あの踏切を見逃したのは不覚だった。
あの直ぐ側に姉ヶ崎駅があり、“あの踏切”はその約2キロ先にあるはず。
間違いない、見覚えある住戸。
これだ!
向こう側に渡ってみる。
道は閉ざされ雑草に覆われていた。
突然踏切が鳴り出した。
電車が恐ろしい程に近い。
遮断機がしっかり上がってゆく。
絶対、写真に納めなければならない代物。
木更津までの50キロ踏破はこれで4回目だが、足を鍛える以外に目的があるのは今回が初めて。
どうしても忘れられない“あの踏切”がある。
朝、9:00出発。
これから10時間、歩きっぱなし。
昨日、草加市まで歩いた30キロと、今日50キロと・・・。
何かと戦おうとしている自分がいる。
第一目標は30キロ先の姉ヶ崎駅。
会社の健康ウォーキングキャンペーンに意地になって反駁しているのか。
「いや、何かが違う。」
大事なものって何なんだ・・・。
あの3本の煙突が姉ヶ崎のランドマーク。
あの直ぐ側に姉ヶ崎駅があり、“あの踏切”はその約2キロ先にあるはず。
間違いない、見覚えある住戸。
あの横だ。
これだ!
絶対人が通らないような踏切。
両サイドは雑草に覆われ誰も使わない踏切。
向こう側に渡ってみる。
道は閉ざされ雑草に覆われていた。
「君の目的は何だったんだ。今、何なんだ」
改めて向こう側から戻る。
突然踏切が鳴り出した。
「この踏切は見捨てられたのに律儀に役目を果たしているのか!」
電車が恐ろしい程に近い。
遮断機がしっかり上がってゆく。
周りの静けさが昼間なのに不気味さを醸し出し、一方、見捨てられても役目を果たす物悲しい遮断機、哀れな警告音。
「今日の50キロ踏破は君に会う事が目的だったのに・・・」
誰にでも存在意義がある。
自分がけなした会社の「ウォーキングキャンペーン」も、運営している人間は自分を殺して頑張っているんじゃないのか。
皆から馬鹿にされても家族のために会社の指示を遂行しているんじゃないのか。
夢に向かって楽しむ事は幸せな事だが、自分を殺し歯をくいしばって生きている価値観を非難できるのか。
人の評価はどうでもいいと言いながら
卑しくも自分は人を評価している事に気づいていなかった。
「また会おうな、踏切君」
「行くぞ!」
残り木更津まで17キロ。
万歩計は50,000歩を越えた。
「明日、歩数を入力したらウォーキングキャンペーン運営サイドもビックリするぜ。喜んでくれるだろうか」
未熟者アドベンチャーレーサーの挑戦はつづく。