数年ぶりに歯医者に行った。
50年の人生の中で、2度目だ。
諸事情により歯がない。
最初の時も、総入れ歯にしようと通い始めたものの、諸事情により途中でやめざるを得なくなった。
それ以来だ。
最初の歯医者は、「とにかく1本でも自分の歯を残す」ことをコンセプトにしている歯医者だったため、欠けてちょっとしか残っていないような歯でもチマチマと治療するような歯医者で、どうもオレの性に合わなかった。
その時の経験を踏まえ、「面倒くせぇから、一気に抜いてくれ」と、やたら色気のある女医とソープのネーちゃんを混同しながら、一瞬パンツを脱ぎかけた。
途端に、女医の目の奥が輝いた。
いつかの、酔うと必ずオレを殴ってきて、「痛い?」と訊いてくる女を思い出した。
「いいんですね?」とこちらの返事を待つことなく女医は、怒涛の如く麻酔をぶち込み、ハリウッド映画の拷問シーンの如くペンチ様のモノを口の中に突っ込み、ホントに一気に4本ほど抜いてきた。
しかも、抜くたびにオレのする涎掛けに、1本1本乗せてくる。
ハリウッド映画でも、ここまで残虐なシーンはない。
半ば放心状態でいるオレの耳元に、最後に女医が囁きかけてきた。
「来週は何本にチャレンジしますか?」
…どうも、行く歯医者を間違ったのだろうか。