「走れ!」
何だこの歩道は!
「千葉県鋸南町雑草の楽園 入場無料」
「また出直しだ」
トンネルの壁と車道の間に1メートルに満たない幅で白線が引いてある。
必死で走る。
「ブォー ブォー 」
凄い爆音で何台もの車が直ぐ脇を通り過ぎる。
「ブォー」
「ブォー」
何回トンネルをくぐったろう。
もう勘弁してくれ。
「ブォー」
「ブォー」
やっとトンネルを抜けたと思ったら
車道の脇にお情け程度に引かれた白線があるも、雑草で覆われ歩けたものではない。
「ブォー」
またトンネルかよ。
「命が惜しけりゃ走れ!」
必死の思いは不思議と足の痛みを忘れさせる。
トンネル内では無灯火の車が一番怖い。
歩行者と認識されているか分からないから。
だから大袈裟に腕をふって走る。
「ブォー」
「ブォー」
「お彼岸のお中日には必ずお墓参りに行きます。だから連れて行かないでください。じぃちゃんお守りください。」
心の中で叫んでる。
「ブォー」
「助けてくれ。歩道よ出てきてくれ」
「ブォー」
幾つものトンネルを全力で走り抜けた。
「あっ!歩道だ」
何個めかのトンネルを抜けだしたら、対向車線に歩道発見。
「助かった!」
何だこの歩道は!
「千葉県鋸南町雑草の楽園 入場無料」
生きているから冗談も言える。
雨も止みました。
「御大層な演出だな。こちとら命がけだぞ」
足が痛くて体は疲れきっています。
「こんな状態で館山に着くのが目的ではない」
「まだまだ力が足りないんだよ」
館山まであと7キロ。
ゴール目前の「富浦」で断念した。
「あれだけ練習したのにな」
「2日合計100キロ踏破も目前なのにな」
失敗したのはトンネルのせいではない。自分に力がないからだ。
「また出直しだ」
18:22富浦発千葉行き各駅停車入線。
電車が各駅に停車する毎に、1ページづつ今日の思い出が白紙にリセットされる。
機械的なアナウンスを聞いてはいるが、流れる夜景の彼方には、明らかに犬吠埼を挑む自分がいる。
大丈夫だ、心は折れていない。
未熟者アドベンチャーレーサーの挑戦は続く。