『聖アントニウスの誘惑』
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約500年前、快楽に溺れる男女の姿や、悪魔の誘惑などを驚くべきイマジネーションで描いた画家ヒエロニムス・ボスです。
この『聖アントニウスの誘惑』は、1501年頃に制作した三連祭壇画で、主題は3世紀後半から4世紀初頭にかけて、古代エジプトの砂漠の教父の中で最も著名な人物の1人である聖アントニウスが耐えた精神的および霊的な苦痛の物語から取られています。
まず、左翼パネルについて。
気を失っている聖アントニウスは、仲間に助けられながら橋上を運ばれてゆきます。
中景では白衣の異端者が、すでに娼家と変じた聖者のいおりにむかって急いでいます。いおりにおおいかぶさるような格好の巨人。彼の足から飛び出す根といい背中に生えた雑草といい、これらはそれぞれ巨人が罪科にふかぶかと身を沈めているしるしであって、娼家の窓辺には女の姿がみとめられます。
橋の下では悪霊たちの密談があり、凍った湖では鳥の姿をした悪魔がスケート靴を履いて滑っています。
次に、右翼パネルの紹介です。
聖アントニウスは聖書を読みながらつかれた眼をあげて瞑想にふけっているのでしょう。
そして、彼をおびやかすのは地中からあらわれたとおぼしき誘惑的ないきものたちです。赤い垂れ幕の中の裂かれた木の間から、裸の女がアントニウスを誘惑しているのでしょうか。
テーブルの下には壺に足をはさまれた男。これは暴飲の罪であり、右隣の短剣の突き刺さった円い腹は大食の罪であるのでしょう。
テーブルの上には、パンと水差しが置かれています。
・次回に続きます・・・・。