不思議活性

『ゴッホの手紙』(ベルナール宛)を読み 2

   第十一信  1888年7月下旬

 君はセザンヌの絵が好きだから、プロヴァンス地方の素描は気に入るだろうと思う。しかし、セザンヌと僕との素描には全然似たところがない。でもモンチセリと僕ほどの差ではないようだ。僕もセザンヌやモンチセリがあれほど好きだったこの土地の色やはっきりした形が好きだ。

 「プロヴァンスの農家」
 「オーヴェルの風景」 1890年

・オーヴェル=シュル=オワーズは、セーヌ河の支流であるオワーズ川沿いの、緑に囲まれた静かな町です。

   第十二信  1888年7月末

 ああ、ボードレールの賞賛の的であるレンブラント・・・・・・そのこととは別に、僕は敢て想像するのだが、殊にあの詩による彼はレンブラントについては殆どなんにも知らなかった。この土地でレンブラントの模写の小さな腐蝕銅板をみつけて買って来たところだ。

 十二歳の少女の肖像を描き上げたばかりだ。眼が褐色で、髪と眉毛が黒く肌が灰黄で、白い背景はヴェロネーズ緑が利いている。血のように静かな赤のジャケッツには紫の縞があって青いスカートには橙色の大きな点がある。可愛らしい小さな手で夾竹桃の花をもっている。


 「夾竹桃をもつ少女」
 「ムスメ」 1888年7月
 
   第十六信

 例えば、僕は実際≪夜のカフェ≫を完成したばかりだが、それは取引する家なので時どき淫買婦が男をつれて腰かけてはいる、しかし本当の女郎屋はまだ描いていない。

 女郎屋を描くために―それが好いものになるのは疑いないとしても―その目的でここへ来ることを僕はすすめない。もう一度言っておくが、兵隊になったら、それを描く素敵な機会があるから、軍服を着るまで待った方が得なのじゃないか。ハッキリさせたいから言明しておくが、気楽にアフリカで過ごしてみたまえ。南方は君の気に入るだろうし立派な芸術家に育ててくれるよ。ゴーガン自身もすぐれたところは南方に負っているのだ。僕もここで非常に強い太陽を幾月も眺めていると、いまでは、その経験から特に目立ってくるのは、色彩の点でドラクロアとモンチセリだ、この二人を純粋な浪漫派だとか空想家とするのは間違っている。

 「夜のカフェ」
  「星の夜のカフェ」 1888年

・次回に続く・・・・。

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