フライフィッシングをより楽しいものにしようとシルクラインを10数年前から自分で編み始めたんだが・・・
シルクラインに色がついていたら、もっと楽しくなるんではないか、という考えが浮かんだ。
これまで編みあがったシルクラインを草木染で染色したことはあり、それはそれなりに心浮き浮きするものだった。 誰も使っていない色のシルクライン・・・それも自分で編んで自分で染めて自分でコーティングしたシルクライン・・・
玉ねぎの茶色い皮でブラウンのシルクライン、竹の葉でグリーンのシルクライン、セイタカアワダチソウで黄色いシルクライン、それぞれそれなりに良かった。
だが、模様の入ったシルクラインを編んでみたいな・・・世界に1本しかない自分だけのシルクライン。
ワシの知る限り模様の入ったラインは、Thebaultの赤い線の入ったラインくらいかなあ。 そのThebaultも最近では見かけなくなった。 そこまでロマンを求めるFFマンがいなくなったのかなあ・・・
でもいい、ワシひとりでもロマンを追い求めるのだ。
模様の入ったシルクラインを編むには、編んだ後での染色ではできない。
それぞれの色に染色した絹糸を使って編む必要があるのだ。
これだけで手間は何倍にも増えるのだ。
まず、綛(かせ・・・輪っかに巻いてある絹糸の束)状態の絹糸を買わねばならない。 糸駒に巻いてしまっては糸の染色ができないのだ。
そして、21中2、21中3、という細さの絹糸を仕入れて、染色を試みた。
21中というのは・・
繭玉1個から取れる生糸の太さは3デニール。
1デニールというのは重さの単位で絹糸は重さで売買される。 1デニールは9000m(九千メートル)で1グラムとなる重さの単位。 吹けば飛ぶような天女の羽衣のような軽さ。 蚕は口から3デニールの糸を吐き出してまゆをつくる。
これでは細すぎるし、引っ張り張力も弱い。 それでも1デニールで3~4グラムくらいの錘はぶら下げられるそうだ。 だから何本も合わさると強い糸になる。
繭から糸をとる工程では、通常、繭7個からそれぞれ3デニールの糸を合わせて、3x7=21デニールの糸とする。 繭9個で3x9=27中という糸もある。
繭から糸をとる、この工程は、座繰り(ざぐり)と呼ばれる。
21中の 中(なか) というのは・・・蚕は生き物である。 繭を作るとき、蚕は繭の外側から糸を吐いて行き、次第に内側を作っていく。 最初は蚕の栄養状態は良く、元気なので、太目の糸を吐くのだが、次第に弱っていき、繭の一番内側の糸を吐くときには・・・体力の限界!(ウルフ 千代の富士)・・・その糸は細い糸となってしまう。
そこで、座繰りの名手は、どのあたりで予備の繭糸を追加するのか判断して、絹糸全体がほぼ同じ太さとなるように調整しているのである。 だから・・・中(なか 平均ちゅうことかな)・・・と呼ばれる。 7個の繭を中心に糸を引くのだが、鍋の中には調整用の繭も何個か浮かんでいる。
21中2 という糸は、繭からとった最少の太さである21中1という糸を2本撚り合わせた糸、21中3は3本撚り合わせた糸のことなのだ。
なぜこんなに細い糸を使うの? と思うでしょ? それは最大のFlexibilityを考えたから。
シルクラインを編むにあたっては、ラインの番手、テーパー部の糸の太さ、など、さまざまな太さの絹糸が必要となる。 DT#3用、DT#4用、DT#5用・・・と、それぞれ用の太さの糸を仕入れた場合、膨大な絹糸在庫が必要となる。
必要な都度、合糸(ごうし)という作業をすることで、ほしい太さの糸を作り出せる。 2と3があれば、どんな数字も作れるでしょう?
2、3、2+2=4、2+3=5、3+3=6、2+2+3=7、3+3+2=8、3+3+3=9・・・とね。
だから・・・染色は21中2、と、21中3の綛(かせ)糸を染色することになるわけ。
染色自体はうまくいった。 デルクスという酸性染料を使った。 1日で何綛かの染色と乾燥が完了した。 1日で終わったのは、部屋のサーキュレータの下に染色後の絹糸をぶら下げておいたから乾燥が短時間で済んだからだ。 ふつうは日陰で陰干しの自然乾燥なので時間がかかるはずだ。
問題は、染色後の綛からの糸繰りという工程。
綛状の絹糸は、1周1.27mで、4000回位巻かれていて、綛1つで5000m以上の長さがある。
これを、マイワ(あるいは五光)という回転器具にかけて、糸繰りをして、より小さく扱いやすい糸駒に巻き取っていく。 この工程を糸繰り(いとくり)という。
綛には、綾(あや)という工夫がされている。 絹糸は、必ず綾かけ状態で巻いてある。 さもないと糸が先に巻いた糸の間に潜り込んで、糸口が分からなくなり、二度と取り出せない、なんていうことになる。 実際に何度もそういう経験をしている。
綛を巻くときには、巻きながら、左右に首をふる装置で交互に斜めに糸を巻いていく、 そうすれば上の糸は必ず下の糸の上に交差する。
この綾を、綛に巻いた時と同じ状態でほどけるように、ひびろ、あるいは、あみそ、という糸が綛糸と直角方向に何か所か縫い付けてある。 このひびろがないと、綛をあちこち動かしている間に、せっかく巻いた綾が乱れて、綛から糸を取り出せなくなるのだ。
ここが本日の問題なのだ。
染色する際、綛は、洗浄、すすぎ洗い、染色、すすぎ洗い、色の固定剤、すすぎ洗い、乾燥・・・と幾度となく動かされる。 すすぎ洗いでは、水を切るため、絞ったりする。
だから、この間に綾がみだれないように注意が要るのだが・・・やっちまったんだな、たぶん・・・
染色自体は、何度もやったが、簡単にできる。
糸繰りの段階になって問題が噴出する。
プロの染色では、綾を乱さないように綛の輪の中に2本の棒を通して輪の状態のまま染色するような工夫がなされている・・・が・・・これをするには深い鍋が必要になる。 家庭用の浅い鍋では、かえって糸を何度も動かすことになる。
マイワの上に注意深く綛を乗せる。 全ての ひびろ の結び目を手前に来るようにし、綛がねじれていないことを確認。 ひびろは1綛に3か所、或は4か所入っているが、そのうちの1つにだけ綛糸の巻き始め、巻き終わりである 糸口(いとぐち) が結び付けられている。
話の糸口とかいいますよね。 つまり、とっかかり。 糸口がないと話がすすまない・・・
どっちが巻き始めでどっちが巻き終わりなのかを注意深く調べます。
ひびろ をカットする前に、いずれか一方の糸口を辿っていきます。 スムーズに糸のでる側を選択し、糸口をなくさないようにマイワに仮に固定しておきます。 そしてすべての ひびろをカットするのです。
やっと糸繰り開始です。
手巻きの糸繰り器でゆっくり、ゆったりと巻いていく分には問題は出ないのかもしれませんが、ワシの場合はせっかちなので、モーター式の玉巻き器で巻いているのです。 それでも1綛の糸を全部巻き取るのに丸1日かかるのです。 なんせ5000mですから・・・
マイワに巻いた綛糸の張りが強すぎても、弱すぎても、スムーズに糸繰りができません。 綾かけに巻いてあるとはいえ、ひびろで綾を固定してあったとはいえ、綾の部分部分がねじれていて、上下が逆転している部分もあるのです。
下に輪ゴムで弾力をつけ、ふわっとした張りのある状態でマイワに乗っていなければなりません。
張りが強すぎると、踏みつけられて下になっている糸が出てきません。
逆に、綛状態の時に、一部に糸のゆるみがあったりすると、糸を引き出す際に、もつれが発生します。
また、糸繰りが進んでくると、ゆるみが次第に多くなってきます。 ねじれの下から引っ張り出した糸は緩んで上に出てきたりするのです。 糸の残量が当初の半分くらいになった時には、マイワ上の綛糸は、真ん中の方に寄ってきます。 当然踏みつけが多くなってきます。 やんわりと広げてやり、マイワの張りの強さを調整します。 そして糸の出具合をしばらく注視します。
考えてみてください、左右に振りながら巻いてある糸をほどいていくんですから、斜めに く の字になっていた部分が伸びて、ゆるみとして糸繰りの邪魔をするようになるのです。
染色時にいじくりまわした綛糸には、最初からこのゆるみがあるのです。 かりに染色後にゆるみが無かったとしても、せっかく入れた綾が仇となってくるのです。
綛糸が緩んでくると、糸には撚りをかけてあるので、隣の糸にくるくるっと巻きついたりして引っかかってしまうのです。
撚りの強い糸の場合は、緩むと悪さを始めます。 これを避けるには、常に糸にテンションをかけておくことなのです。
引っかかったまま、糸繰りを止めないと、ブツッと糸が切れてしまいます。 ここがモーター式糸繰り器の問題点です。
・・・そして大事な糸口を見失ってしまうのです。
糸口を失った綛糸は、もうダメです。 (解決策は見つけました。 最後にあります)
下の写真の綛から糸繰りでまきとった駒は、たった一つでした。 綛糸は 捨てる羽目に・・・糸口を失っただけで・・・
糸口が見つからないので、じゃ~別の部分から始めよう・・・とするとスムーズに糸が出てきません・・・交差していますから・・・
そうこうしてると、こんな状態になっちまいます。
悪あがき・・・手駒で糸をくぐらせながら巻いてみましたが・・・途方もない時間がかかります・・・途中で投げ出しました。 半分は回収しましたが・・・
そして残りの綛糸は、こんな状態に
合計で、黄色1綛半、オレンジ色1綛を捨てる羽目になりました。
どういうわけか・・・21中3(ひびろ4か所)ばかりがダメになり、21中2(ひびろ3か所)はすべてうまく糸繰りができたのです。 なんでかな~・・・ひびろが多い方が緩みやすいのかな~? だれかおせ~て・・・
これだけの記事では、な~んだ、ただの失敗談か・・・と思われるでしょうが・・・続きがあるのです。
やっと見つけた糸口の発見法
ブツッと切れて見失ってしまった糸口が見つかれば・・・そこからまた糸繰りが続けられるのです。
正しい糸口が見つかれば、踏みつけられていても、引っかかっても、引っ張り出せるのです。 巻いてあるだけなのですもの。
だから、糸口は大事なのです。
この方法に気付くまでに2綛半の染色後の綛糸を無駄にしたのです。 なんと高価な代償・・・
掃除機を使うのです!
マイワに乗った綛糸の上に、掃除機の吸い込み口を近づけ、マイワをゆっくりを回すのです。 綛糸がほどけける方向にマイワを回すのです。
すると、糸口が掃除機に吸い込まれるので・・・見つかるのです。
高価な絹糸を捨てるなんて・・・と 先達からお叱りを受けるのは間違いありませんが・・・捨てる前に、こんな悪あがきもしているのです。
乱れた綛を小分けにして、手巻きしよう・・・とやってみましたが、結局綾の乱れは解消できず、時間ばかりが過ぎていきました・・・膨大な時間が・・・
そして、うまく糸繰りが完了したのは・・・
21中2 黄色、オレンジ 各1綛 こちらは順調にモーター糸繰りが完了。
21中3 黄色 半綛 (途中でゆるみが発生して半分没) なぜ21中3は失敗が多い。
ロマンに満ちたシルクラインを編むには・・・膨大な時間が・・・かかるのです・・・だが、きっと成功して見せる・・・