ようやく体調もほぼ全快ということで、2019年初の展覧会に行って参りました。
その栄えある(?)第1作目は、21日まで日本橋高島屋で開催中の「サンタフェ リー・ダークスコレクション 浮世絵 最強列伝」です。
百貨店内の美術館での開催ということで、正直あまり期待してなかったのですが、予想をいい意味で裏切る、既に今年一番と言ってもいいくらいの素晴らしい展覧会でした。
やっぱり全国5か所も巡回しているだけあります。
実は横浜にも昨年10月に来ていたのですが、何せどの会場も会期が短く、横浜で開催していた時期はイタリアに行っていたので、見られず、満を持しての観覧になりました。
2月23日からは大阪の高島屋で、日本最後の展覧会が行われますので、関西方面の方は是非ご覧ください。
最初にちょっとだけ文句を言いたいのは、やはり美術館で行われる展覧会と客層が違うこと。
マナーが悪い人が多いんです。開催者側の意識にも問題有りますけど。
場内に警備の人がいるにもかかわらず、線の中に入って、作品に触れんばかりに近づいたり、買い物の荷物やキャリーバックまで引っ張って鑑賞している人たちに声をかけないところ。
これは、係員が注意すべきことではないでしょうか?
更に最近たびたび言っていますが、リュックでの鑑賞、これもなんとかならないものでしょうか?
会場がガラガラな場合は良いですよ、でも海外では大きなバックやリュックサックは、万が一作品を傷つけると困るので、預けるように指示されるところ多いです。更に人が多いとぶつかって非常に迷惑。時々前に回している人もいますけど、ほとんどが無意識。
ここ、百貨店なのに、ちゃんと無料ロッカーも有るし、場所柄スーツケースなどを持ってくる人もいるので、入り口で預かってもらえていました。
お願いなので、狭い会場や人が多い時は、全ての人が心地よく鑑賞できるようにもう少し気を遣って欲しいと思います。
とまぁ文句はこれくらいにしておいて…
海外のコレクターの優れた日本美術の展覧会を見ると、嬉しいと同時にちょっと残念な気持ちになります。
なぜこれほどのものを国外に出してしまったのか…
これは日本だけの話ではありません。イタリアやギリシャなど、多くの国が無知だったゆえに起きた悲劇。
略奪問題など、根深い部分もありますが、大抵は先見の明があったコレクターの勝。
ただ反対に国外に出たからこそ、大事に保存してもらえたという面のあります。だからちょっと複雑な心境です。
さて、今回はサンタフェのリー・ダークスコレクションという個人的には全く聞いたことのないコレクションからの出展でした。
サンタフェと言えば、今の若い人は知らないでしょうが、あの宮沢りえのヌード写真集で一躍有名になったアメリカの都市でしたね。1991年のことでした。
それはさておき、××コレクションと聞くと、なんとなくコレクターの死後その収集品を寄付して…と思ってしまうのですが、このコレクター、リー・E・ダークス氏は現在ご存命。
1958年から61年にかけて、空軍士官として横田基地に在住していた時に日本の版画に触れたことがきっかけでコレクションがスタートという割と最近の話。この時期はお金もなく、当時どれくらいの価値があったのかは分かりませんが、斎藤清の版画ですら買うこともできず河野薫の「蝶」という作品1枚を手に帰国したそうです。
美術館レベルの作品を収集できるようになったのは2000年代に入ってからのこと、と考えると今回展示されていたのはおよそ160点。20年弱でこれほどレベルの高い作品をこれだけの量集められるって、財力もさることながら、その情熱に脱帽します。
コレクションの内訳は、1680年代初めの菱川師宣2枚の版画を皮切りに、有名どころでは鈴木春信や喜多川歌麿の美人画、写楽の役者絵、北斎、広重など錚々たる浮世絵作家の作品を含む、このコレクションだけで浮世絵版画誕生からの200年をざっと切おさらいできるラインナップになっているそうです。
ただ今回私が特に素晴らしいと思ったのは、このような浮世絵にちょっと興味があるという、まさに私のようなタイプでも聞いたことが有るような大物の作品だけではなく、今回初めて、もしくは以前作品を見ていても名前が印象の残っていないような人の素晴らしい作品が多数コレクションに有ったことでした。
会場の照明が作品保護のために非常に暗くなっているのがとても残念ではありましたが、いくら線は引かれていても、あれだけそばに寄れるからこそ会場に足を運ぶ意味があるというもの。
「ポストカードでも非常にいい色が出ていました」という記述を見ましたが、とうてい実物にかなうわけありません!
決して広いとは言えない会場ですが、展示は6つのテーマに分かれていて、展示数は166点というお腹いっぱいな数です。
1.江戸浮世絵の誕生ー初期浮世絵版画
2.錦絵の創生と展開
3.黄金期の名品
4.精緻な摺物の流行とその他の諸相
5.北斎の錦絵世界
6.幕末歌川派の隆盛
今回一番良かったのはテーマ4。中でも岳亭の作品がすごかったです。
例えばこれ
「文化・文政期(1804‐30)に入ると、錦絵はそれまでのおおらかな雰囲気から、より細密な描写となり、画面に表される情報量も増えてゆく。商品ではなく、私的な出版物として制作される摺物もシリーズ物が増え、ことに色紙版の狂歌摺物では、精緻な彫、金銀摺、空摺など贅をこらした作品が多く作られている。」(公式カタログより引用)
ということでここには小さいながら贅をこらした作品が30数点並んでいたのだが、中でもこの岳亭の色紙サイズの作品が素晴らしい!!
大きな鯉が描かれた掛物を炬燵の上に掛け、その上に腰かけて本を読む遊女は中国の琴高仙人に見立てられている。
遊女の打掛にも、鯉にちなんだ藻の模様が銀摺で表され、背景には鶴の紋まで入っています。
銀摺?というのは銀を用いた摺ということでしょうか?光線の加減でキラキラしていました。
そして細かい細かい微妙な凹凸、これが見もの!!
ここに並んだ岳亭の作品はどれも非常に芸が細かい。
岳亭とは岳亭春信のこと。
詳しいことは分かっていませんが、魚屋北渓と葛飾北斎の門人だったとか。
それを聞いただけでもどおりで、と思いますが、いやいやどうしてこれは素晴らしい。
そしてもう1人、良いと思ったのが師匠の魚谷北渓
中でもこの作品はすごかった。
「長生殿」という作品。
唐の玄宗皇帝は、亡くなった楊貴妃を慕い、方士揚通幽に楊貴妃の魂を探させ、通幽は蓬莱山で楊貴妃に会う。
楊貴妃は玄宗皇帝にもらった金の簪と鈿合(蓋つきの螺鈿の小箱)の片方じつを通幽に渡し、帝を8月の十五夜に月宮に導くよう伝える。そしてその十五夜の夜、通幽は月に仙橋を架け、帝と共に月宮へ向かい、帝は晴れて楊貴妃と巡り会い、二人は忉利天(とうりてん)に住むようになる、というシーン。(公式カタログ参照)
銀に輝く月や細かい装飾が非常に繊細な作品です。
魚屋北渓(ととやほっけい)は北斎の門人。北斎門人の中では、蹄斎北馬とともに双璧とされ、特に代表作として横長判の揃物「諸国名所」シリーズや、『北里十二時』、『北渓漫画』などが有名。また滝沢馬琴作の『近世説美少年録』の挿絵なども知られている。(参考:wikipedia)
他にもこんな面白い作品もありました。
歌川国芳の「亀喜妙々」
亀の顔が役者の似絵になっています。
役者と浮世絵って切っても切れない存在で、会場を回りながらところどころに現れる「市川團十郎」の名前を見ながら、最近の襲名会見を思い出していました。
なんとこの亀の中にも市川団十郎がいます。8代目ですけどね。
右下の大きな亀は4代目中村歌右衛門(裏梅の紋)、その左は市川九蔵(三升と九)、中図の杯を手にしているのは酒好きで知られる市川箱右衛門(八古)、左図の右は3代目関三十郎(三十)、左は2代目尾上菊次郎(菊花)、その上が8代目市川団十郎(三升)なんだそうです。
天保の改革で禁止されていた役者絵も、弘化3年(1846)11月以降、役者の名前を入れないことを条件に実質解禁され弘化4年以降は上演芝居の絵が次々に出版されたそうです。(公式カタログ参照)
亀の甲羅に描かれた紋によって、当時の人はそれが誰のことかすぐに分かったことでしょう。
それにしても亀に顔を書き入れるなんて、おめでたいというか…
他にも残数が少ない作品や、貴重な初摺のものなど、本当にどれも素晴らしい作品ばかり。
東京での開催はあと数日ですが、是非実物を近くに寄ってじっくりご覧になっていただきたい。
ただし、あまり近くに寄りすぎると私みたいな人に怒られちゃいますけど。(心の中とここでしか不満はぶちまけてないですけどね)
サンタフェ リー・ダークスコレション 浮世絵最強列伝
1月21日まで
日本橋高島屋
この後大阪へ巡回
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/event/ukiyoe.html
コメント&情報ありがとうございます。
いいですね、外国人へのお土産などにもよさそうなので、ちょっと見てみようと思います。