夏の甲子園・全国高等学校野球選手権の地方大会が始まっています。まだ開催されていない地方大会も組み合わせが決まったりして、高校野球のニュースも多くなってきています。その中には、最後の夏となる三年生のドラマもあります。
南北海道大会。6月28日は4地区で13試合が行われました。小樽支部予選では昨夏の南北海道代表校の北照高と倶知安農高・蘭越高・小樽明峰高の連合チームが対戦しました。結成3ヶ月という連合チームをまとめてきたのが、5年ぶりの大会出場になった小樽明峰高の小川颯太主将でした。
小樽明峰高は2014年の大会を最後に、部員不足で活動していませんでした。中学時代から野球部だった小川主将は入学後も野球を続けたいと思い、野球の指導経験のある由利矩章先生に、野球部復活をお願いし、由利先生と2人で、グラウンドの草むしりを始めたのが野球部の再スタートでした。
ですが、翌年の新入部員はゼロ。試合は出来ず、大会にも出場出来ずに辞めようかとも思いますが、今春に一年生4人が入部して道高野連に再加盟しました。4月から、倶知安農高と蘭越高と3校で連合チームを組み、5年ぶりに夏の大会へ出場と出来ることになりました。
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試合は北照高の一方的なペースでコールド負けでした。連合チームでキャッチャーを務めた小川主将は、ワンバウンドの投球を何度も胸で受け止める好守をみせました。ピンチではマウンドに駆け寄り、「コールドになっても最後まで野球を楽しもう」とメンバーに声をかけました。5回表に連合チームはヒット3本を放ち、2アウト満塁のチャンスを作って意地を見せましたが、念願のホームは遠かったようです。
「野球を続けてきてよかった。野球ができる楽しさと、続けることの大切さを学んだ」と、試合後に小川主将は涙をぬぐっていました。
同じ6月28日の北北海道大会は3地区7試合が行われました。空知支部予選では、やはり、今年の春から連合チームを組んだ月形高・砂川高・夕張高が深川西高と対戦しました。
2017年の夏の空知支部予選では、栗山高・夕張高・月形高・奈井江商高の4校連合チームは地区準優勝でした。「連合でも、ここまで来られる」と、当時の主将の試合後の言葉を、今の三年生は鮮明に覚えています。夕張高の宮岸由海主将は「先輩を超えて、夏は北大会に出場する」と意気込んでしました。
空知地区では、旧産炭地を中心に部員減に悩むチームが多いため、ここ数年、監督が集まって連合チームの編成方法について話し合いノウハウを蓄積してきました。毎年4月初旬には入部者のリサーチをして単独出場が難しい学校を把握し、4月中には連合チームを結成して練習を始める仕組みという仕組みが出来ています。宮岸主将は「大会に出られるのは先生たちが連合を組んでくれるおかげ。それに、3人の監督から指導を受けられる。学びが3倍なんです」と言っています。
ちなみに、宮岸主将は地元の夕張ではなく、岩見沢市の高校への進学を勧めらましたが、「夕張が大変なとき。部員が少なくても野球をやって声を響かせよう」と地元に残りました。冬は除雪の手伝いで高齢者の家庭を回り、お年寄りたちから「元気な声が聞けてうれしいよ」と声をかけられ、期待に応えようと頑張ってきました。
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宮岸主将はピッチャーとして先発しましたが、守備のミスからリズムを崩して2回で降板しました。3回からはバッテリーが入れ替わり、今度はキャッチャーとしてピッチャーをリードし、3回、4回を0点に抑えましたが、流れは止められません。5回裏に宮岸主将の目の前で、深川西高が10点目を入れて試合終了となりました。
「連合チームが集まれるのは週末だけだけど、助け合って試合をする団結力がついた。やりきったと思う」と、試合後には、ほっとした表情でした。
南北海道大会の札幌支部予選。札幌白陵高に大宮瑞生選手は今夏、試合に出ることなく引退を迎えました。人口が集中し、部員不足の学校が少ない札幌では連合チームを組めなかったからです。ただ、札幌でもこの秋に連合チームが生まれる可能性があるそうです。
一昨年の夏の大会後に一年生だった大宮選手だけになりました。自宅で自主練習をする日々を過ごし、工夫次第で野球は1人でも練習できると考えてきました。それでも部員として籍を残したのは、将来も野球を続けるつもりだったからだそうです。部長先生から「今年も道高野連の登録部員として名前を残した」と告げられた時はうれしかったそうです。「1人部員でも、自分は高校球児なんだとプライドを持てた。進学後のための体作りも練習も頑張ろう」と思えたそうです。
でも、やっぱり試合に出たかったと思うそうです。一年生の夏、キャッチャーとして出場した試合で2つの盗塁を刺し、中嶋淳監督が万歳して喜んでくれた瞬間が忘れられないそうです。中嶋監督は「人数がそろわない学校が他にもあれば連合を組めた。試合に出させてあげたかった」と話しています。
大宮選手は、6月23日に開幕した札幌地区大会の始球式に登板しました。キャッチャーは中嶋監督。最後の夏、円山球場のマウンドに立ちました。
「野球の神様からのプレゼントだと思う」と、はにかんでいました。
高校三年間。
たくさんのメンバーとともに、多くの試合が出来、思い切り野球が出来る環境の選手は多いと思います。
でも、こういう環境を経験している選手はそうはいません。そこでしか学べないことだってあります。
きっと、人として大きくなってくれると思います。