囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

ヴォルテールの国会論

2021年09月15日 | 雑観の森/心・幸福・人生

 

 

【今夏もタップリ休んじゃった国会

 ~ 国権の最高機関のサボリに思う の巻】

 

 

イギリスの国会議員は、何かにつけて

自分たちを古代のローマ人になぞらえるのが

お好きである。


(中略)


ロンドンには元老院のようなものがある。

何かの間違いだろうが

そのメンバーの何人かは、

昔のローマで行われていたように

機会があれば

自分の票を金で売ると疑われている。

しかし、イギリスがローマと似ているのは

この点のみである。

私が思うに、その他の点では、

この二つの国の人民は、

よい面でも悪い面でも

全く似ていない。

 

ローマにおいては

マリウスとスラ、ポンペイウスとカエサル、

アントニウスとアウグストゥスが、

(注:いずれも内乱の一世紀のローマの将軍たち)

「祭司」は法衣の上にシャツを着るべきか、

それともシャツの上に法衣を着るべきか、

といったことで争って、戦ったりはしなかった。

あるいは聖なる鶏で吉凶を占う時、

この鶏に食べ物と飲み物を与えるべきか、

それとも食べ物のみを与えるべきか、

といったことで争って、

戦ったりはしなかった。

 

ところが、

イギリスではそういう程度の争いのために

かつてはイギリス人どうしが

互いに相手を重罪裁判で絞首刑にしたり、

互いに軍隊をつくって戦場で殺し合ったりしたのである。

 

国教会や長老派はまじめな宗派であるが、

一時はのぼせて頭が変になった。

私が想像するに、そういうばかげた考えで

かれらの頭が混乱することは もうないだろう。

痛い目にあった分だけ賢くなっているはずだからである。

もう今後は、くだらない議論のために

殺し合いをしたいなどとは

思わないだろう。

わたしはそう見ている。


(中略)


イギリスの政治は、

華々しい成果をもたらすものでもなければ、

痛ましい結果をもたらすものでもない。

イギリスの政治の目的は

他国を征服するという華々しい愚行にあるのではなく

イギリスが他国によって征服されないようにすることにある。

この国の国民は、

自分たちの自由が失われないことを念ずるばかりでなく、

他国民の自由までをも念じている。


(中略)


フランス人は、

この島国の政治は

島をとり囲んだ海よりも波立ち荒れている、

と考える。

 

それはそのとおりだ。

が、しかし、それは国王が嵐を呼んだときである。

国王、つまり先頭に立つ水先案内人にすぎない男が

その船の主になろうとしたときに限られる。

 

フランスで起きた内乱のほうが

いずれもイギリスの内乱より長期にわたり

より残酷で、より多くの犯罪をともなった。

しかもフランスの内乱はいずれのばあいにおいても

節度のある自由を目指したりするものでもなかった。

 

フランス人がイギリス人を非難する最大の事件は、

チャールズ一世を処刑したことである。

しかし、この処刑は、

チャールズ一世が内戦の勝利者であったなら

かれ自身が相手に対して行ったはずの処遇である。

 

もういちど、

両国を見比べてもらいたい。

 

チャールズ一世はしっかり陣形を整えた会戦において敗れ

捕虜となり、裁判にかけられ、ウエストミンスターで

死刑の宣告を受けた。

 

いっぽうフランスでは、

皇帝アンリ七世は

かれに聖餐を授けたお付きの司祭によって毒殺されたし、

アンリ三世は、一党派全体の憤りを代表する

一修道士によって暗殺されたし、

アンリ四世のばあいは、三十回もの暗殺が企てられ

そのうち数回が実行され、

最後の一回がついにこのフランスから

この偉大な国王を奪い去ったのである。

 

これらの犯行を比較検討して、

判断していただきたい。

 

(「哲学書簡」第8信 国会について)

 

 


  *  *  *

 

 

封建時代と比較するな、

と決め付けるなかれ。

誰のための政治か、

という一点において

判断すべき事がある。

 

いかなる革命も

3日目から堕落が始まる

と、社会変革の本質を鋭く指摘したのは

あのジャン・コクトーである。

 

何かを成すに権力を持ちたいといい

権力を握った瞬間から

その何かが雲散霧消するから不思議である。

「国民のために働く内閣」を

高らかに掲げたのは、ついこの前だった。

 

この十年、

権力の「投げ出しの交代劇」が

おなじみになったと思ったら

ゾンビの如く院政を敷くのだから

もう、手が付けられない。

いまもむかしも中身は変わらない

この国の政治の実相なのある。

 

 


♪ いまはもう秋 誰もいない海 ~


蛸壺やはかなき夢を夏の月  芭蕉

 

 



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