エッセイ

雑記

拉致

2019-07-12 20:35:39 | 日記
先日、酔った帰り、久しぶりにそこらの路上で目を覚ました。
土砂降りの雨中のことだ。
数年ぶりの醜態だ。
酔ってどこかにすっ飛ばしたようで、眼鏡がなく、補聴器もない。
携帯電話もなかった。
いい歳して、さすがに泣きそうになった。
せめて、携帯電話さえあれば…。
そう思い、見えない目で辺りを捜した。
裸眼で、視力は0.02くらいしかない。
ただでさえしこたま酔っている上、雨中の中、街灯のない闇の中でモノを捜すなど、無理だ。
だが、幸いなことにケータイが赤色だったことが功を奏した。
草むらの中、赤は目立つ。
割と近く、手の届く範囲に転がっていたことも幸いした。
手を伸ばそうとした時、それより先に誰かの手が伸びてきた。
視線を上げると、オンナだった。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけられた…ような気がした。
普段、補聴器がなければ相手が声を発していることもわからず、なにか言っていることはわかっても、余程話しなれた相手でなければ、周波数の関係かなんなのか、言葉を聞き取れない。
「行こう」
そう言われたような気がして、手が伸びてきた。
言われるがままその手を取り、着いていった。
途中で、ふと思った。
「行こう」って、どこに行くのか?
そのことに気づき、やがてさすがにヤバいモノを感じ、手を振りほどこうとした。
オレのその気配を感じたようで、相手が、逆に手を引っ張ってきた。
一瞬、「誘拐」という言葉が頭に浮かんだ。
酔っ払いの50過ぎのオヤジを誘拐して、どうするのか。
次に、「まさか北鮮の拉致か?」
とも思った。
だが、オレを拉致したところで、あの国になんのメリットもない。
せいぜい、「証拠が残らない人間のバラし方」や、「核の製造法」をレクチャーするしかできない。
だが、どれも、奴らの方がずっと上手で、プロだ。
そうこう思いながらフラフラと歩いているうちに、やがて別の手がオレの手首を掴んだ。
それまで握っていたオンナの手とは違い、明らかに「肉感」があり、「現実的」な手だった。
「大丈夫ですか?」
その声は、はっきりと耳に届いた。
振り向くと、嫌になるくらい見慣れた格好をした男が立っていた。
警官だった。
「大丈夫ですか?」
また、その言葉が届いた。
辺りを見回すと、川っぺりだった。
その先、断片的にしか記憶がないが、いわゆる「トラ箱」で目覚めた。
どうやら、「入水自殺」を計ろうとしていたと思われたようだ。
たまたま通りかかった車のドライバーから、「おかしな奴がいる」との通報が入り、駆け付けたらしい。
確かにそれなりの借金はあるは、いい歳こいて未婚だは、最近になり飲み過ぎからかケツから血が出てくるようになったはなどいろいろ悩みはあるが、死のうと思ったことはない。
ただ、オンナに着いていっただけだ。

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