インタビューに答える小林節・慶応大名誉教授=東京都千代田区で2023年5月23日、宮本明登撮影
毎日新聞 2023/6/7 東京夕刊 有料記事
北朝鮮が宣言した軍事偵察衛星の打ち上げは失敗に終わったが、きな臭さが消えたわけではない。ロシアのウクライナ侵攻で台湾有事への懸念が広がるいま、戦争放棄をうたう憲法の改正論議が気になってならない。そこで真っ先に思い浮かぶのが、憲法学者の小林節・慶応大名誉教授(74)である。
さかのぼること4年前。自民党の改憲論議を30年以上リードしてきた小林さんが、70歳にして「特集ワイド」紙面で「護憲派宣言」をしたのはセンセーショナルだった。
1980年代には安倍晋三元首相の祖父、岸信介氏が設立した「自主憲法制定国民会議」にも参加していた小林さん。タカ派の憲法学者から変節した理由は数々あったが、大きな曲がり角となったのは2015年に成立した安全保障関連法だった。集団的自衛権の行使を可能にすることなどが盛り込まれ、戦後日本の安保政策の大転換となった。小林さんは「明白な憲法違反」と断じ、「憲法を守れ」と叫んだ。
雨模様の東京都心の昼下がり。そんな記憶をよみがえらせて小林さんの事務所を訪ねると、15年当時と変わらぬ発信力を感じさせた。
「自民党の改憲論議は、安倍さんが一人で引っ張ってきたようなものです。エンジン役だった安倍さんほどエネルギーを持った人は他に見当たりません」
当時、安倍氏を「憲法をいじりたいだけの改憲マニア。危なくてしょうがない」と評した小林さん。では、「任期中に憲法改正を実現したい」と前のめりな岸田文雄首相をどう見ているのか。岸田氏は憲法記念日の5月3日にも、今後も改憲に挑戦し続けるというビデオメッセージを寄せた。憲法9条への自衛隊明記など、自民党の改憲案4項目について「いずれも現代的で国民生活に関わる喫緊の課題だ」とたびたび強調している。
だが、立ち止まって考えると、岸田氏が会長を務める自民党の宏池会といえばハト派の代表格で、改憲に慎重だったはず。かつて外相や自民党政調会長を務めていた頃の岸田氏は「憲法9条を今すぐ改正することは考えていない」と明言していた。
「改憲推進の最大派閥、安倍派への配慮があるのでしょう」。そう明快に語る小林さんは「岸田さんはもともと憲法に関心が薄かった人ですから」と続けた。自民党改憲派議員と親交を重ねた小林さんにとって、岸田氏と憲法はあまり結びつかないのだという。
関心の薄さは、被爆地で初めて開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)への評価にも表れているのかもしれない。核軍縮に関する首脳声明「広島ビジョン」は核なき世界を目指すとしつつ、G7の核保有を正当化した。カナダから来日した被爆者のサーロー節子さんは「サミットは失敗だった。リーダーたちの体温が全然感じられない」と批判した。サミット開催は、被爆地出身のリーダーが自らの存在を国際社会に示すための手段だったのではないか、との疑念も頭をかすめる。
憲法改正を訴える集会で流された岸田文雄首相のビデオメッセージ=東京都千代田区で2023年5月3日、三浦研吾撮影
「岸田さんは首相として成し遂げたいことがあるわけではなく、権力を持ち続けることが目的なのでしょう」。安倍氏を「改憲マニア」と呼ぶならば、岸田氏はとりわけ「権力マニア」なのだという。東日本大震災から12年を迎えた今年3月11日の被災地視察では、子どもから首相になりたかった理由を聞かれ、「日本で一番権限が大きい人なので首相を目指した」と答えた。小林さんはそのエピソードからも、ハト派の衣に隠れた権力への執着を見通す。
毎日新聞の4月の世論調査では、岸田首相在任中の憲法改正について、「賛成」は35%で、「反対」の47%を下回った。昨年4月の調査では「賛成」44%、「反対」31%だったことから、1年で賛否が逆転した形だ。
では、今の改憲論議の中心テーマは何だろうか。
立憲民主党の小西洋之氏が「毎週開催はサルがやること」と発言して注目された憲法審査会。通常国会で開催されている衆参の審査会を見ると、自民党改憲案4項目の一つ、緊急事態条項の議論が多いようだ。
緊急事態条項とは、戦争やテロ、感染症のパンデミック(世界的大流行)、大規模災害などの非常事態に対処するため、一時的に人権を制限し、政府の権限を強化する規定のことだ。
「11年の東日本大震災が口火となり、自民党が緊急事態条項の整備をしようと考えていたところに、新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。そして、昨年始まったロシアによるウクライナ侵攻です。図らずも条件がそろったということです」
衆院の審査会では、自民党や日本維新の会など「改憲勢力」の議員たちが、緊急時にも国会の機能を保つため、憲法改正で衆院議員の特例的な任期延長を認めるべきだなどと主張している。小林さんはあきれ顔だ。
「緊急事態条項の典型は、ナチスドイツの全権委任法です。極端に言えば、緊急時は国民の人権を停止。三権分立は煩わしいので、首相に独裁的な権限を与え、国会は寝てろといった制度です。なのに、民主的なコントロールが必要だから議員任期を延ばせだなんて、矛盾していると思いませんか。彼らは自分たちの地位に居続けたいだけですよ」
小林さんは、いぶかしむ。法律を整備すれば対応できるような事柄についても、憲法に手を加えようとする姿勢を感じるからだ。それは緊急事態条項においてもいえる。憲法12条と13条には、「公共の福祉」の規定があると強調する。
「憲法には、人権という最高の権利があっても、公共の福祉に譲らなければいけない場合があると書いてあります。つまり、戦争や大災害、パンデミックなど国の存続が危うい場合、公共の福祉が優先される時があるという趣旨です」
人権制限の規定はすでに、有事法制や災害対策基本法などに盛り込まれている。「すでにある法律を最近のコロナや災害の状況に合わせて修正するなど、緻密に整備すればいいだけの話です。憲法には参院の緊急集会の制度もある」。緊急事態条項の創設は必要ない。専門家として、そう断言した。
岸田氏はこれまで、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有が明記された安全保障関連3文書の閣議決定以外にも、防衛費増額や原発の新設など、世論を二分するような政策の変更を次々に推し進めてきた。「ウクライナ侵攻や、中国が台湾の周辺で軍事演習を繰り返すなど、恐ろしい時代になりました。憲法9条に守られる日本はかつて、保守であっても革新であっても軍事的な話はいわばタブーでしたが、その話題から逃れられなくなった」。小林さんは、改憲の動きへの警戒を緩めない。それは、「権力マニア」という岸田氏の見立てがあるからだ。
「岸田さんが何か首相としてのレガシー(政治的遺産)を残したいという理由で、任期中に憲法改正にチャレンジするのではないかと思う」。祖父の思いを継ぎ使命感をたぎらせた安倍氏でさえ成し遂げられなかった憲法改正。「岸田さんのソフトな雰囲気に油断していると、寝ている間に改憲に向けた動きは進んでしまいます。安心していてはいけませんよ」【葛西大博】
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■人物略歴
小林節(こばやし・せつ)さん
1949年、東京都生まれ。法学博士。米ハーバード大ロースクール客員研究員などを経て、2014年まで慶応大教授。「小林節の憲法改正試案」など著書多数。近著に「『人権』がわからない政治家たち」。
何だかすっきりしたね!私に論理はないが、ぼーっと感じていることを小林節慶応大名誉教授が話してくれた気がする。私は共産党や旧社会党支持でも何でもない。たぶん、自民党の宏池会みたいな考えで今日まで来たのだと想像する。かと言って最近自民党に投票したことはないのだが(笑)。つい最近思ったのは、岸田総理が、一生懸命官僚に書かせたこじつけの原稿を読むだけなら、アナウンサーにやってもらったらいい!ということだ。あとお好きなのは車座になっての市民との対話、そんなものはテレビ用のただのジェスチャーではないのですか?と言いたい。
毎日新聞 2023/6/7 東京夕刊 有料記事
北朝鮮が宣言した軍事偵察衛星の打ち上げは失敗に終わったが、きな臭さが消えたわけではない。ロシアのウクライナ侵攻で台湾有事への懸念が広がるいま、戦争放棄をうたう憲法の改正論議が気になってならない。そこで真っ先に思い浮かぶのが、憲法学者の小林節・慶応大名誉教授(74)である。
さかのぼること4年前。自民党の改憲論議を30年以上リードしてきた小林さんが、70歳にして「特集ワイド」紙面で「護憲派宣言」をしたのはセンセーショナルだった。
1980年代には安倍晋三元首相の祖父、岸信介氏が設立した「自主憲法制定国民会議」にも参加していた小林さん。タカ派の憲法学者から変節した理由は数々あったが、大きな曲がり角となったのは2015年に成立した安全保障関連法だった。集団的自衛権の行使を可能にすることなどが盛り込まれ、戦後日本の安保政策の大転換となった。小林さんは「明白な憲法違反」と断じ、「憲法を守れ」と叫んだ。
雨模様の東京都心の昼下がり。そんな記憶をよみがえらせて小林さんの事務所を訪ねると、15年当時と変わらぬ発信力を感じさせた。
「自民党の改憲論議は、安倍さんが一人で引っ張ってきたようなものです。エンジン役だった安倍さんほどエネルギーを持った人は他に見当たりません」
当時、安倍氏を「憲法をいじりたいだけの改憲マニア。危なくてしょうがない」と評した小林さん。では、「任期中に憲法改正を実現したい」と前のめりな岸田文雄首相をどう見ているのか。岸田氏は憲法記念日の5月3日にも、今後も改憲に挑戦し続けるというビデオメッセージを寄せた。憲法9条への自衛隊明記など、自民党の改憲案4項目について「いずれも現代的で国民生活に関わる喫緊の課題だ」とたびたび強調している。
だが、立ち止まって考えると、岸田氏が会長を務める自民党の宏池会といえばハト派の代表格で、改憲に慎重だったはず。かつて外相や自民党政調会長を務めていた頃の岸田氏は「憲法9条を今すぐ改正することは考えていない」と明言していた。
「改憲推進の最大派閥、安倍派への配慮があるのでしょう」。そう明快に語る小林さんは「岸田さんはもともと憲法に関心が薄かった人ですから」と続けた。自民党改憲派議員と親交を重ねた小林さんにとって、岸田氏と憲法はあまり結びつかないのだという。
関心の薄さは、被爆地で初めて開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)への評価にも表れているのかもしれない。核軍縮に関する首脳声明「広島ビジョン」は核なき世界を目指すとしつつ、G7の核保有を正当化した。カナダから来日した被爆者のサーロー節子さんは「サミットは失敗だった。リーダーたちの体温が全然感じられない」と批判した。サミット開催は、被爆地出身のリーダーが自らの存在を国際社会に示すための手段だったのではないか、との疑念も頭をかすめる。
憲法改正を訴える集会で流された岸田文雄首相のビデオメッセージ=東京都千代田区で2023年5月3日、三浦研吾撮影
「岸田さんは首相として成し遂げたいことがあるわけではなく、権力を持ち続けることが目的なのでしょう」。安倍氏を「改憲マニア」と呼ぶならば、岸田氏はとりわけ「権力マニア」なのだという。東日本大震災から12年を迎えた今年3月11日の被災地視察では、子どもから首相になりたかった理由を聞かれ、「日本で一番権限が大きい人なので首相を目指した」と答えた。小林さんはそのエピソードからも、ハト派の衣に隠れた権力への執着を見通す。
毎日新聞の4月の世論調査では、岸田首相在任中の憲法改正について、「賛成」は35%で、「反対」の47%を下回った。昨年4月の調査では「賛成」44%、「反対」31%だったことから、1年で賛否が逆転した形だ。
では、今の改憲論議の中心テーマは何だろうか。
立憲民主党の小西洋之氏が「毎週開催はサルがやること」と発言して注目された憲法審査会。通常国会で開催されている衆参の審査会を見ると、自民党改憲案4項目の一つ、緊急事態条項の議論が多いようだ。
緊急事態条項とは、戦争やテロ、感染症のパンデミック(世界的大流行)、大規模災害などの非常事態に対処するため、一時的に人権を制限し、政府の権限を強化する規定のことだ。
「11年の東日本大震災が口火となり、自民党が緊急事態条項の整備をしようと考えていたところに、新型コロナウイルスの感染拡大が起きました。そして、昨年始まったロシアによるウクライナ侵攻です。図らずも条件がそろったということです」
衆院の審査会では、自民党や日本維新の会など「改憲勢力」の議員たちが、緊急時にも国会の機能を保つため、憲法改正で衆院議員の特例的な任期延長を認めるべきだなどと主張している。小林さんはあきれ顔だ。
「緊急事態条項の典型は、ナチスドイツの全権委任法です。極端に言えば、緊急時は国民の人権を停止。三権分立は煩わしいので、首相に独裁的な権限を与え、国会は寝てろといった制度です。なのに、民主的なコントロールが必要だから議員任期を延ばせだなんて、矛盾していると思いませんか。彼らは自分たちの地位に居続けたいだけですよ」
小林さんは、いぶかしむ。法律を整備すれば対応できるような事柄についても、憲法に手を加えようとする姿勢を感じるからだ。それは緊急事態条項においてもいえる。憲法12条と13条には、「公共の福祉」の規定があると強調する。
「憲法には、人権という最高の権利があっても、公共の福祉に譲らなければいけない場合があると書いてあります。つまり、戦争や大災害、パンデミックなど国の存続が危うい場合、公共の福祉が優先される時があるという趣旨です」
人権制限の規定はすでに、有事法制や災害対策基本法などに盛り込まれている。「すでにある法律を最近のコロナや災害の状況に合わせて修正するなど、緻密に整備すればいいだけの話です。憲法には参院の緊急集会の制度もある」。緊急事態条項の創設は必要ない。専門家として、そう断言した。
岸田氏はこれまで、「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有が明記された安全保障関連3文書の閣議決定以外にも、防衛費増額や原発の新設など、世論を二分するような政策の変更を次々に推し進めてきた。「ウクライナ侵攻や、中国が台湾の周辺で軍事演習を繰り返すなど、恐ろしい時代になりました。憲法9条に守られる日本はかつて、保守であっても革新であっても軍事的な話はいわばタブーでしたが、その話題から逃れられなくなった」。小林さんは、改憲の動きへの警戒を緩めない。それは、「権力マニア」という岸田氏の見立てがあるからだ。
「岸田さんが何か首相としてのレガシー(政治的遺産)を残したいという理由で、任期中に憲法改正にチャレンジするのではないかと思う」。祖父の思いを継ぎ使命感をたぎらせた安倍氏でさえ成し遂げられなかった憲法改正。「岸田さんのソフトな雰囲気に油断していると、寝ている間に改憲に向けた動きは進んでしまいます。安心していてはいけませんよ」【葛西大博】
■人物略歴
小林節(こばやし・せつ)さん
1949年、東京都生まれ。法学博士。米ハーバード大ロースクール客員研究員などを経て、2014年まで慶応大教授。「小林節の憲法改正試案」など著書多数。近著に「『人権』がわからない政治家たち」。
何だかすっきりしたね!私に論理はないが、ぼーっと感じていることを小林節慶応大名誉教授が話してくれた気がする。私は共産党や旧社会党支持でも何でもない。たぶん、自民党の宏池会みたいな考えで今日まで来たのだと想像する。かと言って最近自民党に投票したことはないのだが(笑)。つい最近思ったのは、岸田総理が、一生懸命官僚に書かせたこじつけの原稿を読むだけなら、アナウンサーにやってもらったらいい!ということだ。あとお好きなのは車座になっての市民との対話、そんなものはテレビ用のただのジェスチャーではないのですか?と言いたい。
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