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論文IX 1.4章  「技術圏」のネットワークにおける分散化された機関(agency)

2020-03-10 15:31:41 | 社会システム科学

論文IX 1.4章  「技術圏」のネットワークにおける分散化された機関(agency)

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1.4  「技術圏」のネットワークにおける分散化された機関(agency)

自己触媒の議論は「技術圏」の存在論の中核的設問を提起している:

人間の機関(human agent)や機関性(agence)を人工体(artefacts)との関係でみるときにその 存在論的位置づけは何であるか?

ここでは、最近の社会科学での展開が、伝統的な機関(agency)を精査してきており、したがって異学際的総合への巨大な可能性(potential)を与えるまでになっている(機関性(agency)の確立した概念の全貌については、Schlosser, 2015をみよ)。

筆者はいくつかある思想の学派の中で、Actor-Network-Theory(行動‐ネットワーク-理論)を参照する。この理論について、必要な仮定すべての吟味を経たのではない(Latour, 2005)。

しかし、「技術圏」を理解しようとするときにもっとも生産的なのは「機関制」‘agencement’の概念であり、それは人間と人工体でのネットワーク「機関制」‘agencement’の出現としてとらえるものである(Callon, 2008)。

「機関制」‘agencement’においては、人類は原始時代的な位置付けを喪失している。この時代では、人類は機関(agency)の占有的所持者であり、そして人工体(artefacts)は、それ自体が機関(agency)の共同運搬者(co-carrier)になっていたのである。

より過激なアプローチとして、非‐人間、そしてときに「人工体」(artefacts)さえもがそれ自体が「機関」(agency)であるかもしれない。これはCallon(1986)の指摘であり、St.Brieuc Bayscallopsのセミナー発表であった:

Bennett(2010)の有名な表現「搖動的事態」‘vibrant matter’ではモノの逆「人間擬態化」reverse ‘anthropomorphization’ を、明示的に示唆したのであったが、これは科学的概念としての明確なものに至ってない。

とはいえ、これらの理念は社会科学と自然科学の間で交差する,殊に終結目標および意図(finality and intentionality)の二つの概念を結合するならエンジニアリングを伴う学際的総合の理念的な基礎を与えることになる。

 

認知科学での最近の展開は、さらなる展望を支持することになるが、認知科学は「こころ」‘mental’の定義において分散的な認知の役割りにひかりがあてられる。

ここで、人間のこころhuman mindは人工体のネットワークの上に拡張されたものとして概念化され、社会的相互作用は、このネットワークによって媒介されるのである(Hutchins, 1995; Clark,2011)。

一方、機関(agency)に関する沢山の概念のうちで非明示的個人主義を認識する必要がある。これは経済学ではいわく「方法論的個人主義」‘methodological individualism’として基礎的原理を形成するものである。

この設問は人間機関のグループではここであらわれる個人からの意図性に向かうのであり、その意図は個人の知識を対象にはなり得ない。

経済学では、この理念は厳密にハイエクHayek (1973, 1979)に追従している。

 

このことは、我々に対して、人間機関というときには、集合体的形態の役割りに向かわしめる(「集合体意図」‘collective intentionality’、Schweikard and Schmid 2013)。これによって、人工体と生物実体artefacts and biological entitiesとの間を区別する場合において、個人的機関individual agencyという概念制約を克服することになる。

 

このことは、人工体artefactsの多くの使用では、個人の意図で直接に決定するのではなく、その出現形式が大衆レベルでの進化をしている状態で決定されてくるのである。

文化的進化のレベルでは、我々は個人の仔細な意図を抽出することはできない(Hartley and Potts, 2014)。

例えば、実際には、暗黙の知識に基づいていて、個人にたいして透明性のない実際機能をルーチン化している状態である。

 

もし、分散的認知の観方を加えるならば、人工体が介在する集合体意図性の図式を得ることになる。

これは古典的な「精神学」‘Geisteswissenschaften’(Dilthey, 1883)につながる観方につながる、これは「対象精神」‘objective spirit’についてのヘーゲルHegelの概念に帰することになる(現代的解釈は、Herrmann-Pillath and Boldyrev, 2014を見よ)

 

もしこの見解を自己触媒構造の抽象的な概念につなげるならば、機関agcenyは、目的思考プロセスや人間集合体意図性の相互作用に関係づけることができ、これを起因的つながりcausal linkagesを作動するものとする機関制(agencements)と関係づけることができる。

それは、例えば次のことを意味する、我々は自己触媒動力学を「技術圏」についてより大きな動力学を観察すること、この動力学は進化の軌跡の方向性を確立すること、また人間機関human agencyを先導していく代表体間の相互作用、すなわち、人間による選択と行動を観察することを意味している(ひとつの重要なケースとして新石器時代での進化の評価がある、Rindos, 1984; Gowdyand Krall, 2016)。

 

蒸気機関の例が分かりやすいが、これが起きる主要な場は経済であって、そしてその役割りは技術変化である。

アフォーダンスAffordanceは、自己触媒サイクルと人間行動についての「技術性」agencementを構成する。現象論においては、Lingis (1998)が、人間行動への文脈的インパクトとのつよい結合表現として「定言」‘imperative’の概念を使った) 

 

まとめると、基本的な存在論的概念ontological notionとしての「技術圏」科学はもはや人間へ独占的に科せられるのではなく、人間を含むネットワークでの然るべき単位体に科せられるものである。

しばしばこれを積合体‘assemblages’と表すものである (De Landa, 2006)

かくして、機関agencyを反映させて、我々は「技術圏」について別の存在論的概念基本を導入するのである。これはシステム`system’よりもより精密なものとして見なすことができる。

この概念は重要である、なぜならそれが「技術圏」科学へのつながりを許すし、物理学、生物学、そして社会科学を橋渡しする豊かな研究ネットワークへ導くからである(Newman, 2010)、そしてさらに領域をこえたネットワークの動力学的変化を支配する原理へと洗練化していくことを許すものである(節7である選択規則性を同定するであろう)。

ここでは洞察的理解はひとつの「モノ」であって、我々はいま人工体artefactsをネットワークとして語ろうする。このネットワークは、異なる実体entitiesを含み。その実体はネットワークとして分析されるようなものである。

蒸気機関は単なるモノではなくて人間が介在はするが、人間の意図性によっての介在ではないという関係である、それは人工体のネットワークとしてのモノである。

人間機関human agencyはさらに、有機的ネットワークにむかい、それが分散化された認知アプローチの筋、人間同士を結ぶ社会的なネットワーク、さらにそれらはコミュニケーション技術などに媒介された社会環境に向かうものである。

 

もし、Kauffmanの概念にこれを関係づけるなら、「技術圏」での自律機関autonomous agentはより大きなシステムでの機関agencyの集合体としてあらわれるであろう。その大システムのなかで機関agencyが作動し、そのシステムのなかで人間は部分として含まれるのである。

 

(「技術圏」の)機関についての社会科学的な概念と比較するときに、これは仕事workの物理学的な概念が加わるであろう、つまり熱力学の取り込みである。熱力学は社会科学ではこれまで稀であった。この内包性については以下(6節)にて議論するものである。

 

この点にあって、熱力学の取り込みでは、我々は最終的には、人工体と生物学的実体との間の合成に向かう。そこでは機関agencyの任務が、人工体、生物学的実体そして(エネルギーと情報をプロセスする)人類の集積体に置かれることになる、つまり「自律的機関」‘autonomous agents’である。

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