年明けて平成22年、初一の空を眺める。新しい年を迎え我に新しいこと芽生えるかと思いきや、今のところ特になし。そりゃじっと動かずとなれば当たり前。年改まって背筋を伸ばし抱負を語るは、若いご連中のなさること。大いにやってくれ。
我は古下駄もいいところ。鼻緒も緩み歯は欠け落ち、でこぼこ道をカタコト歩く。駄文を弄しつつ、まさに七転び八起きの態。それでも読者諸氏に支えられ、この1ページも3年を迎えるありがたきこと。根からの三位一体。つまり、僻(ひが)み嫉(そね)み妬(ねた)みで、世の中斜交い(はすかい)に眺め続けようと改めて思う。本年もよろしくお願い申し上げます。
年始めに思うことあれこれ。いろんな人がいる。年末も年始も宇宙で暮らす人、母親から何億もお金を貰う人。地震の被害を受けた人、不況に苦しむ人。同じ列島の人間ながら実にさまざま。いろんな人間がいて当然。しかし政治は見えるものしか相手にしない。見えていないのは見ようとしないからだ。その見えないものこそ大事なのだが。
新しい政権となって蜜月は過ぎ、支持率も低下。国民がそんなにマニフェストを信用していたとは思わないが、変化を求めていたのは確か。迷走を続ける鳩山首相、民主党政権。国民の意思で選んだに違いないが、気づけばアレレと思わぬ方向へ船首を向けたまま年が終わった。約束した政策は数多い。鳩山政権は地球温暖化対策を強力に推進するという。 (中略)
わが国で、少子化や晩婚化、あるいは非婚化がいわれて久しい。これは単なる社会現象だろうか。最近の紙面によれば結婚に子供は必ずしも必要とは思わないと考える人が増えているらしい。多様な価値観と現在の不景気による未来への漠然とした不安感がその一因だといわれる。故に雇用の安定、子ども手当支給、子育て支援の拡充が必要と識者はいう。
女性の社会での活躍は周知の通り。また核家族化が普通となって、子供を産み育てる環境は様変わりしている。育児支援はあってしかるべきこと。では、もしその支援が行き届き、漠たる影を落とす不況の風がやんだとして、少子化に歯止めはかかるのか。ぼくは甚だ疑問に思う。
不況というならば、昭和19年から21年あたり、出生率は向上している。戦中戦後のあの時代こそ、お先真っ暗。明日の食事もままならぬ世の中だった。今とは事情が違って、かってはよく赤ん坊が死んだ。食べ物は絶対量が不足、それは母親の母乳にも影響を及ぼす。また衛生環境も良くなかったし、医療が行き届かず、昔は兄弟も多かったが、そのうち一人や二人欠けて当たり前だった。今より生活は厳しかった。それでも人間が増えたのは未来に希望があったからだ。一面の焼け野原は絶望的であったものの、向こう三軒両隣、いずこも同じ。嘆いても始まらぬ。いっそ、あっけらかんとしたように思える。
ゼロからの出発は、どこへ行くにしろ気が楽。また前途洋々と思えなくもない。必死、がむしゃらの中に光があった。今、女性が子供を望まない傾向にあるならば、これは女性たちが動物の勘で、生物として子孫を残すことに、この環境では先はないと無意識に思い定めているためではないか。 (中略)
陰々滅々たるおじいさんの繰り言はこのくらいにして、さて、ちょっと一杯喉を潤し、初歌いにかかるとしよう。
毎日新聞 2010.1.16
野坂昭如氏は脳梗塞のリハビリ中とはいえその洞察力にはいつも驚く。小父さんも、もう一度生まれてきたらこれくらいの文章が書けるようになりたいものだ(笑)
我は古下駄もいいところ。鼻緒も緩み歯は欠け落ち、でこぼこ道をカタコト歩く。駄文を弄しつつ、まさに七転び八起きの態。それでも読者諸氏に支えられ、この1ページも3年を迎えるありがたきこと。根からの三位一体。つまり、僻(ひが)み嫉(そね)み妬(ねた)みで、世の中斜交い(はすかい)に眺め続けようと改めて思う。本年もよろしくお願い申し上げます。
年始めに思うことあれこれ。いろんな人がいる。年末も年始も宇宙で暮らす人、母親から何億もお金を貰う人。地震の被害を受けた人、不況に苦しむ人。同じ列島の人間ながら実にさまざま。いろんな人間がいて当然。しかし政治は見えるものしか相手にしない。見えていないのは見ようとしないからだ。その見えないものこそ大事なのだが。
新しい政権となって蜜月は過ぎ、支持率も低下。国民がそんなにマニフェストを信用していたとは思わないが、変化を求めていたのは確か。迷走を続ける鳩山首相、民主党政権。国民の意思で選んだに違いないが、気づけばアレレと思わぬ方向へ船首を向けたまま年が終わった。約束した政策は数多い。鳩山政権は地球温暖化対策を強力に推進するという。 (中略)
わが国で、少子化や晩婚化、あるいは非婚化がいわれて久しい。これは単なる社会現象だろうか。最近の紙面によれば結婚に子供は必ずしも必要とは思わないと考える人が増えているらしい。多様な価値観と現在の不景気による未来への漠然とした不安感がその一因だといわれる。故に雇用の安定、子ども手当支給、子育て支援の拡充が必要と識者はいう。
女性の社会での活躍は周知の通り。また核家族化が普通となって、子供を産み育てる環境は様変わりしている。育児支援はあってしかるべきこと。では、もしその支援が行き届き、漠たる影を落とす不況の風がやんだとして、少子化に歯止めはかかるのか。ぼくは甚だ疑問に思う。
不況というならば、昭和19年から21年あたり、出生率は向上している。戦中戦後のあの時代こそ、お先真っ暗。明日の食事もままならぬ世の中だった。今とは事情が違って、かってはよく赤ん坊が死んだ。食べ物は絶対量が不足、それは母親の母乳にも影響を及ぼす。また衛生環境も良くなかったし、医療が行き届かず、昔は兄弟も多かったが、そのうち一人や二人欠けて当たり前だった。今より生活は厳しかった。それでも人間が増えたのは未来に希望があったからだ。一面の焼け野原は絶望的であったものの、向こう三軒両隣、いずこも同じ。嘆いても始まらぬ。いっそ、あっけらかんとしたように思える。
ゼロからの出発は、どこへ行くにしろ気が楽。また前途洋々と思えなくもない。必死、がむしゃらの中に光があった。今、女性が子供を望まない傾向にあるならば、これは女性たちが動物の勘で、生物として子孫を残すことに、この環境では先はないと無意識に思い定めているためではないか。 (中略)
陰々滅々たるおじいさんの繰り言はこのくらいにして、さて、ちょっと一杯喉を潤し、初歌いにかかるとしよう。
毎日新聞 2010.1.16
野坂昭如氏は脳梗塞のリハビリ中とはいえその洞察力にはいつも驚く。小父さんも、もう一度生まれてきたらこれくらいの文章が書けるようになりたいものだ(笑)
やはり 障害を受けた部分にもよるとは思いますが
とてもおもしろく よみました
この国でも子供を産む数は減ってきていますね
婚期もおそくなっています
独身生活を楽しむ人は多いです。
先進国は贅沢になりすぎ 何かうを失ってるかも知れませんね
女達の動物的勘なるほど~
この手の表現は、文才ないものは本当に苦手で・・・
本は、読まねば!ですね~~
ありがとうございます。。。
アメリカでも少子化傾向はあるんですか。
日本は結婚しない若者が多いですね。
「婚活」なることばが生まれるわりには結婚しない
女性も多いですね。
>先進国は贅沢になりすぎ 何かうを失ってるかも知れませんね
実に、このことばが現代を表しているように思います。
文学をやる人って気が弱いんじゃないかと思うことがあります。
野坂昭如さん、40年くらい前に博多のテレビに出ていましたが、ベロンベロンに酔っていてアナウンサーがかんかんに怒っていました。太宰治も似た光景をよくみます(ドラマでですが)
野坂昭如氏のこのコラムはとても心地よく読めますね。
冷静に世の中を眺め淡々と綴られる言葉には、説得力があります。
良い方向にとがむしゃらに皆が進んできた方向が
正しかったのか、間違っていたのか
考えされられました。
若者の結婚しない症候群なんてpinkyさんの文章を読んでいてもそうかなー、と感じておりましたが、野坂昭如氏は今の社会を実によく把握してありますね。 かなりの読書量だと思います。
外交官を首になった天木直人元駐レバノン大使もこのコラムのとことを自分のブログでとりあげていましたね。