夏の甲子園。選手権大会の決勝が昨日行われ、栃木･作新学院高校が優勝を果たしました。作新学院高にとって1962年の春夏連覇時の54年ぶりとなる優勝ですが、栃木県の高校にとっても54年ぶり二度目の優勝と成ります。
それだけに、選手、学校関係者はもちろんのこと、地元は嬉しいことでしょう。
プロ野球では優勝パレードや祝勝セールがあります。祝勝セールに至っては、どこのチームが優勝しても優勝セールをやってくれる有難いお店もあったりします。ところが、もっと地元密着ともいえる高校野球では地元での優勝パレードも地元商店の祝勝セールも、高野連によって自粛が求められています。
その理由は日本高野連のホームページに書かれている「日本学生野球憲章」にあります。そこには「学生野球における基本原理」として、「教育の一環であり、平和で民主的な人類社会の形成者として必要な資質を備えた人間の育成を目的と」し、「友情、連帯そしてフェアプレーの精神を理念とする」とあり、さらに「野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない」と記されています。つまり、優勝パレードや祝勝セールは「華やかなパレードは高校生を英雄扱いし間違った心情を植え付ける」ことと「高校野球の商業利用」になるからなのです。
(これは、「高校野球」に便乗していると思いますが、高校野球とは一言もなく、あくまでも「甲子園」が主体なのです)
1980年の第62回選手権大会で横浜高校が優勝した際(決勝は愛甲猛さんする擁する神奈川･横浜高と荒木大輔さん擁する西東京･早稲田実業高)、新横浜駅に2万人の人だかりが出来、横浜高ナインの到着を待った事に起因し雑踏警備の対策として優勝パレードの禁止や、商店街による「優勝セール」などの便乗商法も合わせて禁止する対策が必要になってきたとして、まとめられました。つまり現在は自粛という名の下、禁止されていると言っても良いと思います。それは、2001年の第83回選手権大会で滋賀･近江高が準優勝した際、地元商店街が祝勝セールを企画したところ、県高野連から「純粋な青少年育成を目指す大会の趣旨に反する」と待ったがかかり、2015年の第87回選抜高等学校野球大会で優勝した敦賀気比に対し、自粛を求めています。
今年、選手権大会に出場した熊本･秀岳館高が大会前に八代市役所に市長を表敬訪問した際に、市長は「深紅の優勝旗を八代に持って帰っていただきたい。大々的に優勝パレードをしたい」と期待を込めて選手を激励しましたが、優勝したとしても実現不可能だったのですよね。
さて、戦争のために中断されていた高校野球(中等野球)が再開されたのが70年前の1946年の夏の選手権大会からでした。
中断されていた6年間には、多くの元球児が戦争で命を落としていました。まだ、戦争が終わって生活物資も十分とは言えず、野球を楽しむ日常生活とも言えない中で、6年ぶりに行われた28回目の全国大会の開会式には4万人以上、開催期間中は常に3万人以上の観客が詰めかけたと記録されているそうです。
この戦後初の全国大会は大混乱の中で行われました。まず、阪神甲子園球場は連合国に接収されたため、西宮球場での開催となり、野球用具は空襲で焼け、どのチームも不十分で、グラブは布で作り、スパイクはズック靴で代用。ユニホームは昔のモノを思い出しながら縫い合わせる。そんなチームがほとんどだったそうです。特にボール不足は深刻で、揃わない場合はスポンジボールの使用が検討されたほどであり、OBたちが大事に保管していた記念のサインボールなどの提供を受けて乗り切ったそうです。食料も足りず、全チームは西宮市内の関西学院の寮で合宿。米を持参してきた地方のチームは、試合に負けると勝ち残っているチームに譲るという話しでした。
この第28回選手権大会で、戦後初の全国制覇を遂げたのは大阪･浪華商(現; 大体大浪商高)でした。第1回選手権大会優勝の京都･京都二中(現; 鳥羽高)を決勝で退けて、史上初めて大阪に優勝旗をもたらしました。
このとき、浪華商は大阪の御堂筋をパレードしたそうです。
ただし、その途中で連合国軍の兵士の車にストップをかけられたという話が残っています。それは深紅の優勝旗を掲げてのパレードが、赤旗を押し立ててのデモと間違われたからだそうです。
話を元に戻して。例えば、秀岳館高が優勝したとして、熊本県が地震からの復興をしている地元のために、何らかの催しをしたいと望んだら、同じように東北のチームが望んだら･･･
高校生の健全な成長を重視する高野連の考え方。純粋に全国大会での功績をたたえたいという地元の要望。
オリンピック選手が日本を背負って戦っているのと同じく、高校球児も地元を背負って戦っているのです。
その意味では、何かしらの地元の声も組んであげられるようなことはあっても良いのではないかと、と個人的には思います。
