今年、95回目を迎えた東京箱根間往復大学競争(箱根駅伝)が東京・大手町から神奈川・箱根芦ノ湖往復の全区間217.1kmで行われました。
開始年は1920年と伝統ある大会ですが、TV中継が始まったのが1979年の第55回大会からです。当時は東京12チャンネル(現:テレビ東京)で、3日のゴール場面とダイジェストのみが放送されていました。しかし、1987年の第63回大会から日本テレビが全編の中継を行うようになり、人気に火が付き始めます。基本、マラソンや駅伝といったコンテンツは地味な画ずらだと思うのですが、そこを面白くしているのは日本テレビ(日テレ)の演出力のなせる技でしょう。
カメラ台数やスタッフの数などは一般的な番組の10倍以上と言われており、2日間の生中継にかかる総製作費はおよそ7億円と言われています。ちなみにNHK紅白歌合戦などは予算が3億円といわれています。
そして、今年の関東地区の平均視聴率は2日の往路は30.7%、3日の復路は32.1%だったとのことで、いずれも日テレ系で中継が始まった1987年以降で歴代1位でした。
それだけの注目のある大会であるのですが、箱根駅伝の主催者は関東学生陸上競技連盟(関東学連)であり、関東の1都6県と山梨県内にある各大学の陸上部で構成されています。当然ながら関東学連の加盟大学に進学しなければ、箱根駅伝には出場できません。青山学院大の原晋監督は以前、「箱根駅伝の全国化」を提言し話題となりました。実際に2024年の第100回大会をめどに、出場校を全国に拡大する動きが見られることはいいことだと思います。実際、大学駅伝三冠の一つの大会が、この全国的なローカル大会がその一つということへの違和感は解消されますから。
また、ちょっと嫌らしい話ですが、箱根駅伝は中継で大学名が連呼されることで、出場校は同年の受験者が増加するといった話もあるようです。宣伝効果は抜群なだけに、全国化を望む大学は多いようです。
さて、そんな中で1日目、スタート直後に転倒し、ケガをしながら走っていた大東文化大の四年生選手への実況が「感動的だった」ことへの賛否が起きています。
この選手は見るからにも苦しそうな表情で、足を引きずったり、蛇行したりするように走りながら、次の走者に22位でタスキをつなぎました。
タスキを渡すTV中継シーンでは、実況のアナウンサーが「四年生、最後の箱根駅伝。意地だ。この気持ちだ。気持ちで走ってきた21km」、タスキを受け取る2区ランナーへは「その目にも涙が浮かんでいるか」と「タスキを繋ぎきりました」と叫んでいました。
この選手は、競技復帰まで約半年かかる見込みだそうです。また、今春の卒業後、実業団で競技を続行することになっているそうですが、今後の選手活動に対して何らかの影響はあると思います。また、ケガをしたのが大学在学中であり、卒業後もケガの治療やリハビリなどで進路先のチームと相談しながら治していくしかないでしょう。
私はTVで観ていて、まるで夏の甲子園予選を一人で何連投、軟百球も投げて、甲子園本番の試合で肩やヒジの痛みで思うように投げられないピッチャーを見ているような気持になりました。感動でもなんでもありません。心配です。甲子園でのピッチャーの投げすぎに対しては、ネット上で賛否両論の意見が挙がりますが、この箱根駅伝でのこの選手が走り続けたことに対したも、いろんな意見が挙がっています。
私自身、本人でもなければ監督でもありませんし、ましてや関係者でもないので軽はずみなことは言えませんが、選手はどうやったって走りたいはずです。ですが、それを冷静に判断できない状況にいる環境でもあるでしょうから。また、本当に止めるべきかどうかは、本人と監督にしか分からないと思います。でも、止めるべき時にやめられる状況判断をする場面は少なくとも必要だったと思います。それに、2018年10月のプリンセス駅伝で骨折しながら「四つんばい」でタスキを繋いだ選手の件から、陸上界は何も学んでいないのではないかとも思えました。
これが、単なる関東ローカル大会の一つであり、全国ネットでTV中継されることもなく、ゴール場面とダイジェストのみが放送されているのだったらどうでしょう。それでも、この選手は走り続けたかも知れません。でも、もっと冷静な判断が下されていたかも知れません。あくまでも仮定の話ではありますが。
甲子園でもそうですが、駅伝などの学生スポーツなどでは、今回のような過度の感動演出や、美談を持ち出す実況が多くなされているように思えてなりません。
スポーツというものは、第三者によって恣意的に操作される感動は不要です。そういう意味では、現地で直に観戦した時に得られるものがやっぱりいいでしょう。TV観戦の場合には音声を消してみて観戦。そして、自分の心の琴線に触れて、残ったもの、それが本当の感動でしょうね。