2017年の首都圏の中学入試の国語の問題です。
■2017年度・聖光学院中学校 第1回入学試験国語・大問二から抜粋
問. 次の(1)~(5)の文の下線部は、心の動きに関わる表現になっています。例にならって、( )内にあてはまる言葉をひらがなで答えなさい。ただし、( )には[ ]内の文字数のひらがなが入るものとします。
(例) あまりに騒がしかったので、先生は( )のごとく怒り始めた。[3]⇒ <答>れっか
(1) 貸していた本を汚して返されたので、彼は額に( )を立てて怒っていた。[4]
(2) みんなから痛いところを突かれてしまい、( )も出なかった。[4]
(3) 展覧会のために( )を注いで制作した作品が、金賞に選ばれた。[4]
(4) チームに頼りになるエースがいるので、( )に乗った気持ちで試合に臨んだ。[4]
(5) 長年連れ添った祖父と祖母は、いつ見ても仲( )様子でいる。[5]
■2017年度・普連土学園中学校 3次試験国語・大問五から抜粋
問. 次の(1)~(10)は外国のことわざですが、似た意味のことわざが日本にもあります。それぞれ後のア~シから選び、記号で答えなさい。
(1) 卵を割らずにオムレツを作ることはできない。
(2) プリンの味は食べてみなければ分からない。
(3) ヒナがかえらぬうちに数えるな。
(4) 楽に入るものは楽に出ていく。
(5) 娘を得んとすれば、母親から始めねばならぬ。
(6) 雑草ははびこりやすい。
(7) ミルクをこぼして泣いてもはじまらぬ。
(8) コックが多いとスープがまずくなる。
(9) ネコがいないとネズミが跳ね回る。
(10) ローマではローマ人に倣(なら)え。
ア 悪銭身につかず
イ 石の上にも三年
ウ 鬼の居ぬ間に洗濯
エ 郷に入っては郷に従え
オ 将を射んと欲すればまず馬を射よ
カ 船頭多くして船山に上る
キ 捕らぬ狸の皮算用
ク 憎まれっ子世にはばかる
ケ 覆水盆に返らず
コ 蒔かぬ種は生えぬ
サ 弱り目に祟り目
シ 論より証拠
この問題の出題意図として、
「日常の生活に裏打ちされた豊かな言語を持っていてほしいと考えて出題しています。受験生にはこのうち3~4つは正解してほしいと思います。ただ、最近は子どもたちのことばの数が少なくなったと感じますね。読書量が減っているだけではなく、コミュニケーション不足が原因かもしれません。友だちの家を訪ねてもゲームに興じてばかりで会話をあまりしないとか…」(聖光学院中学校)
「もちろん、日本のことわざを知っているにこしたことはないが、わたしは単なる記憶力ではなく、文脈からそのことわざの意味を読み取ってほしいという思いを込めています」(普連土学園中学校)
とのことです。
「最近の若者たちの日本語が乱れていて、聞くに堪えない…」なんてことが聴こえたりしますが、清少納言さんの「枕草子」にも書かれているように(なに事を言ひても、「そのことさせんとす」「いはんとす」「なにせんとす」といふ「と」文字を失ひて、ただ「いはむずる」「里へいでんずる」など言へば、やがていとわろし)、いつの時代でも変わりません。
そう、時代とともに言語は変っていきます。これは当たり前のことでもあると思います。
でも、2016年12月6日付の毎日新聞(『国際学力テスト 語彙不足に警鐘 読解力低下で専門家』)に「2015年度学習到達度調査(PISA)」(2016年12月発表)では、日本の子どもたちの読解力低下がデータとして示されました。東ロボ(東京大学の入試に挑戦した人工知能)を開発している国立情報学研究所教授の新井紀子先生によれば、主語を読み違えたり、助詞の正しい理解ができていなかったりする誤答が目立ったとのことです。その要因として子どもたちの語彙の不足が考えられると指摘しています。
ある塾講師は「最近の子どもたちの発する言葉は、年々語彙が貧困の一途を辿っているように感じられる」と言います。
「『キモイ』『ウザい』『ヤバイ』『かわいい』『むかつく』『ウケる』『マジか』『イタい』など…これらの限られた『心情語』を連呼する子どもたちが実に多く(大人にも多い)、子を持つ保護者のみならず、街中や電車の中で子どもたちの会話に耳を傾けたことのある方の多くは、おそらくこれに同意してくれるだろう」とのことです。
一般的には「感情が言葉を生み出す」とされます。これが心情語です。でも、「言葉が感情を生み出す」こともあると思います。これも心情があることでしょう。
たとえば「慈しむ(いつくしむ)」という言葉は、本来は「可愛がる・愛する」という意味を持つ「うつくしむ」が語形変化したものであり、「(弱い立場のものを)大切にする・かわいがって大事にする」ことを意味するものです。もしも、この「慈しむ」という語彙を身につけていなければ、自分が何かを「慈しむ」心持ちになっていること、それを意識することが出来なくなるかもしれません。
ですから、言葉を知らなければ知らないほど、感情を自分で制御出来なくなってしまい、他人から見たときに無表情で感情の乏しい人間に思われてしまう可能性があるかも知れません。
また、これからの国際化に伴って、他国の方とのコミュニケーションについても心配になってしまいます。
イギリスの詩人・批評家であるサミュエル・ジョンソンさんは「『言葉』とは『思想の衣装』である」と言っています。
【入試問題の解答】
(聖光学院)
(1)あおすじ (2)ぐうのね (3)しんけつ (4)おおぶね (5)むつまじい
(普連土学園)
(1)コ (2)シ (3)キ (4)ア (5)オ (6)ク (7)ケ (8)カ (9)ウ (10)エ