われている。
そして殉教聖人の劇的なシーンと言えばやはりこの人を忘れるわけにはいかないだろう。
写真かと見まごうばかりのリアリズム。もう1600年ですからねぇ。
Caravaggio(カラヴァッジョ)がRomaのSanta Maria del Popolo(サンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂)のCappella Cerasi(チェラージ礼拝堂)のために制作した”Crocifissione di san Pietro(聖ペテロの磔刑)”
人体表現がどれほど進化したかを見比べるにも、調べて良かったかな、と。
ということで、San Sebastianoが「裸で描いて良い唯一の聖人」、かどうかはっきりした記録は見つかっていない。
参考:https://it.wikipedia.org/wiki/Nudo_artistico
写真:Wikipedia
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エジプトの聖マリア でしょうか
黄金伝説の挿絵(1483 )でも、もろ裸体ですね。他にも男性で2,3 例があるようです。
コメントありがとうございます。
「エジプトの聖マリア」については知らなかったのですが、こちらもすごい人ですね。
1480年くらいだと割と裸体描写が増えてきた時期なのでしょうね。
これ、現物を2016年に見たのですが、全然記憶にありませんでした。ただ、URLのように閉めた状態で見ると全く違いますね…