これは「タッチ」第一巻第7話「エーッ、うっそう」の場面です。
ピンと来る人は来ていると思うのですが、これは上杉和也(弟)ではなく、上杉達也(兄)の方です。この試合前に達也が原因のトラブルが和也にあり、その責任を取って(?)代わりにベンチに入るという話です。和也はすでに野球の才能を発揮し、高校からスカウトが来るほどのピッチャー。一方の達也は野球経験なしです。
この試合の先発ピッチャーを見て相手チームが驚いていますので、もちろん自チームの監督もメンバーも状況を理解しての確信犯だと思えます。試合は最後に達也が投げましたが、明青学園中の負け。しかも、これが中学時代の最終戦だったので、なんとも言えない結果です。
さて、この状況をまじめに考えてみますと、明青学園中は実はとんでもないことをやらかしているのです。
実際のところ、野球の試合において、登録外選手の出場あるいはメンバー表の誤記などが発覚すると、没収試合とされるケースがあります。
没収試合は、審判員がとるべき最後の手段であって安易に適用される性質のものではなく、大会主催者および当該チームが十分注意をすればかかる事態は避けられるはずです。では、どのような場合に没収試合とするのかの一般的な例です。高校野球でも同様です。
想定事態
① 登録原簿とメンバー表記載の選手名の違い(登録変更)
② 選手名と背番号の不一致
③ 同姓の選手の識別が不明確(名前漏れ)
④ メンバー表への守備位置のダブり記載
⑤ 登録外選手がベンチ入りまたは出場
⑥ 打順誤り
⑦ 本来退いたはずの選手(たとえば代打を出された)が再び出場してしまった
上記①~⑤および⑦について対応を次のとおりとなります。
■ケース1 試合前のメンバー表交換時点で大会本部の登録原簿照合により誤記に気付いた場合
(処置) 出場選手、控選手を問わず、氏名、背番号の誤記を発見した場合、注意を与えて書き直させる。罰則は適用しない。登録原簿以外の選手が記載されていた場合も同様とする。また、守備位置のダブり記載や同姓で二人を区別する頭文字あるいは名前をつけないで記載したような場合も同様である。
■ケース2 メンバー表交換終了後、試合開始までに誤記が判明した場合
(処置) 誤記に関する訂正は認められない。登録原簿に記載された選手しか出場資格はない。チーム自体の没収試合とはしない。
■ケース3 試合中に誤記が判明した場合
(処置1) 登録選手間の背番号の付け間違いは、判明した時点で正しく改めさせ、罰則は適用しない。
(処置2) 登録外選手が判明したときは、実際に試合に出場する前であれば、その選手の出場を差し止め、ベンチから退去させ、チーム自体の没収試合とはしない。(代打などの通告を本部で原簿照合して判明したときなど)
(処置3) 登録外選手が試合に出場、これがプレー後判明したときは、大会規定により試合中であれば没収試合とし、試合後であればそのチームの勝利を取り消し、相手チームに勝利を与える。
この明青学園中の場合はケース3の処置3に近いのですが、審判団および相手チームから発覚していませんし、自チームは敗退しているので、不問に付したのかも知れません。ただ、没収試合になりかねない行為だったのは事実ですね。
もう一つ。達也が明青学園高三年時に病気療養中の西尾監督から野球部代理監督となった柏葉英二郎。五分刈りの頭髪に口ヒゲ、サングラス、練習中は常に竹刀とビールを手放さない、さらに「他校のエース(西村)を竹刀で殴り負傷させる」「拷問に近いシゴキを加える」「昼間のグランドでも平然と飲酒をする」「西尾監督の承認を得て新体操部と掛け持ちしていたマネージャーの南を独断で退部させる」「卒業生から寄贈されたピッチングマシンや道具を自らの手で焼却する」「甲子園予選で体力・野球技能共に部内で最も劣っている佐々木を先発投手に起用し、コールド負け寸前まで追い込む」など、高野連から永久追放されかねない人物です。さらに、実際に代理監督になる予定だったのは、英二郎の兄の英一郎の方であり、手違いでの就任だったのです。
実際に登録が英一郎だったのか、英二郎だったのかは分かりませんが、明青学園高は甲子園出場を辞退しなくてはならない事態になっていたかも知れません。