イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

戻って来たクリムト

2020年01月22日 17時26分47秒 | イタリア・美術

数日前、日本のテレビや新聞でもちょっとした話題になっていた「23年ぶりに発見されたクリムトの肖像画」

この作品は、公には1997年2月22日に、Piacenza(ピアチェンツァ)のGalleria Ricci Oddi(リッチ・オッディ絵画館)から盗まれた。(実は盗難自体はその数日前に起きていたのだが、盗難が発見されたのは22日ではないかとも言われる。)
絵画館は、間もなく始まる特別展の準備中だった。

ピアチェンツァには私も行ったとこが有るが、目的は中世の彫刻が溢れる教会と大聖堂の丸天井に描かれたGuercino(グエルチーノ)のフレスコ画を見るため。


写真:https://cattedralepiacenza.it/museo/la-salita-alla-cupola/

この盗難事件のことは知らなかったし、クリムトだけでなくFrancesco Hayez(フランチェスコ・アイエツ)やSegantini(セガンティー二)Silvestro Lega(シルベストロ・レーガ)など結構いい作品を所蔵している近代美術館が有ることも知らなかった。

1997年に盗難に遭ってから、実に22年間行方不明だった。
誰が、どうやって盗み出したのかは未だに謎だが、美術館の屋根に額縁が残っていたことから、犯人は天窓から侵入、逃走した可能性が高いと言われている。
また、盗まれた後、キャンバスは悪魔信仰の儀式に使われ、既に破壊されてしまったのでは、なんて噂がまことしやかにささやかれていたとか…

それがなんと、昨年末発見された。
それもなんと美術館の敷地内から。まるで映画の世界みたい…
美術館の外壁の茨で覆われてこれまで誰もしらなかった、秘密の扉の奥にこの絵は隠されていた。

写真:https://www.artslife.com/2019/12/11/ritrovato-klimt-sparito-piacenza-1997/
温度も湿度も最悪のコンディションのこの場所に、絵画が22年間も置かれていたとは思えない。
なぜなら絵画は極めて良好な状態で見つかった。
ということは最近になって誰かがここに置いたのでは…???

どちらにせよ、見つかったことは何よりだ…とか思っていたところ、なんと犯人が自首してきた!?
なんでも犯人は60代の押し入り強盗(scassinatore)で前科もの。
宝石店、銀行、金持ちのお屋敷などに強盗に入った他、有名なのは1985年ピアチェンツァのbiblioteca Passerini Landi(パッセリーニ・ランディ図書館)から貴重な細密画を盗んでお縄に。
果たしてこの人物が本当に犯人なのか?
参考:https://www.tio.ch/dal-mondo/cronaca

こちらの絵画館には、以前も数回「クリムト発見!?」と言って、偽物が持ち込まれたことが有ったので、対応は慎重を極めた。
そして1月17日、ようやく本物と判明、美術館のオフィシャルサイトにも堂々と「本物」と書かれている。
よかった、よかった。
http://riccioddi.it/il-klimt-autentico/
資産価値およそ6000万ユーロ(約73億円)。

日本語だと詳しいことは分からないので、本国イタリアのサイトを見てみたら、この絵画の貴重性は「盗難」だけではなかった。
なんとこの絵、1枚のキャンバスに2枚の絵が描かれているという、非常に貴重な作品だというではないか。

なんでも盗難に合う1年前の1996年、高校卒業資格を得るための試験勉強のため図書館でクリムトのモノグラフをパラパラめくっていた、当時18歳の女子高生、Claudia Mega(クラウディア・メガ)。
その時なんとなく目をとめたのが、「夫人の肖像」ともう1枚、「若い女性の肖像」。

すると彼女は何かピンと来て、その2枚を拡大コピー。
見比べたうえ、1枚のコピーの上に薄紙を置き、顔の輪郭を写し取り、それをもう一枚の上に乗せてみた。
ビンゴ!!(古っ)
なんと二人の顔の輪郭がぴったり一致!
18歳(19歳という記事もある)の少女の胸は高鳴った。
こんな重大な発見、既に高名な学者たちが見つけているに違いないと自分を落ち着かせてみたり…

ある新聞記事(こちら)にはこう書かれていたけれど, 美術館の公式サイトには、「(クラウディアが)美術館を学校行事で訪れた際、実物の『婦人の肖像』を見たとき、数年前に教科書で見た別の画像を思い出した。」と有る。
どっちが真実?
なんてことはそれほど重要ではなく、とりあえず一女子高校生が発見した、ということが重要。
彼女は自分の発見をまず高校の校長に伝える。実はこの校長、当時市立美術館の館長も兼任していた。
発見に驚きはしたものの、この校長、すぐにリッチ・オッディ絵画館の館長に連絡。
この辺り、自分の手柄にしなかった大人たち、偉いじゃん。
結局彼女の発見がきっかけで、その後の詳しい調査の始まる。女子高生はもちろん注目の的、一躍有名人になったらしい。まぁ当然だけど。

結果、彼女の発見は大当たり。
レントゲンを撮っただけではっきり。「婦人の肖像」の下に若い女性が隠れていた。

「婦人の肖像」は1925年Giuseppe Ricci Oddi(ジュゼッペ・リッチ・オッディ)がミラノ出身のLuigi Scopinchi(ルイジ・スコピンキ)より購入した。もちろん若い女性の幽霊が付いていることなど知らずに…
「若い婦人の肖像」は、1912年ドイツのドレスデンで展示された記録が、1917‐18年にドレスデンの「Velhagen und Klasings Monatshefte」という雑誌に載ったのを最後に、消息不明になっていた。

クリムトは1918年に亡くなった。
死の数年前、女性の肖像画の連作を描いていたことは知られている。
今回戻って来た「婦人の肖像」が描かれたのは1916-1917年と考えられている。
本人が若い婦人を年取らせた、「上書き」したってこと?でもなぜ?

さて、この世紀の大発見をした女子高生はその後どうなったのか?
世紀の大発見は、その後の彼女の人生に大きな影響を与えた。
クラウディアは現在教師兼研究者となった。
今回の「婦人の肖像」の帰宅については非常に喜んでいて、「一日も早く実際見られることを望んでいる」とコメント。
また「慎重になることは大切なことだけど、不安は避けられないけどとりあえず試してみる事だ」と過去を振り返っている。

参考:http://riccioddi.it/ritratto-di-signora-di-gustav-klimt/
         Corriere della sera



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