野球小僧

第98回 全国高等学校野球選手権大会 二回戦 愛知・東邦高 vs. 青森・八戸学院光星高

この試合の次の第四試合が注目の神奈川・横浜高 vs. 大阪・履正社高であり、そのため、当日の朝の開門早々に満員となる異例な雰囲気が球場を飲み込んでいたことも一因かとも思います。

青森・八戸学院光星高が終盤に最大7点差をひっくり返される悪夢のような展開で逆転サヨナラ負けを喫しました。八戸学院光星高は七回から三番手で投げ、8失点したエースの桜井選手は「全員が敵に見えた」と試合後に語っていました。

4点リードの九回裏。先頭バッターにレフト前へヒットを打たれた桜井選手は「点差があったので、切り替えようとした」、次のバッターをレフトフライに打ち取り、盗塁で1アウト二塁。ライト前タイムリーヒットで3点差とされた後、センターフライで2アウト一塁。ここから、愛知・東邦高が奇跡の連打で、ライトへのヒットで一・二塁とし、レフトへのタイムリーヒットで1点を返し、なおも一・二塁。続くバッターが1-2と追い込まれた後、タイムリー2ベースで同点。「追い込んでから力んでしまった。相手に対する球場の声援もすごかった」と桜井選手。キャッチャーの奥村主将から「テンポが速い。自分のペースで投げよう」と声を掛けられたものの、2アウト二塁からレフトへのサヨナラヒットを打たれ、東邦高に10-9で逆転サヨナラ勝ちされてしまいました。

さて、九回裏に4点差をひっくり返して逆転サヨナラ勝ちしたのは、夏の選手権大会では二度目になります。

2006年準々決勝での和歌山・智弁学園和歌山高 vs. 東東京・帝京高。「甲子園史上最も壮絶な試合」とも言われる試合です。帝京高が4-8と4点差を負けて迎えた九回表に8点を取って大逆転。しかし、智弁和歌山高は九回裏に5点を挙げて逆転サヨナラ勝ち。「魔物が二度笑った」とも語り継がれる激闘でした。

あの試合、帝京高最終回のマウンドに上がっていたのは外野手で試合出場していた選手でした。既にこの試合では先発に高島さん(元; 中日ドラゴンズ)、二年生、大田選手(現; オリックスバファローズ)と継投。この年の公式戦ではこの3投手しか登板していない状態でした。4点リードで迎えた九回裏の先頭バッターをフォアボールで歩かせ、次バッターにもフォアボール。とにかくストライクが入らず、そこからストライクを取りに行ったボールを3ランを打たれ(現; 阪神タイガースの橋本選手)、あっという間に1点差に迫られました。その後、さらにフォアボールを与えたところで杉谷選手(現; 北海道日本ハムファイターズ)に交代。その杉谷選手もデッドボールを与えて1球で降板すると、打撃ピッチャーの経験しかない三年生に交代し、レフトフライに打ち取ったものの、続くバッターにセンター前タイムリーヒット、押し出しフォアボールで逆転サヨナラとなりました。

帝京高が逆転した九回表、ピッチャーの大田選手に代打を出し、ピッチャーを使い切っていました。逆転したはいいものの、九回裏に登板するピッチャーが誰もいなくなったのは監督の采配ミスとも言われた。それでもこの回から登板した選手は「あれは采配ミスなんかじゃありませんよ。自分も普通にやれば勝てると思ってましたし、久しぶりの登板ということにも不安はありませんでした。でも、今にして思えば『4点差あれば大丈夫』という油断があったのかもしれません。しっかりブルペンから準備して、もっと慎重に投げていれば…」と言います。

ブルペンでは感じなかったそうですが、マウンド上ではやっぱり緊張していたのでしょう。マウンドに上がったらもう真っ白で、記憶がほとんどなく、歓声も何も聞こえない状態だったそうです。ただ、相手の応援団の「ジョックロック」の音色だけがずうっと頭に響いていたそうです。

そして、今でもあの時のシーンは夢に出てくるそうです。

みんなに申し訳なく、試合後は誰の顔もまともに見れなかったそうです。それでも仲間や周囲の人たちには救われ、「お前の責任じゃない、いい経験をしたんだと言ってもらえて。おかげで今では、変に気を使われるよりも『お前のせいで負けたんだ』って笑い話にしてもらった方が楽になりました」と言います。

自分の結婚式には自らの提案で3ランを浴びた場面の映像を流してもらい、大ウケだったという。

「前田監督にはちゃんと謝ってはいないのですが、いつかちゃんと謝りたいですね。『すいません監督、あの試合、勝ってました!』いろいろ厳しいことも言われましたが、あの場面で僕を投げさせてくれたのは、信頼してくれてたからだと思うんです」

さて、東邦高 vs. 八戸学院光星高。
この九回は4点差を追う東邦高の先頭バッターが打席に入ると、東邦高の一塁側アルプススタンドの手拍子が球場を包み込みました。そして、2アウトになるとマフラータオルを振り回す応援が三塁側や外野スタンドにまで広がって球場全体が東邦高の選手の背中を押し始めました。

高校生には経験したことのない雰囲気。八戸学院光星高にとっては耐え難い空間であったに違いないでしょう。エースの桜井選手が「全員が敵に見えた」というのも判らないではありません。ただ、桜井選手が「今日のことを忘れず、野球を続けたい」と言ったことは頼もしいことだと思います。あのプレッシャーの中で、試合が決する最後までマウンドに立ち続けたことは、これからの人生の中でも、そうそうある困難ではないでしょうから、これを糧にして行って欲しいと願います。

この試合が甲子園の歴史として語り続けられるかどうかは、今後の桜井選手を始め、この試合の両チームの全選手のこれからに関わってくることでもあると思います。


コメント一覧

まっくろくろすけ
パンサーさん、こんばんは。
バックネット裏は、今年の選抜からドリームシートとして、近畿軟式野球連盟に加盟する2府4県の小中学生チームから選ばれたチームが招待されることになりました(http://blog.goo.ne.jp/full-count/e/dc34b5d6547ba6238cfb5c56469475f0)

あのおじさんたちは、子どもたちの三塁側のすぐ隣にいるようです。

甲子園に連れて行ってくれることを期待して、ここ2年は甲子園観戦はしていません。「頼みますよ」以外、何もありません。
まっくろくろすけ
eco坊主さん、こんばんは。
この試合途中まで観ていませんでしたが、9回の攻防だけ所用が終わって車の中で聞いていました。

今日の第三、第四試合にも最終回に魔物がやって来る雰囲気があったのですが、夏バテなのかどうか判りませんが、登場しませんでした。

観ている方はこれから起きるドラマを期待してですが、「全員が敵に見えた」というのは、凄い雰囲気だったのでしょうね。
パンサー
おはようございます。甲子園も中盤になり熱戦が続いてますね。

ところで今年気が付いたことですが、バックネット裏の観客席に大勢の少年野球やらの選手たちが朝からずっと占拠しているような気がしてしょうがないのですが。

それも毎日ですね。

いつもだったら麦わら帽子のおっさんがウチワを扇ぎながらの風景が当たり前?だったような。

おっさん達、隅に追いやられちゃったんでしょうな。
eco坊主
おはようございます(*Ü*)ノ"☀

この試合途中まで観ていたのですが9回の攻防は所用があり出かけた後の出来事で、リアルには観ていなくて結果を知ってビックリしました。
今夏の甲子園で一番驚いた(境ー明徳の8回より)試合かな!?

桜井選手が「全員が敵に見えた」というコメントも印象的というか衝撃でした。一高校生にそこまで言わしめる球場の雰囲気ってある意味怖いですね。

まだまだドラマはあるでしょう。
魔物と女神の戦いが!
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