先日、絹糸の糸繰りに失敗して染色済みの綛糸を2綛半も捨てる羽目になった。 すっごい損失だし・・・精神的にも打ちひしがれた・・・
ネットで、ワシのように細い絹糸の糸繰りをしているサイトが見つからなかったし、正しい糸繰りの方法について書いたものが無かったので、退屈ではあるが、このような記事を残しておけば、次に続く人の役に立つであろうと思ってこの記事を書いている。
近くに養蚕をやっていたおばあちゃんでも住んでいればすぐに聞けるのにね。
そこで、何が原因かを探るべく、さらに3綛を染色からやり直した。 自分でやって真理を探るのがワシのやり方だ。
まず、原因の1は、綛を購入時のビニール袋から取り出すところにあったようだ。 袋の中には幾つかの綛をくるくるっと捻って輪っかの中に細い別の糸が通っていた。 これを知らずに、1綛だけを取り出そうとしたところ、綛の形が崩れた。 細い絹糸がどこかに引っかかり、輪っかからはみ出てしまった。
細い絹糸は、静電気を帯びやすく何にでもくっつく。 指にもくっつこうとする。 指にささくれでもあろうものなら引っかかって1本だけ輪っかから飛び出したりもする。
まったく扱いにくい素材なのだ。
輪の中に通っていた糸をカットし、1個1個の綛に丁寧に分け、アルミのロッドケースを輪っかの中に通して歯ブラシの柄で輪っかをバンバンした。 (勢いよく伸ばすようにしごくことをバンバンと言ってます)。
それが下の写真。 よ~く見ないと分かりませんが、右端の輪っかには、はみ出した糸が不自然に出ているでしょう。 拡大してよ~く見てくださまし。
染色前の綛。 ほつれた糸が輪っかから、はみ出している
このほつれ糸が糸繰りを失敗させる原因の1なのである。
次・・・染色工程。
染色中は、絹糸を余りいじらない方が良い、と前に書きましたが訂正します。 輪っかから、はみ出すような行為はしない方が良い。 染色のプロは2本の棒を使って輪っかの中に棒を入れ、輪っかをくるくる回すようにして染色しています。
これは、深い鍋、ずん胴という鍋があれば有効な方法ですが、少量の絹糸を染色するには鍋の値段が高いのです。 ワシの鍋は高さ20㎝くらいの浅いステン鍋なのです。 これで十分染色できます。
浅い鍋の場合、染色液に綛を沈め、よく浸るように動かします。 その際に、糸に引っかかるようなものを使うことが問題なのです。 引っかかって輪っかからほつれ出る糸さえ出なければ動かすことは問題になりません。 浅い鍋に二本の棒でやろうとすると、かえって糸に引っかかったりしてほつれ糸発生の原因になりやすいのです。 それに鍋の下にはガスの炎が燃えていますので、二本の棒を動かしそこなうと、ほつれ糸は簡単に燃えてしまうような気がするのです。 浅い鍋には浅い鍋なりのやり方があるのです。 染色では、むしろ染めムラが出ないように注意が要ります。
ワシの場合、使い古しの歯ブラシの柄でかき回しました。 つるつるすべすべなので、いくら触っても糸が引っかかることはありませんでした。 ステンレスのスプーンを使っている方もおられます。 すべすべなのでね・・・浮いた綛糸を軽くつついたり回転させたりしてよ~く染色します。 綛を縛ってある部分には染めムラができやすいので念入りに染色液が回るように注意します。
次に、染色工程中のすすぎ洗いですが、今回はプラスチックのザルを使いました。 すすぎ洗いが必要な都度、鍋やボウルから液体と綛をザルに一気に空けます。 一気にザルに入れないで、チョロチョロ水が流れるように入れると、はみ出た糸が綛から離れようとしますので、綛が固まったまま一気にザルに入れるのです。 この際、何も引っかかるものもなく、綛はザルの底にベチャ~っと張り付きます。
その上から水道水(冷水の場合)とか、温水とかのシャワーをかけます。 そして指の裏側で綛を押すようにして水を絞り出します。 何回かこれを繰り返し、排水に濁りがなくなったらすすぎ洗い終了です。
こうすることで、ほつれ糸の発生を防ぐのです。 綛は綛の状態のまま平べったくなっています。
そして最後に絞るわけですが、平べったくなった綛を丸めて団子状にします。 団子にしても綛から糸がはみ出すことはありません。 掌に入るくらいの団子にして固く絞って水を切ります。 平らに戻してキッチンペーパで上下に挟み上から押しつけて水を抜きます。 これを何度かやります。
そして最後は、この団子を丁寧に広げるのですが、ひびろ糸を探します。 一つのひびろ糸をつまみ上げて、もろもろとくっついてくる綛を輪っかに近い形にそおっと広げるわけです。 そして次のひびろ糸を見つけて、今度は、それを横方向に引っ張ると、輪っかの中の空洞が現れます。 糸があちこちに行っていたとしても、この横ひびろの脇には、完璧な空洞・・・そこにはほつれ糸がない空間・・・があります。
見つけた空洞に掌を入れ、輪っかを静かに広げていきます。 その際、手や服のボタンやファスナーなどに糸が引っかからないように、ほつれ糸が発生しないように注意します。 (あったとしても仕方がありませんが)
そして両手の掌の裏側で輪っかをバンバンして糸を伸ばします。 このバンバンは固定した棒に通してビシバシやった方が綺麗にできます。 この輪っかに棒とか、適当なもの、ワシの場合は、Jの字をしたプラスチックのハンガーを使いましたが、吊るして乾燥させます。
ひっかけるのは、ひびろ糸が真上にくるように引っかけるんですよ~。
結果として、この染色方法で、新たなほつれ糸が発生することはありませんでした。 染色前にあったほつれ糸はそのまま残っていました。
最初の染色では、サーモスタット式温度計(天ぷら用)の柄でかき回した際に、棒の末端にあったステンの段差のところに糸が何度も引っかかり、ほつれ糸を自分で作っていた可能性がありました。
洗濯物と一緒にサーキュレーターの下で乾燥中
今回は、前に失敗したオレンジの21中3、1綛と、新たにグリーンの21中3、1綛、21中2、1綛、計3綛を染色しました。
さて、糸繰り失敗の原因の2に移りましょう。
失敗の原因2は、マイワへの綛のセットの仕方にあるように思います。
今回は次のようにマイワに綛をセットしました。
ワシのマイワは、針金製で、糸をかける部分は針金が波の形に波打ってます。 買ったときには、そこには平ゴムの輪を渡してあり、その平ゴムの上に綛糸が乗るように説明書きがあったように思います。
この波型は何なんだろう? と考えました。 ひょっとすると、この波型の上にひびろ糸(綾)を広げ、ひびろ(綾)が左右に動かないようにするためのものではないのか?、と・・・
これまでの糸繰りでは、綛の半ばあたりに来ると、綛糸が緩んで糸がマイワの幅の中央付近に集まる傾向にあったのだが、このゆるみは逆に踏みつけ糸=>上下の逆転=>引っかかり=>ほつれ糸の発生=>停止、という悪循環を発生させるように思っていた。 この波型で綛糸の左右への移動が無いようにできれば、問題解決に近づくのでは・・・
針金の上に直接、糸を置くと、綛糸のテンションが強くなりすぎて、踏みつけた糸が下から出てこなくなるんではないか・・・ということも考えねばならない。
では、波型の針金とほぼ同じ高さでゴムの紐が通っていたらどうなんだろう。 波型が、ひびろを固定し、ゴムが踏みつけのテンションを緩める、という具合に設定できれば、糸繰り中に綾が緩んで、ほつれ糸が発生することがなくなるんではなかろ~か・・・と。
そしてその通りにセットしてみました。 (そしてうまく行ったのです) 買ったときの取説は既に無いので、そう書いてあったのかもしれません・・・
最初に3本ほど、長くほつれた糸があったので、それぞれ、チチワにむすんで先っぽの輪をカットしました。 つまり、短くしてほつれ糸でなくしたわけです。 大量のほつれ糸がある場合には、これは無理ですね。
マイワ設定中。 綛糸は針金の波型とゴムの両方に乗っている。
ひびろ糸を良くチェックしたところ、裏返っているようなので(糸口が下にあったので)、丁寧に裏表をひっくり返しました。 この際のチェックは入念にやる必要があります。
ひびろ糸の結び目は全てが同じ方向に、手前なら全て手前、向こうなら向こうに、くるようにします。
マイワ上に軽く綛糸を置いた状態で、ひびろ糸をカットする前に、糸口をマイワ3周分くらいたどって上下が逆転している部分がないか、を調べましょう。
逆転が見つかったら、綾の一部がねじれているか、糸口が逆になっているか、という可能性があります。
綛糸全体が裏返っていて、糸口をたどると綛糸の下へ下へと行ってしまう場合は、綛糸全体を裏返します。
部分的なねじれだとわかったら、その部分を丁寧にひっくり返しましょう。 (注意してやる必要があります)
今回はひびろ糸自体が乱れていて、それを直線に伸ばしてみると、ひびろの各区間にねじれがあったので、針金の波型の上で、ひびろ糸を1直線に伸ばすようにして、綾の各区画を並べました。
そして波型の上にひびろ糸が来るようにして、できるだけ幅を広く、綾と綾の隙間に波の山が来るようにしました。
すべてのひびろ糸を同じように広げました。
このマイワは足が8本あるので、4つのひびろ糸が乗る足は1つ置きになります。 その中間の足には、ひびろが形成している綾の中間が乗ることになります(ここが綾によってクロスしているのです)。 この部分は、針金に直接乗らない方がスムーズに糸が出るはずです。 そこで、輪ゴムを少しだけ上にずらして綛糸が先に輪ゴムに触れるようにしました。 これで、踏みつけのテンションを弱めることができます。 輪ゴムを余り上にやると、糸がだんだん中央によってきて踏みつけの原因になるので、ほんの少しだけゴムを上にずらしました。
下の2つの写真を比較してみてください。 失敗の原因がマイワの設定にあったことがよくわかります。
波型の針金と輪ゴムに乗ったひびろの綾(正しい乗せ方)
綛を輪ゴムの上に直接乗せた場合(失敗例)
糸繰り失敗の原因3は、糸が引っかかった際に、糸が切れるということです。
糸が切れると糸口を失う原因になりますから、糸切れは重大な問題なのです。
糸が切れたとしても、糸口はマイワの外に残っていれば、再開するのは簡単なのです。
糸口を見失った場合の探し方は、前回書きましたね。 そう、掃除機の吸い込み口で綛糸の上をなぞると、切れた糸口が吸い込まれるので、見つかります。 この方法を知っていると安心ですね。
ワシの場合、モーターで玉巻きしてますから、糸が踏みつけ、や、ほつれ糸になった場合、切れやすいのです。
そこで、保険として、マイワと玉巻き器の間にクッションを入れることにしました。 糸が引っかかった時に、モーターの力が直接マイワの糸を引っ張らないように、ゼムクリップで作った輪っかと、ステンの針金を通すことで、引っかかるとステン針金のテンションで、糸切れを防ごうという訳です。
間にクッションを入れた糸繰り装置
モーターによる糸繰りは順調に進んでいますが、綛の半分くらいまで巻いたところ、踏みつけが多くなってきました。 綾のゆるみによるほつれ糸の発生は、今のところありません。
そこで、マイワの調整を実施しました。 綾糸の重なりが多い部分に目打ちを差し、やさしく横に広げました。 最初に設定したやり方で、波型の山と山の間に糸が落ち着くように、綛糸の幅を広くしました。
綾を広げています
綾を広げています
綛糸は波型と輪ゴムの上に乗っています
ほつれ糸の状態。 手前の2本だけで、ほとんど無いでしょ?
無事、糸繰り終了です
1綛5000mで駒10個です
糸繰り中に糸が引っかかって切れたのは・・・それでも・・・4回くらいでした。 驚異的な改善です!
続いて、グリーンの21中3の糸繰りです。
オレンジとまったく同じようにマイワをセットして糸繰り開始。
糸繰り開始です。
マイワを上記のように設定し、中間で1~2度、設定しなおしたことで、グリーンの21中3は、最後に1回糸切れしただけでした。 その他で糸繰りの中断は全くなしでした。
ほとんど完了です。
これで自信をもって染色、糸繰りが行えます。
追加です。(2019・10・25)
糸繰り中に絹糸が絡んでプッツンと切れる現象の、もう一つの原因が分かりました。
それは糸車(マイワ、五光、トンボ、等とも言う)のブレーキングシステムにもあることが分かりました。
ここではマイワと呼ばしていただきます。
マイワから糸を繰り出して行き、糸巻きに巻いていくんですが、その際に糸に常に一定のテンションがかかっている間は、ほつれ糸があっても糸が解けていきます。 が、なんらかの拍子に、マイワの方が先に回ってしまい、繰り糸にゆるみが出た時が問題になります。
もともと枷糸は、S撚り、Z撚り、双撚り、など、撚りがかかっています。 この糸に一定のテンションがかかっている間は、糸は一本、まっすぐで巻き取っても問題ありません。 が、この糸をいったん緩めると、撚りが戻り、くるくると回転するようになります。
マイワ上で、ほつれ糸が何本かあって、その脇を繰り糸が引っ張られて巻き取られています。 この繰り糸にゆるみが出た時にくるくると回転し、周囲にあるほつれ糸と絡みつきます。 そしてそのまま引っ張ると、解けずに切れてしまうのです。
通常マイワには、ブレーキになるように、軸になる部分に紐を通し重りを下げます。 おもりと紐の摩擦によってマイワの空転を避けるのが目的です。 が、巻き上げ速度にムラがあったり、一部引っかかって突然解き離れたりすると、マイワが空転します。 その時に繰り糸にゆるみが出て撚りが戻ってしまうのです。
繰り糸が切れない程度にマイワの回転にブレーキがかかっていれば、繰り糸のテンションは一定となり、糸の絡みはなくなるでしょう。