平成22年11月5日の日経新聞に、三菱重工相談役(当時)の西岡喬氏が「私の履歴書」に、東大航空科時代の想い出を書いている。その中に有名な零戦設計者の、堀越次郎氏の教師としての想い出を書いている。教授メンバーは守屋冨次郎氏の他にもそうそうたる人たちが揃っているのだが、西岡氏の語る堀越氏の授業は異色である。
「習ったのは最初から最後まで重量についてだけだった。・・・週一回の講義に見えては、グラム単位で、主翼など機体の重量や重心の計算ばかりする。」というのだ。
堀越氏の言葉で「航空機は重量が命だ。小数点以下まで細かく計算をしなくてはだめだ」というのを今でも覚えているそうだ。防大で堀越氏から授業を受けた人も、全く同じように、重量計算だけやらされた、と証言していたのを読んだ記憶があるから、どこで教えても同じだったのだろう。
堀越氏の授業を受けた両氏とも、尊敬している風なのだ。しかし、いくら重量軽減が大切だから、と言って重量計算だけしかしない、というのは余りに偏頗ではなかろうか。堀越氏らの世代は、戦後の日本人航空技術者と違い、何機もの航空機の設計の主務をした貴重な経験を持つ。その経験から、若い技術者の卵に教えることのできることは、重量以外にもいくらでもあるのではないか。余りにもったいない気がするのである。