家族で食卓を囲むというその光景は、基本的に温かいものですがその場が凍り付いてしまうようなハプニングが起こるのもまた、家庭の光景というものです。
これは、とある男性が少年の頃に体験した物語です。
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その日、少年の母親はいつも通り夕食の準備をしていました。
仕事から帰った男性の父親は、いつも以上に疲れた様子でクタクタでした。
その日の夕食のメニューはシチュー、そしてトースト。ここまではいつも通りの普通の食卓の風景です。
しかし、目の前に出されたトーストを見て息を呑みました。
出てきたのは、とても美味しそうとは言えない黒焦げのトーストでした。
何と言って良いのかわからず、父親の言葉を待ちました。
疲れ切った父親がどうするのか少年は不安に思い、ビクビクしていました。
しかし、父親は何も言わずそっと黒焦げのトーストを手に取ると、バターを塗って食べ始めました。
そして、何事もなかったかのようにシチューを口にしながら、少年に「今日の学校はどうだった?」「宿題は終わったか?」などと話してきたのです。
母親は何も言わない父親に罪悪感を感じたのか、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りました。
すると父親はこう言いました。
「何を言ってるんだい、ハニー。これはちょうど僕の好きな焼き加減さ」
そしてにっこりとほほ笑みました。
その後、父親がおやすみのキスをしに少年の部屋を訪れた時、少年は父親に尋ねました。
「パパ。パパはあんなに焦げたトーストが好きなの?」
それを聞くと、お父さんは少年をそっと抱きしめて言いました。
「いいかい? ママは今日とっても疲れてるんだ。毎日こんな失敗をするわけじゃないだろう? たまにはパンが焦げることだってある。それに、少しくらい焦げたパンを食べても、何も悪いことはないのさ。悪いのは、間違った時に、間違った事を口にしてしまうことだ」
父親は、ぎゅっと少年を抱きしめて続けます。
「これからの人生、思い通りにいかないことがたくさんあるだろう。でもね、人間は完璧な生き物じゃない。例えばパパだって、約束を忘れてしまったり、結婚記念日を忘れてしまうことだってある。でも、時間が経つにつれて人は周りの失敗・間違いを許せるようになるのさ。その失敗さえも愛おしいと思えるくらいにね。これが2人の関係が長く幸せに続く、その秘訣さ。人生は後悔に時間を割くほど長くはない。だからこそ、ただ単純に、自分を大切にしてくれる人をちゃんと愛せばいいんだよ」
大人になった少年は、今ならお父さんがその時に伝えようとしていたことがわかると言います。
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人はついつい、他人の間違いや失敗を、それがたとえ小さなことであったり、初めてのことであったりすることでも、強く非難したりしてしまうことがあります。
での、この父親のように、小さな失敗を受け入れるだけではなくそれすら愛おしく思い、包み込める心の広さを持てるような人になれるのなら、とても素敵な事ではないでしょうか?